やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 世界中の高齢化が進む中,高齢社会のトップランナーである日本が,いかにして高齢者の健康問題を解決するかが注目されている.国内では,時代とともに変化してきた高齢者像に適応するため,高齢者の定義を見直す必要があるのではないかといった議論が始められている.高齢者を取り巻く流れが大きく変わろうとしている中で,高齢者に対する理学療法は,変化する必要はないのだろうか.
 理学療法の対象は,病院や地域において多少の違いはあるものの,主体となるのは高齢者である.これまでの理学療法教育は,疾患あるいは症候別に分類されて系統的に実施されてきた.例えば,脳血管疾患や大腿骨頸部骨折といった疾患に対する理学療法,筋力低下や歩行障害に対する理学療法など,専門化した知識と技能が成書としてもまとめられている.高齢者の理学療法を実施する場合に,しばしば遭遇するのがこれらの複合的な状態である.脳血管疾患の後遺症と大腿骨頸部骨折を有し,筋力が著しく落ちて歩行能力が低下した高齢患者は珍しくはない.そのため,高齢者の理学療法を実施するうえでは,疾患や症候別に分類された知識に加え,これらの複合的な状態に対処するための知識や多様な環境下での理学療法の習得が求められる.
 これまでの理学療法士の多くは,卒業後の勤務地として主に病院を選択して従事してきたが,介護保険領域(施設や通所ケア)に就職する理学療法士も多くなっている.どの職場であっても高齢者に接する機会が多い中で,高齢者に特化した理学療法を在学中から学ぶ必要性が出てきている.臓器別に診療科が設けられる病院とは異なり,介護保険領域の理学療法は総合的な視点から広く対象者をとらえ,時期,場所,目的,目標に応じた対応が求められる.それらの知識を系統的に学ぶために,本書では,1.高齢者の理解,2.時期(場所)による理学療法の特徴,3.高齢者の評価と管理,4.各種疾患および老年症候群に対する理学療法,5.高齢者理学療法の実践を含む構成としている.執筆者には,わが国の高齢者理学療法をリードする専門家,老年医学や体育学のトップランナーを迎え,最新知見と豊富な経験に裏打ちされた実践方法を紹介いただいた.
 本書は真に高齢者の理解を深める内容となっており,理学療法の教科書として,また臨床での参考書として活用され,多くの高齢者に最良な理学療法を提供する一助となることを期待している.
 2017年2月吉日
 総編集
 島田裕之
 序(島田裕之)
1章 高齢者の理解
 1.日本人の老化(鈴木隆雄)
 2.筋骨格系の加齢変化(山田陽介)
 3.神経系の加齢変化(堀田晴美)
 4.内分泌系の加齢変化(秋下雅弘)
 5.心理・精神機能の加齢変化(粟田主一)
 6.社会的機能の加齢変化(藤原佳典)
 7.高齢者を取り巻く社会環境の変化(高橋 競,飯島勝矢)
 8.日本の社会と人口動態(上村一貴)
 9.高齢者の社会保障制度(水本 淳)
2章 時期(場所)による理学療法の特徴
 1.急性期(三栖翔吾)
 2.回復期(平井達也)
 3.維持期:施設入所(平瀬達哉)
 4.維持期:在宅(通所と訪問)(吉松竜貴)
 5.予防期(浅川康吉)
3章 高齢者の評価
 1.包括的高齢者評価(医学評価)(神ア恒一)
 2.体力の評価(土井剛彦)
 3.認知機能の評価(牧迫飛雄馬)
 4.心理・精神機能の評価(西田裕紀子)
 5.生活の質の評価(小野 玲)
 6.社会状況の評価(池内朋子,新開省二)
 7.生活機能の評価(中窪 翔)
 8.老年症候群の評価(橋立博幸)
