やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版の序

 機構面では,新たにアジア・太平洋膝関節学会が発足し,わが国でも日本膝関節研究会と東京膝関節学会が合併して1つの日本膝関節学会となりました.内容面では膝の研究は年々進歩し,同学の志も増え,病態の解明,治療技術の開発に新しい試みがなされてきました.本書の第4版が発行されてより8年が経ちますが,このような現状から,新しい情報を導入して,時代の進歩に追いつくように,質量ともに充実した改訂第5版の発行の運びとなりました.今回改訂の骨子は以下のとおりです.
 1 一般的治療の中では「膝の拘縮と強直」の項を設け,詳細に解説しました.これはこれらの用語がとくに医学生などに十分理解されていないためです.
 2 関節疾患患者のリハビリテーションの中で,膝筋力訓練の一環として重要な内側広筋の筋力増強について記述しました.
 3 手術面では前十字靭帯再建術の手術手法を新しい方法に大幅に書き改めました.さらに高位脛骨骨切り術の項に腓骨骨切り術に関する注意を加え,またopening wedgeによる高位脛骨骨切り術の手術法を加えました.さらに減捻骨切り術(derotation osteotomy)を脛骨粗面上で施行する特殊な方法を記載しました.
 4 日本人の生活習慣の一つである正座の問題をとりあげ,これを分析し,正座を獲得する技術を解説しました.
 5 巻末には膝機能評価法として新たに,The Hospital for Special Surgery Knee Scoring System,The American Knee Society Knee Scoring System,およびLysholm Scoreを加えて便宜を図りました.
 そのほか,細部において訂正を加えましたので,参考書として,研究,診療の際にご利用いただければ幸いです.
 2001年5月 腰野富久

第4版の序

 膝関節の外科は新しい分野であり,年々の進歩は著しく,絶えず新しい診断方法,治療法が開発され,試みられています.一般的には5年も経過すれば,まったく新しい局面を迎えていることが多いのが実情であります.
 このような現状に鑑み,本書の内容も逐次改訂し,新しい情報を導入して,時代の進歩に追いつくように書き改めてきました.
 第4版では,大きく改め,MRI(magnetic resonance imaging)を記載し,さまざまな膝疾患の診断のうえに,読者に少しでも参考となるように考慮しました.また,靭帯損傷,十字靭帯損傷の評価に中点法も記載し,さらに充実させました.
 治療法については,関係諸先生の御協力の下にテーピング法を追加し,また変形の評価を三次元的にとらえられますよう,複合変形に対する矯正角度の算出法について図示しました.
 また手術法では,人工膝関節置換術などのときの進入法としてSouthern approach(subvastus approach)およびこれに併用した大腿直筋Z延長術を記載しました.いずれもこれから膝形成術には大いに有用な方法であります.
 これらのほか,若干の訂正も加えましたので,参考書として御利用いただければ幸いです.
 1992年11月 腰野富久

第3版の序

 本書も1985年に初版が発行されて以来,諸先生よりいろいろな御批判を受けてきた.項目の順序にやや不自然な所もあったため,今回の第3版では思い切って訂正した.膝蓋軟骨軟化症は本来,膝蓋骨脱臼,亜脱臼と関係が深いので,続けて記述することにし,また骨内ガングリオンはガングリオンに続けて青年期の方へ移行してみた.また,最近アメリカで流行しているライム病についても記述を試みている.また,日本整形外科学会の膝疾患治療成績判定基準を巻末に掲載し,読者の便宜を計った.これで内容もかなり充実したものと考えられるが,やはり浅学の身,さらに種々お気付きの点を御指摘いただければ幸いです.
 1990年4月 腰野富久

第2版の序

 日進月歩の世の中でもとくに医学,医療技術の進歩はめざましい.整形外科はその中でも未開の分野が多く,入局時代に研修した医療技術は現在ではまったく使われていないのが現状である.とくに膝関節外科はその中でも新しく発展してきた部分が大半を占めるので,この5年ですでに大きな差がみられ,数年過去に発表された報告をみるとすでに昔日の感がある.こういった時代の必要性に鑑み,本書もさらに書き改め,新しい表現,技術を挿入せざるを得なくなった.初版で諸先輩からいろいろと指摘されたことを十分とり入れ,表現の訂正,図のとりかえ,新しい項目の設置を行ってきた.本書もこれで十分とはいえないまでも,かなり充実した内容となったものと確信する.今後ともよろしく御指導,御鞭韃をお願いしたい.
 1987年11月 腰野富久

