やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯周病は国民の多くが罹患しているにもかかわらず,初期段階では病気としての自覚症状に乏しいという現実があるためか,その受診率は低いようです.しかし一方では,歯周組織の再生,歯周環境の再構築,ひいては補綴物を取り巻く歯周組織をも含めた美しさを求める患者さんもいらっしゃいます.そのような要求に応えるためにも,今後,歯周病治療のなかで歯周外科処置が占めるウェイトはますます重くなっていくものと思います.
 また,インターネットなどの発達により,最新の歯科治療の情報も簡単に入手できるようになってきました.そのため,歯周病治療も成功して当たり前,すべてにおいて簡単に短期間で綺麗にできるのがふつうなどと,過剰な期待をもたれる患者さんも存在します.
 歯周病治療は,病因の除去,歯周組織の再生,審美性の獲得はもちろんのこと,患者さんにとって満足のいく結果,予知性をも問われる時代になってきているのだと実感する昨今です.このような傾向は,これから歯周外科に取り組もうとする若い歯科医師にとって,相当なプレッシャーになっていることは想像に難くありません.
 歯周外科には,周知のように多くの術式があり,目的も多様で,習得にも時間がかかります.ですから,できれば歯周外科は避けて通りたい,外科処置なしで治療を終わらせたい,術後に腫れたり期待どおりの結果が出なくて患者さんから不信感を抱かれるのがいやだ,といったような気持ちも理解できます.
 本書は,『歯界展望』に3 回に分けて連載(2010 年1〜4月,2011年1〜3月,8〜12月号)した,『一歩進んだ診療のための歯周外科STEP UPセミナー』の内容に加筆,修正したものです.何事もはじめの一歩が大事です.そのため,歯周外科に着手する前準備から手技の実際までを,できるだけわかりやすく解説しました.
 Step1 では,最初に歯周外科に用いる多様な器具の種類および選択方法を,後半に手術環境の整備,実際の処置現場での注意点などについて説明しています.Step2 では,歯周外科の基本手技である,切開から縫合までを述べました.基本的な手技,ポジショニングや実際の動き,細かなメスさばきなどは,図や写真のみでは伝えにくいところがあります.本書では付録DVDビデオの動画で,実際の処置を見て,手技のイメージを膨らませてもらえるようにしました.Step3 においては,歯周外科の4つのカテゴリー(切除療法,組織付着療法,再生療法,歯周形成外科手術)について,それぞれの目的と治療のゴール,術式,分類と概念について,また手術を行うタイミングなどについて記しました.ここでも,症例を提示して,一連の術式,注意点を,写真,図,動画にて紹介しました.
 今後,さらに新たな治療法や術式が紹介され,あるいは歯周病治療の流れが変わることもあるかもしれません.しかし,基本的な器具操作や手技は変わりません.それを会得して習熟することで,新しい方法にもチャレンジでき,患者さんに喜んでもらえる治療を提供できるのだと思います.
 本書が,これから歯周外科処置に取り組んでみようと思っている若き歯科医師,また歯周外科手術のさらなるレベルアップを目指している諸先生方にとって,よき手引書となれれば望外の喜びです.
 最後に,いつもあたたかくかつ厳しくご指導いただいている下川公一先生,IPOI学会を通して示唆をいただいている糸瀬正通先生,山道信之先生,ともに学ぶ経基臨塾の諸先生方,PABCの先生方,私をサポートしてくれている当院のスタッフ,技工を担当してくれた宮崎英樹先生,本書の出版にご尽力いただいた医歯薬出版 歯界展望編集部・藤本憲明氏,書籍編集部・若林由紀子氏に心から感謝の意を表します.
 2013 年 新春の日に
 安東 俊夫
Step1 器具の選択と手術環境の整備
 1章 自分にあった器具を見つけよう
   弘法は筆を選ばずというけれど……意外と大切な器具選択
  歯周外科治療の位置づけ
  歯周外科に必要な器具
  歯周外科器具の選択
  高価な器具は寿命が長い?
  処置に対するイマジネーション力を高めよう!
