やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 インスツルメンテーションには基本・原則があります.経験則に基づいたテクニックに頼る前に,まずは出発点となる基礎を身につけなければなりません.
 しかし,卒後,現場に出てしばらく経つと原則を忘れ,自己流のインスツルメンテーションになっているケースが少なくありません.難しい部位のスケーリングを基本から外れたテクニックで行っているために,適切な歯石除去ができず悩む歯科衛生士を数多く見てきました.
 本書は,著者が講演,実習付きのセミナーなどにおいて受講者から寄せられる,日々の診療で遭遇するスケーリングの困難な患者のケースにおける悩みなどにクローズアップし,シンプルな説明を心がけた臨床テクニック本です.
 著者が,米国で得た知識,経験を元に,基本原則をもう一度確認しつつ,根分岐部や叢生,舌側傾斜,近接根など,難易度の高い症例のインスツルメンテーションの方法を写真をメインに説明していきます.
 スケーリングに関しては,座位で行うインスツルメンテーションテクニックを軸に解説しています.歯周検査におけるプロ―ビング,エキスプローリングでは,重度の歯周病患者にも正確に対応できるように,繊細なテクニックやストロークの動きを網羅して示しています.他にも,プロフェッショナルなスケーリングをするために必要な知識である歯根の把握や感染予防対策,シャープニングについても広く言及しています.
 若い歯科衛生士のみなさんにも理解していただけるように,誤っている例と正しい例を基本事項も含めてわかりやすく記載し,20年,30年の経験をもつ歯科衛生士として歯周治療を行われている方たちに向けても,テクニックのバリエーションとして,シックルスケ―ラー,グレーシーキュレット,根分岐部用インスツルメント,エアスケーラー,超音波スケ―ラーを使用したスケーリングを含むアドバンスの内容も,写真やイラストを豊富に用いて取り入れています.
 みなさまが困難に感じていた症例も,本書の内容を習得することで,克服していただけると信じています.臨床に携わる読者のみなさまのお役に立ち,患者さんのよりよい人生に貢献できる歯科衛生士として活躍するための指標になれば幸いです.
 2016年9月
 加藤久子
 序文
1 歯根を把握する
 1.スケーリング困難部位の形状を把握する
  1)歯根のタイプを把握する
   (1)2根タイプ(下顎)
   (2)上顎第一小臼歯の根
   (3)エナメルパール
   (4)斜切痕
2 感染予防
 1.手指の手入れ
  1)指
  2)手洗い
  3)グローブ
 2.感染予防用具
  1)フェイスマスク
  2)防護メガネとフェイスシールド
 3.器具の洗浄・滅菌
  1)ウォッシャーディスインフェクター
  2)超音波洗浄機
  3)高圧蒸気滅菌機
 4.超音波スケーラー使用時の感染予防
3 ポジション
 1.術者のポジション
  1)疲れにくい姿勢を身に付ける
  2)誤った姿勢と対策
   (1)慣れによって生じやすいミス
    Column ルーペ
   (2)クロックポジション(施術で移動する範囲)
   (3)右利きの術者のクロックポジションの原則
 2.患者のポジション
4 プロービング
 1.プローブの操作
  1)正しい把持の確認
   (1)正しい把持
   (2)誤った把持
  2)ポケット値の記録
  3)正しい測定の方法
   (1)目盛りの側面を使用する
   (2)臼歯部に適したプローブ
  4)プロービング時の固定
   (1)口腔内固定(対合歯固定を含む)と口腔外固定,いずれも用いることができる
 2.プロービングのながれ
5 エキスプローリング
 1.エキスプローラーの役割
 2.エキスプローラーの操作
  1)把持と固定点の確保
  2)エキスプローラーの挿入(♯11,♯12の場合)
  3)ストローク方法
 3.歯石探知のポイント
  1)第1シャンクの向きを確認する
  2)先端での探知は誤り
  3)挿入箇所は隅角“手前”
 4.操作手順
 5.残存歯石の確認
6 器具の把持と固定法
 1.器具の把持
  1)正しく器具を持つことの利点
  2)執筆状変法把持法(モディファイドペングラスプ法)