まえがき

 膝関節といえば,多種多様な疾患が入れ乱れ,膝内障などと表現されるように,雑然としてまとまりがないなどの印象が常に先行する.また,治療上からは術後の拘縮や不定の疼痛という怖れに絶えず悩まされ,つい最近までは上級の整形外科医が手術を執刀する分野であった.著者が医師になりたての頃は「若い娘の膝にやたらと手を出すな(簡単に手術するなの意味)」といわれたものであった.これは今でいう膝蓋軟骨軟化症,棚障害,Sinding-Larsen-Johannson病などの概念が一般化されておらず,半月板切除術ではこれらの愁訴をまったく解決しえなかったためである.最近の20年間の膝関節外科の進歩は目覚しいものがあり,膝関節外科の比重が増大した.これには関節造影の技術的進歩や,関節鏡診断,手術の進歩により膝内障が明確になってきたことと,従来もっぱら保存的治療のみに終始していた変形性膝関節症,慢性関節リウマチに対して骨切り術,粗面移動術,人工膝関節置換術など積極的な治療方法が確立したことなどがあげられる.
 本書はこれら膝関節外科の最近の進歩を考慮に入れ,さらに膝関節の多様な疾患が年齢区分によって比較的明瞭に分けられることに着目し,膝疾患を年齢別に発育期,青年期,中高年期に分けて記述した.各年齢層にわたって対象となる疾患もあるが,これらは最も問題となる時期の項に記載した.また膝蓋軟骨軟化症と,膝蓋・大腿関節症のごとく発育期の疾患で,中高年期にまで存続または再発するものもあるが,これらは別な疾患名で呼ばれているので,この場合は後者にも記載した.
 本書は前述の年齢区分とともに,最近問題となっているものを重点的にとり上げているので,多少,独断的な部分もあるが,時代を先取りする意味でこれも御容赦いただきたい.
 本書は臨床に携わる整形外科医のための膝診療マニュアルである.また整形外科医のみならず,他科の医師にも参考となるように,膝関節に関係したあらゆる種類の疾患をできるだけ幅広く含め,索引を完備して,万全を期したつもりである.また理学療法士など,膝疾患の診療やリハビリテーションに携わる方々にも参考にしていただきたいと思う.
 本書は疾患の理解,位置づけ,診断を主にし,治療は基本的なもののみとした.本書に記載されている手術法は,最も手取り早いもの,最も利用価値の高いもののみに限定して述べ,多忙な整形外科第一線の実地医家や開業医には本書を開けば,即座にわかるように工夫したつもりである.一般的で重要な手術は太い枠(第5版からは二重枠)で囲んで,最も簡単な方法を詳細な部分に至るまで記載し,指導的立場にある整形外科医には,すぐ指導に役立つように重点的に述べた.しかし関節鏡および腫瘍,骨折などの手術的治療に関しては,その一部にふれたのみで,他はそれぞれの専門書に譲ったことをお許し願いたい.
 本書の内容に誤り,不備な点および行き過ぎがあれば御指摘いただければ幸いに思います.
 最後に執筆するにあたって,御協力いただいた横浜市立大学医学部整形外科学教室の諸先生,および長期にわたって出版に御尽力いただいた医歯薬出版の各位に深謝いたします.
 1985年2月 腰野富久
第5版の序
第4版の序
第3版の序
第2版の序
まえがき

第1章 診察
 1.臨床症状と所見
  A.膝障害に関係した用語
  B.腫脹,関節水腫(症)と滑膜の肥厚
  C.大腿四頭筋萎縮
  D.圧痛
  E.可動域と良肢位
 2.臨床検査
 3.関節液検査
  A.関節液の採取,関節穿刺法
  B.関節液の検査
 4.X線学的検査
  A.機能的撮影
  B.膝関節造影法
  C.膝関節シンチグラム
 5.Magnetic resonance imaging(MRI)検査
 6.関節鏡検査
  A.関節鏡視
  B.鏡視下手術
 7.鑑別診断

第2章 一般的治療
 1.日常生活の指導
 2.薬物療法
 3.関節内注入療法
 4.大腿四頭筋訓練
  A.等尺性訓練
  B.等張性訓練
  C.等運動量性訓練
  D.内側広筋の筋力訓練
 5.関節水腫(症)対策
 6.装具療法
 7.膝関節の徒手矯正および授動術
 8.膝の拘縮と強直
  A.膝関節拘縮
  B.膝関節強直
 9.手術
  A.皮切および進入路
  B.複合変形に対する骨切り術

