やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 日本の総人口に対する65 歳以上が占める割合が2007 年に21%を超え超高齢社会に突入し,今後も日本の高齢化率は増加の一途を辿ることが予想されている.世界に先駆けて超高齢社会となった日本の社会的対応,歯科的対応は,世界各国からも注目されている.また,昨今では「未病」や日本老年医学会が提唱する「フレイル」といった用語が医療業界を席巻しており,高齢者に見られる特有なステージを国民全体が認識し,高齢者が要介護状態とならないよう予防に努めることが我々歯科医療従事者にとっても必要となろう.
 このような状況を鑑み,厚生労働省は要介護者に対する口腔から栄養源の摂取の重要性を見直し,食育の普及,食力の獲得による「口から味わう楽しみの支援」を提唱している.厚生労働省老健局老人保健課から報告された平成27 年度介護報酬改定に関する審議報告(平成27年1 月9 日)概要の中には,「D.口腔・栄養管理に係る取組の充実」という項目があり,食事を経口摂取すること及びそれに向けた多職種連携の重要性が掲げられている.自分の口からしっかりと食べるためには,当然ながら口腔内に安定した咬合が存在する環境が整っていなければ達成することはできない.すなわち,歯の欠損に対する何らかの補綴装置の設計,装着が行われていることは健康回復の必須要件であるということである.
 本書では「現在の歯科情勢の整理」「リジッドサポートデンチャーの製作技法」「デジタル歯科時代を見据えたデンチャーワークの将来展望」という3 つの視点から,これからの超高齢社会に備えた知識・技術・認識の獲得の重要性をまとめることを試みた.「リジッドサポート」という言葉が聞かれるようになって久しく,これまでに関連学会,専門誌等にて供覧された報告を挙げれば枚挙に遑がないが,その言葉の意味や重要性,症例選択の必要性は,歯科臨床の経験を積んだ臨床家であるほど実感するものである〔筆者(玉置)としても36 年前に神奈川歯科大学補綴学第一講座主任,故・松尾悦郎教授の授業の中で初めてこの言葉を聞いたが,当時歯学部の4 年生であった筆者にはこの言葉の本質など知る由もなかった〕.
 反面,日本における保険制度の制約の中で義歯の設計に対する経済的な現実に直面・葛藤し,患者にとって理想的なリジッドサポート義歯の設計を断念せざるを得ない場面も少なくない.理想と現実のギャップは,臨床上必ず存在する.各装置の特徴を踏まえ,限られた条件の中で最良の治療を行うために――本書がその一助となれば幸いである.
 2016 年6 月
 玉置勝司
 神奈川歯科大学大学院歯学研究科顎咬合機能回復補綴医学分野
 佐藤幸司
 佐藤補綴研究室
 序
Part1 時代背景を見据えた機能するデンチャーの可能性
 1 超高齢社会の最新知見と歯科医療・パーシャルデンチャーの関わり(玉置勝司)
 2 対談:予知性獲得のために必要な患者情報と臨床的フィロソフィー(玉置勝司・佐藤幸司)
Part2 各種維持装置の技工術式・臨床応用と予知性
 1 パーシャルデンチャーにおけるパーツ選択の基本指針(佐藤幸司)
 2 コーヌステレスコープを活用したパーシャルデンチャー(久野富雄)
 3 エレクトロフォーミングシステムを併用したAGCドッペルクローネデンチャー(瀬 直・大畠一成(監修))
 4 レジリエンツテレスコープデンチャーの優位性(須藤哲也)
 5 力学的配慮に基づく磁性アタッチメントの応用(岡田通夫・伊藤太志・横江 誠)
 6 ミリングテクニックを活用したパーシャルデンチャー(青木智彦)
 7 インプラントアタッチメントの活用(上村圭介)
Part3 デンチャーワークの将来展望とラボサイドの役割
 1 切削加工機,3Dプリンターを活用したデンチャーワークの可能性(吉岡雅史・滝沢琢也・陸 誠)
 2 欠損補綴におけるジルコニア床義歯の役割(名倉 努)
 3 チェアサイドとの情報共有を的確にするコミュニケーションツールの活用(近藤 太)

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