やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがきにかえて
 とろみ剤? 増粘剤? とろみ調整食品? とろみ調整用食品?
 藤谷順子
 書籍を編集する際には,「用語の統一」ということが一般的には行われますが,今回,とろみを付ける例の粉については,著者の皆様の記載どおりとすることにしました.この特殊な粉の名称は,意外にややこしいのです.
 thick liquidのほうがthin liquidよりも誤嚥しにくいことが紹介された時代,「とろみ」や「トロミ」の訳語が使われていました.本邦初の市販品の登場は1991 年です.それ以降「とろみ剤」,「増粘剤」などと表現されてきました.その後,「薬じゃないのに,『剤』という言葉を使うのはよくないのでは?」のような観点から,「とろみ調整食品」という言葉が用いられ始めました.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学会分類2013 では,「とろみ剤,増粘剤といわれることもあるが,学会分類2013 ではとろみ調整食品と表記する」としています.(でも,臨床では圧倒的に「とろみ剤を買ってきておいてください」などと使われています) なお,ウィキペディア日本語版には,「とろみ」の項があり,「とろみをつける方法」として,片栗粉,馬鈴薯などのでん粉,葛粉などと並んで,「増粘安定剤・増粘多糖類」という表記があり,とろみ調整食品という言葉はありません.(さらにウィキペディアの増粘安定剤の項には,「増粘剤」と「ゲル化剤」が含まれるとあります.増粘安定剤と増粘剤は専門的には違うようです!)
 「とろみ調整食品」とはどこまでを指すか,という問題もあります.一般に,嚥下障害の関連で,加熱をせずに,とろみを付けられる,工業製品としての食品を,とろみ調整食品と呼ぶことが多いようです.片栗粉や葛粉もとろみを付ける食品ですが,「とろみ調整食品」に含めている文献(その場合には,例の粉は「とろみ剤」として区別されていることもある)と,入れていない文献があります.
 また,つるんとした,型抜きのできるようなゼリーまで作れる「ゲル化剤」と,一般的なとろみ調整食品は,栄養関係者にとっては違うのですが,ゲル化剤という言葉の認知度は低く,困ったことに,とろみ調整食品でゼリーができると勘違いしている人もいます.最近は,水に混ぜるとドリンクゼリーっぽい,従来のとろみ水とは違う食感の飲み物ができる粉(ふたつの中間?)も市販されつつあります.患者さんにとっては選択肢が増えていいことですが,言葉が追いつかない感があります.
 さらに2016 年,消費者庁が,本書にもあるように,「特別用途食品」として,「嚥下困難者のためのとろみをつけるための食品の中で基準を満たしたもの」に,「とろみ調整用食品」の表示を認める動きがあります.すでに多数の市販品の表記に利用されている「とろみ調整食品」との混同を避けるためと正確を期すために「とろみ調整用食品」という名称になるとのことです.つまり,将来的に,「とろみ調整食品」として市販されているものの中で,消費者庁の基準を満たしたものが「とろみ調整用食品」と名乗れる,ということになります(!!!).
 とはいえ,これだけの名称の多様性があるということは,それだけ,多様な場面で急速に重要性が増しているということでもあります.いずれ落ち着くことを楽しみに,当面は相手に応じて使い分け,質問されたらお答えしましょう.それよりも,「とろみ調整食品=飲み込みやすくするためのもの」と誤解してとろみを付けすぎて,まずいものを患者さんに押し付けることのないように,日々,倦まずたゆまず説明を続けましょう!
 最後になりましたが,この本で著者の皆様とともに読者の方々にお伝えしたいことは,摂食嚥下障害の人や家族に「指導」するのではなく,「支援」しましょう! ということです.面倒な,言われてもできない,むずかしすぎる「栄養指導」ではなく,「あの人に会えてよかった」,「紹介してもらってよかった」と言われるような管理栄養士さんが増えることを願っています.
 2016 年9 月
 まえがきにかえて「とろみ剤? 増粘剤? とろみ調整食品? とろみ調整用食品?」(藤谷順子)
1 栄養食事指導の進め方―情報収集のポイント
 (江頭文江)
2 コード別 摂食嚥下障害の栄養食事指導
 嚥下訓練食品 0j 0t(栢下 淳)
 嚥下調整食 1j−病院(工藤美香)
  レシピ−ゼラチンゼリーの作り方(例:濃厚流動食ゼリー)
  レシピ−市販のゲル化剤を用いた作り方(例:鮭の酒蒸しゼリー)
  Q:ゼリー状でも,ゼリー飲料(いわゆるドリンクゼリー)は,1jとなるのでしょうか?