 2章 切開・剥離時に用いる器具
   基本中の基本……各器具の操作法をマスターしよう
  歯周外科の最初のプロセス/切開・剥離
  替刃メスハンドルと替刃メス
  剥離子
  ピンセット
  その他の器具
  切開・剥離のポイント
 3章 縫合時に用いる器具
   鮮やかな縫合のために……ひたすら練習に励むべし
  縫合は治癒を導く重要なステップ
  縫合針
  縫合糸
  持針器
  剪刀(ハサミ)
  縫合の目的はさまざま
 4章 手術環境の整備
   学んで実践……スタッフとともにトレーニング
  清潔と不潔
  手術場所の選択
  手術ではアシスタントとの連携が大切
  手術の前準備
  口腔内外の消毒と術野のドレーピング
  手指消毒と第1〜3 アシスタントの役割分担
  術後の処理
Step2 歯周外科の基本手技と基本概念
 1章 切 開
   外科の原点……すべての歯周外科はここから始まる
  切開の基本/望ましい切開とは
  切開の実際
  切開の種類
  切開線のデザイン
 2章 剥離と縫合
   それぞれのステップを確実に行う……良好な治癒を導くために
  剥 離
  全層弁剥離
  部分層弁剥離
  病的組織の郭清・根面の清掃
  縫 合
  縫合の種類と方法
  結紮法
 3章 歯周外科を効果的に行うには
   成功の鍵を握るのは……適応の見極めと治療オプションの選択
  歯周病治療における歯周外科の位置づけ
  歯周外科の目的
  歯周外科の種類
  歯周外科処置を行うタイミング/術前の歯周基本治療が大切
  歯周外科の適応基準
  歯周外科処置のオプション
Step3 歯周外科の実際
 1章 切除療法と組織付着療法
   動画で確認……歯周外科の基本術式
  術式の選択は?
  切除療法
  組織付着療法
  2つの外科処置の比較
 2章 歯周組織再生療法
   チャレンジしよう……再生療法
  骨移植
  再生と修復
  GTR法
  EMDを応用した方法
  EMDを応用した方法の術式
 3章 歯周形成外科手術/結合組織の採取
   大胆かつ繊細に……動脈性の出血に注意
  歯肉―歯槽粘膜療法から歯周形成外科手術へ
  歯周形成外科手術の種類
  なぜ結合組織なのか?
  採取部位の選択
  結合組織採取の実際
  供給側の治癒
 4章 歯周形成外科手術/歯肉退縮への対応
   こんなはずでは……事前の説明が重要
  天然歯・補綴予定歯に対する歯周形成外科手術
  審美的な問題点としての歯肉退縮
  有茎弁移植法
  遊離結合組織移植法
 5章 歯周形成外科手術/欠損部歯槽堤への対応
   歯槽堤増大術……望ましい自然感を得るために
  欠損部歯槽堤の吸収
  ブリッジの前処置としての歯槽堤増大術

 動画目次
  <Step2 歯周外科の基本手技と基本概念>
   01 ライニングとディープニング
   02 ソーイングモーション
   03 歯肉溝内切開と歯肉辺縁切開
   04 Sample Case A/切開
   05 全層弁剥離と部分層弁剥離
   06 歯冠周囲組織の除去
   07 掻爬・根面の清掃
   08 外反縫合とさまざまな縫合法
   09 さまざまな結紮法
   10 Sample Case A/剥離・掻爬・縫合
   11 Sample Case Bの外科手術
  <Step3 歯周外科の実際>
   12 切除療法/歯肉弁根尖側移動術・Case1
   13 組織付着療法/フラップ手術・Case2
   14 補綴処置を前提とした歯への再生療法・Case3
   15 天然歯への再生療法・Case4
   16 口蓋からの上皮付き結合組織の採取・Case5
   17 口蓋からの上皮下結合組織の採取・Case6
   18 上顎結節部からの上皮下結合組織の採取・Case7
   19 遊離結合組織移植法/根面被覆術・Case12
   20 遊離結合組織移植法/付着歯肉増大術・Case13
   21 ロール法(部分層弁法)による歯槽堤増大術・Case14
   22 インターポジション型グラフトによる歯槽堤増大術・Case15

 さくいん
 参考文献
 DVDビデオについて