やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者序文
 『筋膜マニピュレーション 理論編』(医歯薬出版刊)では,筋骨格系機能障害に対する筋膜機能異常についての解剖学的・生理学的解説と治療の基本が紹介された.
 筋膜機能異常は,筋膜高密度化,基質のゲル化,ヒアルロン酸の凝集化から生じる.その機能異常を生じる部位は,協調中心(CC)と融合中心(CF)とよばれ,経験則からいわれてきた経穴やツボ・トリガーポイントに8割程度は一致する.
 しかし,解剖学,生理学,病理学,治療学の観点から数多くのエビデンスが蓄積され,CCあるいはCFは筋外膜と深筋膜の機能異常だということが明らかとなった.
 『筋膜マニピュレーション 実践編』(医歯薬出版刊)では,筋骨格系機能障害でのCCとCFに対する具体的な治療手技が解説され,より実践的な内容となった.
 そして,本書では,内部(内臓)機能障害に対して医学的・理学療法的に治療できる症状が多岐にわたることが示されている.これまでは手術や投薬,あるいは物理療法に頼っていたが,筋膜マニピュレーションを用いることで,治療の幅が大きく広がることが示されている.しかも,民間療法のような怪しい手技ではなく,筋膜を通して生じる引張構造による機能異常を科学的に証明し,エビデンスが蓄積された筋膜マニピュレーション手技が解説されている.
 本書では,内臓・脈管・腺の内部機能障害に影響を与えている筋骨格系の評価と治療,さらには頭部・顔面の感覚器官治療,リンパ-免疫・皮膚-体温調節・脂肪-代謝・神経-心因性の障害に対する浅筋膜の治療までを解説している.
 本書に続く実践編では,実際の治療手技の詳細が示されることとなる.
 本書を読むことで,内部機能障害と浅筋膜に対する新たな可能性が広がることを実感できるであろう.そして,医学・理学療法の可能性の拡大に心がワクワクしてくることを実感していただきたい.
 2017年1月
 竹井 仁
 首都大学東京大学院 人間健康科学研究科理学療法科学域
 理学療法士・医学博士・OMPT・FMT・GPTH


謝辞
 本書に掲載されている多くの解剖写真は,Padova大学の整形外科医で解剖学の講師でもある私の娘Carlaによるものである.これらの写真は,Padova大学の解剖学部門と,パリのRene Descartes大学の両方で撮影されたものである.
 Padova大学で物理医学およびリハビリテーション医学の専門医師である私の息子Antonioは,解剖写真を何枚か撮影している.これらの写真は,Touroカレッジのオステオパシー医学の解剖学・学科長のSushama Rich博士と共同で,New York大学で撮影されたものである.
 Chiarugi G.とBucciante L.による「Istituzioni di Anatomi dell'uomo」と,Esposite V.らによる「Anatomia Umama」から,イラストを使用することを承諾していただいたM.Piccin博士に感謝を申し上げたい.
 米国に筋膜マニピュレーションを紹介していただいたW.Hammer教授からは,彼の著書である“Functional Soft-Tissue Examination and Treatment by Manual Methods”から,画像を使用する許可を与えていただいていた.
 エンジニアのGiuseppe Costaに相談した結果,Tensile Structure(引張構造),catenaries(懸垂線:カテナリー),tensors(張筋)にかかわる概念を明確にしてくれたことにも感謝を申し上げたい.
 Luigi Stecco

 Lawrence SteinbeckとRodney Jackonによる全般的な英訳支援とRena Margulisの鍼治療用語やそれ以外の英訳への手助けとなるアドバイスに特別の謝辞を表したい.


はじめに
 私は常に,内部機能(内臓)障害の徒手療法を奨励してきたので,Luigi Steccoによる『内部機能障害への筋膜マニピュレーション』にこの序文を書くことはこのうえない幸せである.私の熱意は,私がオステオパシー医としての経験から開発してきた方法である「内臓マニピュレーション」を使用して得られる素晴らしい結果に由来する.近年では,多くの学者らが,臓器から,それら周囲の筋膜へと彼らの興味を移してきているが,本書はすべての内部筋膜の概要を提供するための初めての著書である.さらに本書は,臓器,筋膜,筋骨格系のあいだの特異的な関係を示す生体力学モデルを提案し,これらの関係を理解するのに役立つように,美しい解剖画像が掲載されている.
 本書は,筋膜のすべての側面を検討し,筋膜がどのようにストレス下で連続性を変更し(可塑性),かつマニピュレーションの際に伸張性をふたたび得ることができる(順応性)かという人体の唯一の組織であることを示している.