第3章 発育期の膝疾患
 1.O脚,X脚
  A.病因
  B.計測
  C.経過
  D.治療
 2.Blount病
  A.分類
  B.経過
  C.鑑別診断
  D.治療
 3.反張膝
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.治療
 4.先天性膝関節脱臼
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.治療
 5.離断性骨軟骨炎
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.治療
 6.分裂膝蓋骨
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.治療
 7.Osgood-Schlatter病
  A.臨床症状,所見
  B.X線所見
  C.治療
 8.Sinding-Larsen-Johansson病
  A.臨床症状,所見
  B.X線所見
  C.治療
 9.膝蓋骨高位症
  A.臨床症状,所見
  B.測定法
  C.治療
 10.膝蓋軟骨軟化症
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.治療
 11.膝蓋骨亜脱臼,習慣性(再発生,反復性)膝蓋骨脱臼
  A.脱臼・亜脱臼の誘因
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.治療
 12.下腿外捻症
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.治療
 13.若年性関節リウマチ
  A.臨床症状,所見
  B.治療
 14.血友病性関節症
  A.臨床症状,所見
  B.治療
 15.発育期の腫瘍
  A.良性骨腫瘍
  B.悪性骨腫瘍
  C.軟部腫瘍
 16.膝の不定の自発痛,夜間痛
  A.臨床症状,所見
  B.分類
  C.治療

第4章 青年期の膝疾患
 1.半月板損傷
  A.病因,損傷機転
  B.臨床症状,所見
  C.誘発テスト
  D.診断
  E.治療
 2.膝靭帯損傷
  A.発生機転
  B.臨床症状,所見
  C.靭帯損傷診断に用いるテスト
  D.X線像
  E.急性期の治療
  F.靭帯再建術
 3.膝関節内および周辺骨折と膝関節脱臼
  A.大腿骨顆上骨折,大腿骨顆部骨折
  B.脛骨上端(脛骨平原)骨折
  C.骨軟骨骨折
  D.膝蓋骨骨折
 4.膝伸展機構の断裂
  A.大腿四頭筋筋腱移行部断裂および膝蓋骨上端部断裂
  B.膝蓋腱起始部断裂(膝蓋骨下端部断裂)
  C.膝蓋腱付着部断裂(脛骨粗面部断裂)
 5.関節鼠(関節遊離体),骨軟骨腫症
 6.棚障害
  A.臨床症状,所見
  B.誘発テスト
  C.治療
 7.膝内障
 8.膝のスポーツ外傷と障害
  A.外傷
  B.障害
  C.テーピングとブレーシング
 9.化膿性膝関節炎
  A.病因,病態
  B.臨床症状,所見
  C.治療
 10.膝関節結核
  A.臨床症状,所見
  B.X線像
  C.治療,予後
 11.Reiter症候群
 12.成人の腫瘍
  A.良性腫瘍
  B.悪性腫瘍
 13.Lyme病
 14.滑液包炎
  A.滑液包の位置
  B.外傷性滑液包炎
  C.痛風性滑液包炎
  D.化膿性滑液包炎
 15.膝窩嚢腫(包),Baker嚢腫(包)
  A.臨床症状,所見
  B.鑑別診断
  C.治療
 16.ガングリオン
 17.骨内嚢腫(包),骨内ガングリオン,骨内偽嚢腫(包)
 18.膝反射性交感性ジストロフィー

第5章 中高年期の膝疾患
 1.慢性関節リウマチ
  A.病態
  B.臨床症状,所見
  C.X線所見
  D.診断,鑑別診断
  E.治療
 2.変形性膝関節症
  A.臨床症状,所見
  B.X線所見
  C.治療
 3.膝関節症の正座対策
  A.正座成立の因子
  B.正座の程度
  C.高位脛骨骨切り術による正座の獲得と膝周辺の処置
  D.臨床成績(自験例)
 4.膝蓋・大腿関節症(膝蓋型変形性膝関節症)
  A.臨床症状,所見
  B.膝蓋・大腿関節のバイオメカニクス
  C.X線所見
  D.治療
 5.ステロイド関節症,関節内注入症候群
  A.成因
  B.臨床症状,所見
  C.治療
 6.膝の無腐性骨壊死
  A.特発性骨壊死
  B.ステロイド性骨壊死
  C.減圧症による骨壊死

 7.神経病性関節症,神経障害性関節症,Charcot関節
  A.病因
  B.臨床症状,所見
  C.分類と経過
  D.治療
 8.偽性痛風(結晶性滑膜炎)178
  A.臨床症状,所見
  B.治療
 9.膝関節特発性出血
  A.臨床症状,所見
  B.治療
 10.膝に関係あるその他の関節炎
  A.間歇性関節水腫(症)
  B.回帰性リウマチ

付録
  K.Ee Society Clinical Rating System
  H.S Knee Score
  L.Sholm Score
  日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準
  日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準の英訳
文献
索引