やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 筆者は電鋳加工(電気鋳造加工)の研究を開始して35年,臨床応用から20年が経過した.その間に蓄積した研究結果と臨床応用によって得られた経験から,電鋳加工を用いれば熟練者でなくとも簡単な作業で5〜10μmといった非常に高い適合精度が得られることを立証してきた.さらに,電鋳加工は生体親和性に優れ,作業効率も良いといった特徴を有しており,歯科医師が特性と適応症とを十分に理解できればメンテナンスのしやすさ等から考えても非常に有益で,特に超高齢社会に適応した可撤性補綴装置の選択肢として望まれる手法である.
 歯科用CAD/CAMシステムの進化,審美性への要求の高まり,生体親和性の高さ(メタルフリー)から,歯冠修復・欠損補綴装置・インプラント上部構造の製作においてジルコニアが臨床応用されるようになり,筆者の臨床でも従来の鋳造法,放電加工とCAD/CAMで製作された装置を組み合わせる機会が多くなった.電鋳加工についての筆者の研究及び臨床応用もそれに伴って進化しているのが現状である.ジルコニアを臨床応用する場合,単一ではなく電鋳加工法を併用することで「技工作業の効率化」「コストの削減」「適合精度の向上」が可能になることも少なくない.
 本書は電鋳加工の基本原理・原則やエラーを未然に防ぐ方策を基礎編及び臨床編で提示することで,読者諸氏にその臨床的価値や有益性を再認識いただき,歯科医療チームの共通理解のもと,安全で安心な治療の実践に役立てていただくことを目的とする.治療計画の立案と技工の設計は同時進行であるべきで,補綴装置の選択においては歯科医師と歯科技工士の「理感一致(=理性と感情の共有)」が大切であると筆者は考えている.電鋳加工は基本操作を誤らなければ,困難な技工操作を容易にしたり,最小の労力で最大の効果を発揮しうる特性を備えていることや,電鋳加工による補綴装置はメンテナンスが容易であることを理解いただければ幸いである.
 筆者は1994年に日本で金電鋳専用の歯冠用電鋳装置を開発した.さらに1996年,ドイツのTuebingen大学留学時に偶然にも歯科技工科にあった,当時では最新の『AGC-5』(Wieland edelmetale社)を使用して同大学歯科補綴学及びインプラント治療学講座(Heiner Weber主任教授)とWieland社とで共同研究を行うことができたことが,筆者の現在の研究及び臨床の基盤となっている.ドイツで発売されたAGCシステムも20年前に比較すると改良され,当初は単冠,ブリッジ,テレスコープ外冠の製作が主であったが,今日ではインプラント上部構造の二次構造体,さらには電鋳外冠の維持力が減少した場合の回復方法等,時代の要求に対応しながら改善が図られている.ただし,一貫して亜硫酸金アンモニウム電解液(99.9%の金)を使用していることは特筆すべきことであると筆者は考える.
 前半の基礎編では電鋳加工の基本操作から原理,前処理,適応症と各種補綴装置の取り扱いのポイント並びに注意点について平易な言葉で解説し,後半の臨床編では臨床的見地からラボサイドにおけるステップごとの要点と,歯冠修復からインプラントドッペルクローネや二次構造体と放電加工等,筆者が提唱するプロトコルとCombined fixed removable prosthetic reconstructionと呼ばれる臨床例を中心に供覧する.本書が歯科電鋳加工の入門書になれば幸いである.
 2016年9月
 神奈川歯科大学高度先進口腔医学講座
 附属横浜クリニックインプラント科
 林 昌二
Part 1 基礎編
 Theme 1 電鋳加工の原理
 Theme 2 電鋳加工に必要な前処理と後処理
 Theme 3 電鋳金属の性質を変化させる要因
 Theme 4 電鋳加工の臨床応用に際しての注意点
 Theme 5 付:電鋳装置の変遷
 Theme 6 付:放電加工の臨床的意義
Part 2 臨床編
 Case 1 ブリッジ(天然歯)
 Case 2 導電性付与に銀鏡反応とシルバーラッカーを併用・単冠
 Case 3 セメント固定・インプラント単冠
 Case 4 セメント固定・インプラント連結冠
 Case 5 ホリゾンタルスクリュー固定・単冠(オリジナルアバットメント)
 Case 6 ホリゾンタルスクリュー固定・単冠(既製アバットメント)
 Case 7 セメント固定・連結冠とブリッジ
 Case 8 フリクションピン付きドッペルクローネ
 Case 9 内冠にジルコニアを使用したドッペルクローネ
 Case 10 バーフレームタイプ
 Case 11 バーフレームとプッシュ式ピンアタッチメントの併用
 Case 12 バーフレームとフリクションピンの併用
 Case 13 旋回リーゲルアタッチメントとフリクションピンの併用
 Case 14 ロッドアタッチメント付きバーフレーム
 Case 15 上顎ジルコニア・床付きドッペルクローネ
 Case 16 上顎ジルコニア・ブリッジタイプのドッペルクローネ
 Case 17 金属製アバットメントとジルコニアフレームを使用したドッペルクローネ
 Case 18 フレンジタイプのジルコニアフレームと修理
 Case 19 スクリュー固定式上部構造を可撤式上部構造に変更
 Case 20 セメント固定式上部構造を可撤式上部構造に改造
 Case 21 ドッペルクローネの維持力低下の回復方法
 Case 22 超高齢者へのインプラント治療
Part 3 付章
 文献一覧
 用語解説
 索引