 私は,異なる体幹腔がさまざまな内臓とどのように相互に関係することができるかについて,完全に説明している引張構造の概念を評価している.実際に,体幹筋膜は,内部臓器の機能に干渉することなく,十分な体幹の動きを可能にする引張構造の原則に従って配置されている.この概念は,セラピストの注意を,臓器自体から「その収容物(コンテナ)」に効果的に移行する.そのことで,治療として,臓器が生理的リズムに応じて動くことが可能となる適した環境を再形成することに集中することができる.
 私たちの書籍では,常に内臓器の可動性と運動性の重要性を支持してきた.現在,Steccoによる本書でも,筋膜のガイドとしての基本概念を維持している.しかし,それはさらに,器官とシステムの概念を広げている.最初は,提案される多くの異なる徒手的アプローチに,読者はいくらか当惑するかもしれない.しかしながら,いったん,これらのアプローチを学習すれば,それらはすべて,どんな患者でも有している可能性がある臨床的変化の治療に役立つことが理解可能となる.
 これらの考慮に基づいて,読者にとって,Steccoによるこのマニュアルが,人体に表われる徴候と症状をしばしば覆い隠してしまう薬物(制酸薬,鎮痛薬,抗痙攣薬など)を用いることなく,内部機能障害を治療することに関心のあるすべてのセラピストのための役立つガイドになることが理解されるであろう.
 最後に,私は,Steccoが説明している自律神経系および内部筋膜との関連を述べた明快さを強調したいと思う.この明快さのなかで,自律神経系はもはや不可解な混乱をもったシステムを意味しない.さらにそれは,完全に異なる器官の機能を調整して,内臓筋膜に対する相互作用における一種の末梢脳になる.
 セラピスト,医師,オステオパシー医,カイロプラクター,そして研究者らが,私たちの手技が多くの内臓系の問題を解決できるように,これらの考えの妥当性を確認するために,本書が提案しているものを真剣に受け取っていただけることを,私は心から願っている.
 『内部機能障害への筋膜マニピュレーション』は,筋膜解剖の混乱の解明に向けてセラピストの手を導くために,単純ではあるが効果的な生体力学的モデルを提供する.筋膜マニピュレーションのモットーを引用すると,「manus sapiens po-tens est:知識のある手は能力がある」である.
 JP Barral
 オステオパシー医学のOsteopathic Medicine European School(英国メイドストーン市),およびParis du Nord医学部(オステオパシー・徒手医学学科)卒業
 監訳者序文(竹井 仁)
 謝辞(Luigi Stecco)
 はじめに(JP Barral)
 献辞
 省略語
 序論
 基本原理
 随意筋の筋膜
 不随意筋の筋膜
 内部筋膜の名称
第1部 臓器-筋膜(o-f)単位
 第1章 臓器-筋膜(o-f)単位の解剖
   体幹の腔
  臓器-筋膜単位(o-f単位)
  o-f単位の命名
   頭部のo-f単位
 第2章 臓器-筋膜(o-f)単位の進化
  実質組織の進化
   内臓o-f単位の構成,血管o-f単位の構成,腺o-f単位の構成
  被覆筋膜の進化
  腸内システムの進化
 第3章 臓器-筋膜(o-f)単位の生理学
   変化に対する勇気
  壁内システムと分節蠕動運動
  壁外システムと臓器-筋膜(o-f)単位の蠕動運動
 第4章 引張構造
   圧迫せず含むこと,引張構造,土木工学の引張構造
  引張構造と体腔
   前方-後方(antero-posterior:AP)張筋群,
   外方-側方(latero-lateral:LL)張筋群,斜方(oblique:OB)張筋群
  解剖学から治療へ
   解剖学から病理学へ,結節点
 第5章 局所的関連痛
  深部痛と壁側痛
  外部から内部へ:体性-内臓疼痛
  内部から外部へ:内臓-体性疼痛
  内臓-体性疼痛の解剖学的説明
  内部機能障害のための評価チャート(評価医療記録)
  問診とデータ
  仮説
  検証
  治療
  帰結
 第6章 頸部引張構造
  頸部の内臓o-f単位
   内臓-頸部(vi-cl)のo-fの単位の筋膜,内臓-頸部(vi-cl)のo-f単位の機能,
   内臓-頸部(vi-cl)のo-f単位の機能障害
  頸部の血管o-f単位