 嚥下調整食 1j−在宅(工藤美香)
  レシピ−なすのみそ田楽風
  レシピ−あんみつ
  レシピ−経口補水ゼリー
  Q:お薬はどうやって飲めばいいでしょうか?
 嚥下調整食 2-1−病院(房 晴美)
  レシピ−寿食の作り方
   (ミキサー粥・鯛の煮付け・里いものそぼろ煮(添え))
   (にんじんの甘煮・フルーチェ)
  Q:嚥下調整食は手間がかかりそうで作れるか不安です.
 嚥下調整食 2-1−在宅(尾関麻衣子)
  コラム:訪問エリアの“介護食品マップ”をつくろう
  レシピ−だし巻き卵
  レシピ−鶏のから揚げ
  Q1:患者や家族が胃瘻ではなく経口摂取を強く望んでいる場合,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q2:「ミキサー食は噛まなくてもいいから,脳に悪いのでは?」「ミキサー食を食べていると噛む力が衰えてしまうのでは?」と介護者から聞かれたら,どのように答えたらよいでしょうか?
  Q3:「ミキサー食はドロドロで見た目が悪いので,食欲がわかないのではないか?」という質問に対しては,どのように答えたらよいでしょうか?
  Q4:「ミキサー食はQOLの低下につながるのではないか?」という質問に対しては,どのように答えたらよいでしょうか?
 嚥下調整食 2-2−病院(小澤惠子)
  Q1:家族が障害の起こった現実を認めてくださらない場合,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q2:老老介護のケースで,「とろみを付ける」と言葉で説明しても正確に理解していただけない場合,どのように説明すればよいでしょうか?
 嚥下調整食 2-2−在宅(水島美保)
  レシピ−スベラカーゼ粥
  レシピ−パン粥
  レシピ−揚げ物のミキサーパテ風
  レシピ−とろみあんかけ茶碗蒸し
  Q1:嚥下機能と食形態が不一致の場合は,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q2:本人が頑固な場合で,ミキサー食を見て「こんな鳥のえさのような物は食べたくない」と言われた場合,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q3:家族から食形態を上げたいと言われた場合,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q4:在宅訪問栄養食事指導の場で,キッチンスケール,計量カップ,計量スプーンは必須ですか?
 嚥下調整食−病院安原みずほ
  レシピ−はんぺんと鶏肉のふわふわ蒸ししょうがあんかけ
  レシピ−魚と長いものふわふわ蒸しわさびあんかけ
  Q:もともと甘党です.市販のお菓子を食べてもよいですか?
 嚥下調整食−在宅(安田淑子)
  レシピ−カフェオレくずもち
  Q1:本人が頑固で,家族と同じものを食べたいという場合はどうしたらよいでしょうか?
  Q2:形のあるもの(常食)が食べたいという場合はどうしたらよいでしょうか?
 嚥下調整食−病院安原みずほ
  Q:お餅を食べるにはどうすればよいですか?
 嚥下調整食−在宅江頭文江
  Q1:もともとお粥は嫌いだという場合,鮭もほぐせば食べられるし,ご飯にしたらダメでしょうか?
  Q2:いも類やかぼちゃなどの野菜はよく食べるが,葉物がなかなか食べられない場合,何かよい方法はありますか?
  Q3:ひじきや切干しだいこんなどの乾物は,どうやって調理したらよいですか?
  Q4:普段はお粥を食べている場合,誕生祝いの席で,お寿司を出しても食べられるでしょうか?
  Q5:噛む時間が長くて,食事が疲れてしまっているように見える場合,何か工夫はありますか?
3 とろみ調整食品の使い方の実際
 嚥下調整食学会分類ととろみ調整食品の種類(小城明子)
  コラム:とろみ調整食品 試飲・試食のススメ
  Q1:飲み物にとろみを付けるのがどうしても嫌だという患者には,どのように対応すればよいでしょうか?
  Q2:とろみがべたついてのどに残るような気がするという患者には,どのように対応すればよいでしょうか?
 とろみ液の作り方(大塚純子)
  Q1:とろみは濃いほうがよいでしょうか?
  Q2:とろみを付けるときにダマができてしまいます.
  Q3:ダマができたらどうすればよいでしょうか?
  Q4:とろみ調整食品を買いたがらない患者への指導はどうすればよいでしょうか?
4 摂食嚥下障害と胃瘻栄養
 (手塚波子・加藤寿子・小川滋彦)
  コラム:在宅訪問管理栄養士とは?
  コラム:胃瘻についての「2017 年問題」とは?
  コラム:HENとHPNとは?
  Q1:近い将来,経口からの栄養管理が見込まれないと判断したとき,強制栄養の必要性を栄養士として本人・家族にいつのタイミングでどのように話しますか?
