やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

■序文
 社会歯科学は,「国民が保健医療福祉を増進し,生涯を通じて健康な生活を営むため,歯科保健医療福祉のあり方を社会科学的視点から考究する学問領域」と位置づけることができる.歯科医療は,医学(知識)と医術(技術)のみで社会に適応できるものではない.医の倫理と社会的使命を自覚し,歯科保健医療の問題に対して社会科学的視点から接近することにより,歯科医療として成り立つのである.
 榊原悠紀田郎先生の編著により,平成5年に医歯薬出版から『社会歯科学入門』が出版され,10年余にわたり社会歯科学の入門書としての役割を担ってきた.しかし,歯科医学教育は改革のときに至り,社会歯科学系の教育が重視されるようになってきた.特に,医の原則,医療の安全と危機管理,医療面接などについては,近年,その重要性が認められている.
 今回,榊原悠紀田郎先生にご相談したところ,『社会歯科学入門』を成長・発展させて欲しいとのお言葉をいただいた.そのご意向を受け,ここに『新社会歯科学』を編纂することにした.
 内容は,I編・社会歯科学,II編・歯科医療管理学の2分とし,社会歯科学では社会学としての捉え方,医の倫理,医療安全,医事紛争を前半に,保健医療福祉制度,社会保障制度などを後半においた.歯科医療管理学については,日本歯科医療管理学会が日本歯科医学会の分科会であり,学問として独立した分野であると考えるが,本書の中では,歯科医療機関の開設と管理について重点的にまとめた.社会歯科学として加えるべき項目はまだ多くあると考えるが,本書が歯科保健医療福祉のあり方を示す書として歯科界に迎えられ,ご叱正をいただき,一層充実したものになっていくことを願っている.
 本書に対し,榊原悠紀田郎先生から「発刊によせて」のお言葉をいただいた.これは私たちにとって最高の喜びであり,誇りでもある.心からの謝意をささげる.また,本書の編纂に当たり,執筆いただいた先生方と編集にご努力いただいた医歯薬出版に感謝する.
 平成17年2月
 編集委員 可児徳子
 末高武彦

■発刊によせて
 「社会歯科学」という科目が歯科医学教育の中に取り込まれるようになったのは,敗戦後の昭和22年の「歯科医学教授要綱」からであり,「その他の科目」のなかで「医事法制及び社会歯科学 16時間」として出てきたのが最初だから,比較的新しいことである.実際の講義はやや遅れて始まったようであるが,その内容は医事法制だけであったり,社会保険歯科医療のことだけであったり,医業管理のことであったりして,それぞれの担当者の立場によって適宜進められていたようで,到底,「学」というような体系の整ったものではなかったようであった.
 そんな中,何とかして社会歯科学を体系的な領域として打ち立てたいと思い,平成5年に可児徳子,末高武彦,中垣晴男,石井拓男さんらとともに『社会歯科学入門』をまとめることができた.これで一応の体系を打ち立てることはできたようであったが,もちろん十分なものとは言えず,機会があったらもう一度チャレンジしようというのがそのときの皆の密かな願いであった.
 そして今回,可児徳子,末高武彦さんを中心とし,各歯科大学でこの科目を担当している多くの方々によって,その後の社会の推移やより広い関連事項の変化を取り込んでこの『新社会歯科学』が発刊されることになった.
 歯科医療保健分野の社会性の度合はまだまだこれから広がっていくことが予想され,歯科医師としてのこの面の深い素養が強く求められようとしている今,この本の発刊に心から賛辞を述べたいと思う.
 平成17年2月
 榊原悠紀田郎