 9.身体活動の評価(原田和弘)
 10.基本動作の評価(越智 亮)
 11.生活環境の評価(住環境を中心に)(鈴木英樹)
4章 高齢者理学療法における管理
 1.理学療法中のバイタルサインの管理(阿部 勉)
 2.栄養管理(大塚 礼,木下かほり)
 3.服薬管理(梅垣宏行)
 4.疼痛管理(下 和弘,松原貴子)
 5.術後管理(山田英司)
 6.訪問リハビリテーションにおけるリスク管理(平野康之,井澤和大)
 7.住宅改修(小林聖美)
 8.退院時指導(井上靖悟)
 9.チームケアを行う際の留意点(加辺憲人)
5章 疾患における高齢者理学療法
 1.変形性関節症に対する理学療法(木藤伸宏)
 2.大腿骨頸部/転子部骨折に対する理学療法(藤田博曉)
 3.脳血管疾患に対する理学療法(関 崇志,阿部浩明)
 4.パーキンソン病に対する理学療法(大森圭貢)
 5.脊髄小脳変性症に対する理学療法(小林量作)
 6.神経難病に対する理学療法(八木幸一)
 7.関節リウマチに対する理学療法(三本坪大)
 8.心疾患に対する理学療法(井澤和大,平野康之)
 9.呼吸器疾患に対する理学療法(桑島泰輔)
 10.その他の内部障害に対する理学療法(西田裕介)
 11.がんに対する理学療法(井平 光)
 12.認知症に対する理学療法(山上徹也)
6章 老年症候群における理学療法
 1.転倒予防に対する理学療法(山田 実)
 2.サルコペニア・フレイルに対する理学療法(山田 実)
 3.ロコモティブシンドロームに対する理学療法(新井智之)
 4.尿失禁に対する理学療法(田舎中真由美)
 5.MCIに対する理学療法(土井剛彦)
 6.うつに対する理学療法(牧迫飛雄馬)
 7.誤嚥に対する理学療法(高橋浩平)
 8.低栄養に対する理学療法(吉松竜貴)
 9.褥瘡に対する理学療法(前重伯壮)
 10.痛みに対する理学療法(肥田朋子)
7章 高齢者理学療法の実践-基本編-
 1.高齢者に対する接遇(三栖翔吾)
 2.認知症高齢者に対する接遇(鈴川芽久美)
 3.理学療法に非協力的なときの対応(波戸真之介)
 4.行動モデルによる動作介助(小林和彦)
 5.医療安全:有害事象の予防と対応(齋藤 洋)
 6.限られた時間・人員での効果的な対処法(林 悠太)
8章 高齢者理学療法の実践-応用編-
 1.高齢者の状態に応じた理学療法の視点(島田裕之)
 2.ベッド上ポジショニング(牧野圭太郎)
 3.歩行の動作介助(太田 進)
 4.歩行自立の判断(永井宏達)
 5.家庭復帰が難しい場合のゴール設定(塩見耕平)
 6.脳卒中の機能的予後予測(原田和宏)
 7.大腿骨頸部骨折術後の機能的予後予測(岡澤和哉,加藤 浩)
 8.ロボットを用いたトレーニング(伊藤直樹,近藤和泉)
 9.独居高齢者への支援(澤 龍一)
 10.社会参加の促進(上出直人)
 11.集団に対する指導(堤本広大)
 12.地域保健事業(介護予防事業)での予防活動(下井俊典)
 13.訪問リハビリテーション(大沼 剛)
 14.高齢者ケア事業所の開業(山口良太)

 Q&A
  エンド・オブ・ライフケアにおける理解は?(西川満則)
  介護予防事業における留意点は?(加藤智香子)
  高齢者への物理療法の適応および留意点は?(吉田英樹)
  高齢者に対する適切な歩行補助具(杖)の処方方法は?(奥 壽郎)
  開発途上国における高齢者理学療法の実際は?(木原由里子)
 One Point
  脱水への対応(飯島勝矢)
  拘束と虐待への対応(平瀬達哉)
  睡眠障害への対応(中窪 翔)
  骨粗鬆症への対応(新井智之)

 索引