 2.固定点のとり方
  1)固定点をとるときのポイント
  2)固定法の確認
   (1)口腔内固定法
   (2)口腔外固定法
   (3)補強固定法
7 シックルスケーラー
 1.シックルの基礎知識
  1)使用目的
  2)使用上の注意
   (1)前歯部における使用上の注意
   (2)臼歯部における使用上の注意
 2.前歯部におけるシックルの操作
  1)歯面への適合
   (1)ポジション11-1時の場合の正しい例
   (2)ポジション11-1時の場合の誤っている例
  2)動かし方のポイント
 3.臼歯部におけるシックルの操作
  1)挿入方法のポイント
  2)動かし方のポイント
8 キュレットスケーラー
 1.キュレットの基礎知識
  1)使用目的と特徴
   (1)ユニバーサルキュレット
   (2)グレーシーキュレット
  2)カッティングエッジの確認
  3)キュレットの種類
 2.正しく操作するための確認
  1)誤った固定と把持
 3.キュレットの操作
  1)把持〜挿入
  2)歯面に対する刃部の当て方
  3)ストローク
   (1)垂直方向のストローク
   (2)斜め方向のストローク
   (3)水平方向のストローク
 4.深いポケットの歯石除去
  1)ハンドルの回し込み
  2)歯面に当てる際には,第1シャンクをチェック
9 スケーリングテクニック実践
 1.部位別の基本テクニック
  1)上顎小臼歯部
   (1)固定点のとり方
   (2)挿入と操作ポイント
  2)上顎大臼歯部
   (1)遠心頬側
   (2)近心頬側
   (3)隣接面〜歯根部
  3)2根の歯のスケーリング-下顎(ex.「7)
   (1)遠心頬側
   (2)近心
  4)刃部内面の見え方で,前腕運動ができているかを確認
 2.行ってはいけない操作
  1)やわらかい歯石では,両手の指を使用してはならない
  2)臼歯部用の器具を前歯に使わない
    Column 米国歯科衛生士アンケート
 3.歯面にうまく適合しないときの対処法
  1)ポジショニングの確認
   (1)脇の開きを確認する
   (2)手首の屈曲を確認する
  2)器具を変えてみる
 4.困難な部位・応用テクニック
  1)臼歯部(2根歯)
   (1)ポジション
   (2)使用する器具
   (3)立位用の器具と座位用の器具
   (4)固定法
  2)頬側遠心面(2根歯)(ex.「67)
   (1)ポジション
   (2)固定法
   (3)挿入の仕方
   (4)遠心根遠心面→近心根遠心面の順に行う
  3)頬側近心面
   (1)近心面が終了したら,次に遠心根近心面→近心根近心面の順に行う
   (2)CEJ近くを重ねてスケーリング(骨吸収により根が露出している場合)
  4)舌側
   (1)基本のポジション
   (2)遠心隅角→遠心面コンタクトポイント→近心根遠心面の順に行う
  5)最後臼歯遠心面〜遠心隅角
   (1)水平ストロークを応用する
   (2)最後臼歯部遠心に適合したシャンクの状態を覚えておく
   (3)次に近心面を行う(遠心根近心面→近心根近心面)
   (4)斜めストロークも併用する
   (5)3根の歯のスケーリング(ex.「5)
  6)7-4」頬側
   (1)はじめに各歯遠心隅角→遠心面コンタクトポイントまでを行う
   (2)♯で斜めストロークも応用する
   (3)各歯遠心隅角→近心に向けてスケーリング
  7)7-4」口蓋側
   (1)遠心側を行う
   (2)近心側を行う
  8)上顎第一小臼歯(ex.4)
   (1)基本のポジション
   (2)歯根の形態を確認する
   (3)スケーリングを進める順序
   (4)近心面のくぼみへのアプローチ(主に頬側から)
   (5)ハンドル部のマークに注意する
 5.とれないときのスケーリングの工夫
  1)水平ストロークを試してみる
  2)取り残し防止のため水平ストロークで仕上げる
 6.スケーリングが難しい部位・症例の攻略
  1)近接している根のスケーリング
   (1)基本のポジション
   (2)歯根の状態を確認する
   (3)使用する器具
