やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭に寄せて
 多くの医療の現場で栄養サポートチーム(NST)が整備され,栄養療法に関する最新の知見が臨床現場に導入されるようになり,多くの患者に福音がもたらされるようになりました.しかし,私自身,消化器外科医として手術,抗がん剤などのがん治療に従事し,ときに進行していくがん患者さんの終末期を支援させていただくなかで,がん治療における栄養サポートの重要性とともに,薬物療法,栄養療法の限界も感じるようになりました.
 近年,欧米を中心に悪液質についての新たなコンセンサスが提唱され,悪液質の定義,病態,病期の設定に加え,リハビリテーションを含めた多方面からの介入の必要性が盛り込まれ,薬物療法,栄養療法単独での介入の限界を感じ始めていた医療現場に大きなインパクトを与えました.そうした機運が国際的にも醸成されてきた時期に,わが国でリハビリテーションには栄養が必要という「リハビリテーション栄養」の概念との出会いはリハビリテーションの知識の乏しい自分にとってまさに天恵でした.その出会いのおかげで日本リハビリテーション栄養研究会の第2回大会が,悪液質をテーマに京都で開催され,多くの先生方とディスカッションを重ねていくなかで本誌の企画が考想されました.
 悪液質については過去にも多くの知見が報告されてきましたが,新たな定義,病期,栄養療法だけではなくリハビリテーション,精神療法などの多職種による複合的な介入の必要性が提唱されたことにより,従来の知見が見直され,新基準に基づいた臨床試験がはじまり,新たな知見が得られることが期待されています.本書はこうした悪液質の概念の黎明期に,最前線でご活躍されている先生方のご協力のおかげで,がんだけではなく,さまざまな疾患に対して最新の情報が数多く盛り込まれ,悪液質に関する研究の現状を明示にした他に類をみない書になったと自負しています.是非,多くの方々に,本書を手にとっていただき,新たな研究,眼前の患者さんへの最適な治療,支援を考える一助にしていただければと願っています.
 最後にご多忙のなか,執筆いただきました先生方には本書の主旨にご理解,ご協力いただきましたこと,厚く御礼申し上げます.また,慣れない監修作業のなかで至らぬところを調整,ご指導いただきました医歯薬出版株式会社の小口真司さんにあらためて深謝申し上げます.
 2014年2月吉日
 荒金英樹
 若林秀隆
第1章 悪液質とサルコペニア
1.悪液質とは
  定義 症候 分類 今後の課題
2.サルコペニアとは
  サルコペニアとは サルコペニアの分子メカニズム おわりに
3.悪液質のメカニズム
  悪液質 食欲・摂食調節 悪液質での食思不振 悪液質におけるサイトカイン
  悪液質における脳-腸-脂肪-筋のクロストーク サルコペニア
  筋萎縮のメカニズム グルココルチコイドとインスリン おわりに
4.悪液質の対応
 (1)緩和ケア総論:悪液質に対する緩和ケア
  ホスピスから緩和ケアへ 緩和ケアの変化 わが国の緩和ケアとがん対策
  緩和ケアにおけるがん悪液質の疫学と症候
  全人的苦痛の視点からみた悪液質に対する緩和ケア
 (2)リハビリテーション栄養総論
  リハビリテーションと栄養の相補的な関係 リハビリテーション栄養とは
  リハビリテーション栄養の実践 リハビリテーション栄養の悪液質への応用
  がん悪液質のステージとリハビリテーション栄養の必要性
  リハビリテーション栄養とチーム医療 おわりに
 (3)薬物療法
  悪液質における薬物療法の位置付け 薬効の概念 薬剤別各論
 (4)運動療法
  悪液質による運動機能低下 運動機能評価 悪液質の運動療法
 (5)栄養療法
  悪液質による栄養障害 二次性の栄養障害の予防
  悪液質の病期に応じた栄養カウンセリング 家族を含めた栄養指導
 (6)心理療法
  悪液質による心理障害 心理評価 悪液質の心理療法
 (7)摂食・嚥下リハビリテーション
  悪液質による摂食・嚥下障害 摂食・嚥下機能評価
  悪液質の摂食・嚥下リハビリテーション
第2章 主な疾患の悪液質に対するリハビリテーション栄養
1.がん
 (1)総論
  はじめに がん悪液質の定義 がん悪液質の病態 悪液質のステージ
  がんと栄養 介入方法 何を目標にするか
 (2)外科周術期
  はじめに がん悪液質に対するリハビリテーション栄養 周術期管理の工夫
  おわりに
 (3)化学療法(がん薬物療法)
  はじめに 進行・再発がんにおける栄養障害 進行・再発がんに対する化学療法
  がん悪液質に対するリハビリテーション栄養 GPSと免疫栄養療法
  新規の薬物療法 おわりに
 (4)口腔衛生
  がん悪液質に対する口腔ケアの重要性 症状 対応 周術期口腔機能管理
 (5)がんリハビリテーション
  がんリハビリテーションの必要性 がんリハビリテーションの概要
  がん悪液質とリハビリテーション がんリハビリテーションの実際
2.慢性心不全
  はじめに 心臓悪液質とは 心臓悪液質の病態 慢性心不全の骨格筋
  心臓悪液質に対するリハビリテーション栄養 心臓悪液質の栄養管理
  心臓悪液質の運動処方 おわりに
3.慢性閉塞性肺疾患
  はじめに COPDにおける低栄養の原因 COPDと悪液質 COPDとサルコペニア
  COPDに対する介入 COPDに対する終末期医療 おわりに
4.慢性腎不全
  はじめに PEWとは PEWの診断基準と疫学
  PEWに対するリハビリテーション栄養 おわりに
5.肝機能障害
  はじめに 肝臓疾患別リハビリテーション
6.膠原病
  はじめに リウマチ悪液質の定義・診断基準 リウマチ悪液質の疫学
  リウマチ悪液質のリハ栄養-生物学的製剤の時代(biologic era)にどう介入するか
  その他の膠原病と悪液質 おわりに
7.敗血症
  はじめに 敗血症とは 炎症状態が全身に与える影響:敗血症から悪液質に陥る機序
  ICU関連筋力低下症と敗血症 敗血症の治療 その他のICUAWのリスク因子
  おわりに

 索引