発刊によせて
●I編 社会歯科学
 1章 社会歯科学総論
  1.社会学としての捉え方(新庄文明)
   1)社会とは
   2)変動する社会
   3)21世紀の健康と社会
  2.社会歯科学の定義(末高武彦)
   1)自然科学と社会科学
   2)保健医療と社会
   3)社会歯科学とは
  3.社会科学的視点からみた歯科医療(末高武彦)
   1)歯科医療の特異性
   2)医療の社会化
 2章 医の倫理
  1.医師集団としての倫理規程(神原正樹,三宅達郎)
   1)医の倫理とは
   2)従来からの医の倫理
   3)バイオエシックスの展開
   4)現在の医療倫理
   5)おもな倫理規範と国際規範
  2.法的な医療倫理(石津恵津子,可児徳子)
   1)歯科医師の責務
   2)医療倫理・生命倫理に関わる法規
  3.医療を受ける患者の権利 本多丘人
   1)生存権
   2)患者の自己決定権
   3)患者の責務
   4)臨床研究・治験・疫学研究に関する倫理指針
   5)歯科保健医療と患者の自己決定権
  4.インフォームドコンセント(本多丘人)
   1)定義と重要性
   2)歯科医師と患者の関係
  5.医療面接(川口陽子)
   1)医療面接の目的
   2)医療面接の基本
   3)医療面接の流れ
   4)診療録への記載
   5)医療面接の評価法:OSCE
   6)医療面接の学習法
 3章 医療安全(興地隆史,石井拓男)
  1.医療安全管理体制
   1)歯科医療の特異性
   2)歯科医療事故の特異性
   3)医療におけるリスクマネージメント
   4)歯科医療事故の可能性の予測
   5)歯科医療事故の防止
   6)医療事故や潜在的医療事故(ヒヤリ・ハット)に対する情報収集
   7)医療事故とヒヤリ・ハットへの対応
  2.感染防止
   1)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
   2)院内感染対策の組織化
   3)標準予防策
   4)歯科における院内感染防止対策
 4章 医事紛争(尾崎哲則)
  1.医事紛争と医療訴訟
   1)医療事故と医療過誤
   2)医事紛争
   3)歯科医師の責任
   4)医事紛争解決の流れ
   5)医事紛争に関する法律
 5章 保健医療福祉制度
  1.歯科医師と法(末高武彦)
   1)法とは
   2)歯科医師法
   3)医療法
   4)健康保険法
  2.関連職種と法(末高武彦)
   1)歯科衛生士
   2)歯科技工士
   3)薬剤師
   4)保健師,看護師
   5)診療放射線技師
   6)臨床検査技師
   7)理学療法士,作業療法士
   8)言語聴覚士
   9)介護福祉士,介護支援専門員,ホームヘルパー
   10)栄養士,管理栄養士
   11)養護教諭
  3.保健行政のしくみ(尾崎哲則)
   1)保健行政の目標
   2)保健行政の組織
   3)歯科関係の機関,団体
  4.衛生行政関連法規(大原里子)
   1)地域保健法
   2)母子保健法
   3)学校保健法
   4)労働安全衛生法
   5)老人保健法
   6)健康増進法
  5.歯科保健医療の国際協力(川口陽子)
   1)国際協力の仕組み
   2)ODAによる国際協力
   3)NGOによる国際協力
   4)世界保健機関(WHO:World Health Organization)
   5)開発途上国における歯科保健医療協力
 6章 社会保障制度
  1.社会保障(大内章嗣)
   1)社会保障とは
   2)社会保障制度の成り立ち
   3)社会保障の機能
   4)わが国の社会保障の体系
   5)わが国の社会保障制度の沿革
   6)わが国の社会保障給付費
  2.医療保障(大内章嗣)
   1)医療保険制度
   2)労働者災害補償保険における療養(補償)給付
   3)公費負担医療制度
   4)医療保険制度改革の課題
   5)医療経済
  3.所得保障制度(平田幸夫)
   1)年金保険制度による所得保障
   2)その他の保険給付による所得保障
   3)社会手当による所得保障
   4)公的扶助(生活保護)による所得保障
  4.社会福祉制度(平田幸夫)
   1)児童福祉
   2)母子家庭や寡婦家庭を対象とした母子福祉
   3)身体障害者(児),知的障害者(児)および精神障害者を対象とした障害者福祉
   4)高齢者福祉と介護保険制度
 7章 歯科医療の需要と供給(森下真行)
  1.医療保健の需要の特徴
  2.歯科医療保健の需要
   1)齲蝕治療の必要量
   2)補綴処置の必要量
   3)歯周病治療の必要量
   4)予防処置,健康教育の必要量と需要
  3.歯科医療保健の需要に影響を与える諸要因
   1)歯科疾患のニーズに影響する要因
   2)歯科疾患のディマンドに影響する要因
  4.歯科医療保健の供給
  5.歯科医療保健の供給に影響を与える諸要因
●II編 歯科医療管理学
 1章 歯科医療管理学の定義(石津恵津子,可児徳子)
 2章 歯科医業とは(石津恵津子,可児徳子)
  1.法令でみると
   1)「業」とは
   2)歯科医業
  2.医行為と歯科医行為
 3章 歯科医療機関の開設と管理
  1.歯科医療機関の開設(石津恵津子,可児徳子)
   1)開設者と管理者
   2)医療法人
   3)診療科名
   4)診療システム
   5)診療情報
  2.歯科診療
   1)診療の流れ(江面 晃)
   2)患者管理(江面 晃)
   3)医療安全,医療廃棄物と感染予防(田口正博)
 4章 歯科診療所の管理(岡田眞人)
  1.人事管理・労務管理
   1)人の管理
   2)労務管理・雇用関係
  2.物品管理
   1)「かんばん」方式(JIT:Just In Time)
   2)棚卸し方式
   3)つど発注方式
   4)重点管理方式(ABC分析)
   5)設備・機器などの購買管理
  3.経理システム
   1)財務管理
   2)経営分析
   3)税金と可処分所得
参考文献
索引