  2)舌側傾斜・叢生歯
   (1)患者の顔の向き
   (2)ミラーテクニックを活用する
    Column ダブルサイドミラーを活用しよう
   (3)ヒューフレディマイクロミニで遠心面〜近心面のスケーリング
   (4)ヒューフレディネビィシックルでのスケーリング
  3)楔状欠損・アブフラクション
   (1)楔状欠損とは
   (2)アブフラクションとは
   (3)使用する器具
   (4)欠損部のある歯へのアプローチ(骨吸収があまりない場合)
  4)動揺歯のスケーリング
   (1)スケーリング時の力の加え方
 7.その他の歯周治療用器具
  1)LMファーケーター(分岐部ファーケーター)
  2)ハーシュフェルトファイルFH,F9/10
  3)LMホースケーラーエルゴアクセス
10 超音波スケーラー
 1.超音波スケーラーの基礎知識
  1)超音波スケーラーとハンドスケーラーの使い分け
  2)超音波スケーラーの原理
  3)超音波スケーラーの基本構造
   (1)チップの動き方
   (2)水量の調節
  4)超音波スケーラーの特徴的な作用と目的
  5)超音波スケーラーの禁忌と注意点
 2.さまざまな超音波スケーラー
  1)マグネット方式
   (1)マグネット方式のチップの動き
  2)ピエゾ方式
   (1)ピエゾ方式のチップの動き
   (2)パワーレベルやモードの選択
 3.超音波チップ(ピエゾとマグネット含む)
  1)超音波スケーラーチップの知識
  2)チップの部位
  3)チップの摩耗
   (1)チップの交換
  4)キュレットタイプチップのシャープニング
    Column 根分岐部に対するグレーシーキュレット刃部と超音波スケーラーのチップの比較
 4.ハンドピースの把持
  1)執筆状変法把持法
  2)ハンドピースコードマネジメント
  3)歯面に対するチップの角度
 5.2種類のストローク
 6.不適合な修復物・補綴物
 7.オーバーインスツルメンテーションを防ぐ
  1)術歯に応じたチップの選択とパワー設定
  2)チップの歯面に対する角度
 8.超音波スケーラー操作のポイント
  1)歯石の沈着が少量の場合
   (1)ストロークの方法
   (2)チップの選択
   (3)パワーレベルの選択
  2)硬い歯石や多量の歯石が沈着している場合
   (1)ストロークの方法
   (2)チップの選択
   (3)パワーレベルの選択
  3)マグネット方式の超音波スケーラーの使い方
   (1)マグネット方式のチップの当て方
   (2)症例に応じたチップの選択(マグネット方式)
  4)ピエゾ方式の超音波スケーラーの使い方
   (1)ピエゾ方式のチップの当て方
   (2)ピエゾ方式での根分岐部への適合の仕方
11 エアスケーラー
 1.エアスケーラーの基礎知識
  1)チップの動き
  2)パワー
  3)周波数
 2.さまざまなエアスケーラー
 3.エアスケーラーの操作
  1)注意
  2)チップの着脱
  3)給水源
  4)ストローク
  5)歯面への当て方
12 シャープニング
 1.シャープニングの基礎知識
  1)シャープニングの意味
  2)シャープニングのタイミング
 2.スケーラーの評価
  1)鋭さの評価
  2)誤ったテストスティックの使用方法
  3)テストスティック交換の目安
 3.シャープニングの実践
  1)シャープニングの難しさ
  2)スケーラーの原形が持つ意味
  3)シャープニングストーン
   (1)ストーンの形態
   (2)潤滑剤
   (3)ストーンの管理
   (4)誤ったストーンの手入れ
  4)シャープニングのポイント
  5)グレーシーキュレットのシャープニング手順
   (1)カッティングエッジを見分ける
   (2)赤い太線の部分をシャープニングする
   (3)偶数番号のグレーシーキュレットの場合
   (4)奇数番号のグレーシーキュレットの場合
  6)シックルのシャープニング手順
 4.特殊なストーンによるシャープニング
  1)ベイツでのシャープニング
  2)ファイルのシャープニング
  3)エキスプローラーのシャープニング
  4)シャープニングマシン

 文献
 索引