やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 顎関節症は一般的な齲蝕などの歯科疾患と違い,一風変わった歯科疾患のわけがわからない病気の一種として,その診察を疎まれている.しかし,日常臨床で普通に顎関節症の患者さんたちに向き合っている臨床歯科医としての立場から見ると,一般歯科医にもっと顎関節症を正しく理解して,診察していただきたいと常日頃考えている.
 しかし,残念ながら顎関節症治療として無意味な咬合治療や意図の理解できないようなスプリント療法が数多く行われていることも事実である.科学者でなければならない私ども歯科医は,科学的に考え,科学の概念に沿ってエビデンスをベースにもった臨床を行わなければならない.顎関節症においても同様に,科学的に考え科学的に正しい臨床を行う必要がある.エビデンスと患者のもつ物語性を両立するような治療方法を考え出し,実行する知恵とスキルををもてば,顎関節症といえども通常の歯科診療と同様にできるはずである.
 顎関節症治療を日常臨床で実施している臨床家の集団である私ども「顎関節症臨床医の会」は,すでに運動療法ハンドブック,スプリント療法ハンドブックを医歯薬出版から上梓させていただいている.そのほかに,理学療法としてのレーザー治療に関わる本も他社から上梓していて,学術的にも臨床的にも顎関節症を芯から理解している臨床家の集団である.私どもが集まっていつも語り合うことは,顎関節症臨床についての知識は私たちの歯科医としてのスキルを上げてくれるね,治療には運動療法が有効だね,精神医学が重要だねとか,矯正歯科とどんなふうに関わり合うのだろうか,そしてスプリントとセルフケアや保険診療との関わりは重要だね,といったことである.これらの語り合いを月刊歯界展望誌上の座談会という形で,数回に分けて発表する機会をいただいたものをまとめたのが本書である.
 本書が読者の臨床の向上に少しでも役立てれば幸甚である.
 顎関節症臨床医の会 中沢勝宏
Chapter 1 なぜいま顎関節症を勉強したほうがいいのか?
 (中沢勝宏・田口 望・和気裕之・野直久・島田 淳・澁谷智明)
Chapter 2 術者による運動療法
 (塚原宏泰・中沢勝宏・田口 望・和気裕之・野直久・島田 淳・澁谷智明)
Chapter 3 患者自身による運動療法
 (塚原宏泰・中沢勝宏・田口 望・和気裕之・野直久・島田 淳・澁谷智明)
Chapter 4 精神科との連携
 (宮岡 等・松香芳三・和気裕之・野直久・中沢勝宏・田口 望)
Chapter 5 矯正治療と顎関節症
 (古賀正忠・藤田幸弘・中沢勝宏・田口 望・和気裕之・野直久)
Chapter 6 スプリントとセルフケア指導−歯科口腔リハビリテーション料2をめぐって−
 (和気裕之・野直久・島田 淳・羽毛田 匡・澁谷智明・中沢勝宏・田口 望)