  Q2:「胃瘻」ではなく「点滴」を希望する本人・家族には,どのように説明しますか?
  Q3:在宅経腸栄養に伴う消化器合併症(下痢,逆流・嘔吐,悪心・腹部膨満感)の対策はどのようにしていますか?
  Q4:在宅経腸栄養に伴う代謝性合併症(脱水,高血糖,電解質異常)の対策はどのようにしていますか?
  Q5:在宅経腸栄養に伴う機械的合併症(チューブ閉塞,上半身の姿勢・瘻孔からの漏れ)の対策はどのようにしていますか?
5 合併症がある場合の対応
 肥満(藤井文子)
 糖尿病(原 純也・松野さおり)
  Q1:偏食でおかずを出しても食べない場合,お粥だけだとどうしても低血糖になってしまいます.何かよい方法はありますか?
  Q2:食事内容はそれほどバランスが崩れていないと思いますが,食後血糖値が高くなります.何かよい工夫はありますか?
  Q3:食欲がないときの糖尿病のコントロールと摂食嚥下障害用の食事の工夫を教えてください(シックデイ対策).
 高血圧(中村芽以子・古田 雅・下田正人・海老原 覚)
  Q:とうがらしやこしょうなどの香辛料が嚥下障害によいとわれていますが,どうでしょうか?
 脂質異常症(徳永佐枝子)
  レシピ−ゼラチン粥
  レシピ−やわらか炊き込みご飯
  レシピ−やわらかみそカツ
  レシピ−豆乳豆腐
  レシピ−ほうれんそうの白和え
  Q1:お粥だけではまずいという患者の場合,のり佃煮や梅干などは1 日どのくらい食べてもよいですか?
  Q2:ゼラチン粥はたくさん炊いて冷凍保存することもできますか?
  Q3:脂質異常症でも油脂をとって大丈夫ですか?
  Q7:脂質異常症の場合,卵は1 日何個まで食べられますか? 制限したほうがよいのでしょうか?
 CKD(慢性腎臓病)(川村順子)
  Q1:料理をミキサーにかけるだけではダメですか?
  Q2:たんぱく制限を守っているのに,腎機能のデータが悪くなった場合,どのように考えればよいでしょうか?
  Q3:カリウムが高いので,カリウム処理のため,必ず熱を加えているのに,カリウムのデータが改善されないのはどうしてですか?
 COPD(慢性閉塞性肺疾患)(田中弥生)
  Q1:腹部膨満感が強い場合,どのように対応したらよいでしょうか?
  Q2:早期膨満感がある場合,温かい食事より冷えた食事のほうがよいのはなぜですか?
  Q3:「経腸栄養剤の味が甘いので飽きてきた」という患者には,どのように対応したらよいでしょうか?
 認知症(前田佳予子・井戸由美子)
 低栄養(西村一弘)
  Q1:低栄養の方への初回訪問栄養食事指導で高エネルギー食品をお勧めしたのですが,2 回目の訪問時に確認すると,まったく買っていませんでした.どのように対応したらよいでしょうか?
  Q2:お酒ばかり飲んで食事をとらない患者には,どう指導したらよいでしょうか?
  Q3:スーパーマーケットやコンビニエンスストアで買える栄養価が高くて安価な商品について教えてください.
  Q4:腎臓病用の高エネルギーのゼリーなどを,低栄養の方に勧めてもよいでしょうか?
  Q5:6 回食を勧めてもなかなか食べてくれない患者がいます.まわりから「食べろ」と言われるとよけい本人がかたくなになり,家族も「せっかく用意したのに食べてくれない」といらだっています.どう助言したらよいでしょうか?
 脱水(桐谷裕美子・波多野 桃)
6 摂食嚥下障害評価表の読み方
 (大森まいこ)
7 ミールラウンド―食事場面のチェックポイント
 ミールラウンドにおける評価ポイント(高橋賢晃・菊谷 武)
 病院での食事を診る(下田 靜)
 施設での食事を診る(増田邦子)
 在宅での食事を診る(米山久美子)
 デイサービスでの食事を診る(栗原明子)
8 事例紹介
 自宅退院後の訪問栄養食事指導の介入により経口摂取への強い希望に対応した事例(江頭文江)
 嚥下内視鏡検査の情報を共有して食事形態の適正化へつなげた事例(水島美保)
 早期の脱水改善により全身状態悪化を免れた事例(桐谷裕美子・波多野 桃)
9 えん下困難者のための特別用途食品:最新情報
 (増田利隆)
10 スマイルケア食:最新情報
 (神井弘之)

 もっと知りたい! 仲間を見つけて(河野公子)
 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(全文掲載)