やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 スプリントは顎関節症の治療だけでなく,ブラキシズムによる口腔組織の害を防ぐため,スポーツ外傷の予防や運動時の集中力を高めるため,などの目的においても使用される.これらさまざまな目的に有効かは現在でも議論のあるところだが,ときにはスプリントが顎関節や歯周組織に害をなすケースもある.
 特に顎関節症の治療目的で装着されたスプリントが,かえって症状悪化のきっかけになっていたり,効果が期待できないタイプのスプリントをみることも多い.たしかに,スプリントについてのエビデンスを集めると,あまり効果はないという記載もみられるし,このようなスプリントをめぐる現状を考えればその記載は当然な気もする.顎関節症を疑ったらとりあえずスプリントのようなものを装着する,という考え方の世界的な普及が,状況を悪くしていると考える.
 一方で,私たち臨床医の会のメンバーは,日常の歯科臨床でエビデンスとナラティブをきちんと見据えて顎関節治療を行い,期待された効果を得ることができている.このような理論的な裏づけのあるシステムで予想通りの効果が得られるスプリントの製作法,使用法,管理法をディスカッションし,重要なポイントを本書にまとめた.
 私たちのスプリントについてのディスカッションで中心となった話題は,「スプリントの機能はどこにあって,なぜ顎関節症の治療に使用できるのか?」ということである.いろいろな文献を読んで討論を重ねた結果,
 1.スプリントは筋肉に対しての直接的効果は期待できない
 2.スプリントは顎関節部の機械的負荷をコントロールできる
 3.スプリントは損傷を受けた顎関節部の治癒を促すことができる
 これら3項目のコンセンサスが得られた.
 本書はこのコンセンサスを基にして,私たちのスプリントに対する考え方,製作法や使用法,症例報告などについて,執筆者である臨床医の会の先生方それぞれの方法を含めて,まとめたつもりである.
 臨床歯科医にとって手軽なハンドブックとしてお読みいただけたら幸いである.
 中沢勝宏
第I章 基礎編
 1 顎関節症においてスプリント療法を行うにあたっての注意
 2 現在の顎関節症の考え方とスプリント療法の役割
 3 スプリント療法を行うにあたっての基礎知識
 4 スプリント療法の臨床的基礎知識Q&A
第II章 スプリント製作の実際─チェアサイドから技工操作まで─
 1 チェアサイド─印象採得から咬合採得まで─
 2 技工操作〜スプリント製作(直接法)
 3 技工操作〜スプリント製作(間接法;ふりかけ法)
 4 チェアサイド─スプリント装着・調整─
 5 リポジショニングスプリント─チェアサイドから技工操作まで─
第III章 DJDとスプリント療法
 (中沢勝宏)
第IV章 症例
 1 顎関節への負荷軽減を考慮したスプリントの工夫(島田 淳)
 2 スプリントと運動療法の活用による3症例(塚原宏泰)
 3 顎関節円板に障害のある症例(野直久)
 4 痛みを伴う非復位性顎関節円板転位例におけるスプリント療法の意義─パンピングマニピュレーションが奏効しなかった場合─(本田公亮)
 5 症状に合わせてスプリント治療を行った3症例(羽毛田 匡)
 6 可逆的なスプリント治療と,スプリント依存から脱却させるスプリント治療(佐藤文明)
 7 スプリント療法の役割を考える(野澤健司)
 8 舌痛症,味覚異常を伴った顎関節症の1例(澁谷智明,和気裕之)
 9 リポジショニングスプリントの簡便な作り方(中沢勝宏)
第V章 まとめ
 (田口 望)

 おわりに(和気裕之)