   血管-頸部(va-cl)のo-f単位の筋膜,血管-頸部(va-cl)のo-f単位の機能,
   血管-頸部(va-cl)のo-f単位の機能障害
  頸部の腺o-f単位
   腺-頸部(gl-cl)のo-f単位の筋膜,腺-頸部(glcl)のo-f単位の機能,
   腺-頸部(gl-cl)のo-f単位の機能障害
  頸部引張構造の治療
   臨床症例検証
 第7章 胸郭引張構造
  胸郭の内臓o-f単位
   内臓-胸郭(vi-th)のo-f単位の筋膜,内臓-胸郭(vi-th)のo-f単位の機能,
   内臓-胸郭(vi-th)のo-f単位の機能障害
  胸郭の血管o-f単位
   血管-胸郭(va-th)のo-f単位の筋膜,血管-胸郭(va-th)のo-f単位の機能,
   血管-胸郭(va-th)のo-f単位の機能障害
  胸郭の腺o-f単位
   腺-胸郭(gl-th)のo-f単位の筋膜,腺-胸郭(glth)のo-f単位の機能,
   腺-胸郭(gl-th)のo-f単位の機能障害
  胸郭引張構造の治療
   臨床症例検証
 第8章 腰部引張構造
  腰部の内臓o-f単位
   内臓-腰部(vi-lu)のo-f単位の筋膜,内臓-腰部(vi-lu)のo-f単位の機能,
   内臓-腰部(vi-lu)のo-f単位の機能障害
  腰部の血管o-f単位
   血管-腰部(va-lu)のo-f単位の筋膜,血管-腰部(va-lu)のo-f単位の機能,
   血管-腰部(va-lu)のo-f単位の機能障害
  腰部の腺o-f単位
   腺-腰部(gl-lu)のo-f単位の筋膜,腺-腰部(gllu)のo-f単位の機能,
   腺-腰部(gl-lu)のo-f単位の機能障害
  腰部引張構造の治療
   臨床症例検証
 第9章 骨盤引張構造
  骨盤の内臓o-f単位
   内臓-骨盤(vi-pv)のo-f単位の筋膜,内臓-骨盤(vi-pv)のo-f単位の機能,
   内臓-骨盤(vi-pv)のo-f単位の機能障害
  骨盤の血管o-f単位
   血管-骨盤(va-pv)のo-f単位の筋膜,血管-骨盤(va-pv)のo-f単位の機能,
   血管-骨盤(vapv)のo-f単位の機能障害
  骨盤の腺o-f単位
   腺-骨盤(gl-pv)のo-f単位の筋膜,腺-骨盤(gl-pv)のo-f単位の機能,
   腺-骨盤(gl-pv)のo-f単位の機能障害
  骨盤引張構造の治療
   臨床症例検証
 第10章 頭部引張構造
  視覚のo-f単位
   視覚のo-f単位の筋膜,視覚のo-f単位の機能,視覚のo-f単位の機能障害
  立体視のo-f単位
   立体視のo-f単位の筋膜,立体視のo-f単位の機能,立体視のo-f単位の機能障害
  聴覚のo-f単位
   聴覚のo-f単位の筋膜,聴覚のo-f単位の機能,聴覚のo-f単位の機能障害
  平衡運動のo-f単位
   平衡運動のo-f単位の筋膜,平衡運動のo-f単位の機能,平衡運動のo-f単位の機能障害
  嗅覚のo-f単位
   嗅覚のo-f単位の筋膜,嗅覚のo-f単位の機能,嗅覚のo-f単位の機能障害
  味覚のo-f単位
   味覚のo-f単位の筋膜,味覚のo-f単位の機能,味覚のo-f単位の機能障害
  頭部引張構造の治療
   臨床症例検証
  内部機能障害への筋膜マニピュレーション:分節的機能障害への適応
第2部 器官-筋膜(a-f)配列
 第11章 器官-筋膜(a-f)配列の解剖学
   配列と張筋,器官-筋膜(a-f)配列
  内臓配列
  血管配列
  腺配列
  受容器配列
 第12章 器官-筋膜(a-f)配列の進化
   a-f配列および中枢神経系からの神経
  3つの内部の筋膜配列の進化
   横中隔の進化
  3つの自律神経系(ANS)の進化
   副交感神経系,交感神経系,腺交感神経系
 第13章 懸垂線(カテナリー)および遠位の張筋
   内部の筋膜配列の生理学
  懸垂線
  懸垂線および体幹の引張構造
  懸垂線および遠位の張筋
   半導体と圧電気
  器官の評価チャート
 第14章 遠位(末端)の関連痛
   分節性の疼痛から多分節性の疼痛へ,遠位の関連痛の4つの経路
  外部の代償
   体性-体性の関連痛,体性-内臓の関連痛
  内部の代償
   内臓-内臓の関連痛,内臓-体性の関連痛
  鍼治療との類似点
   経絡と内部臓器の名称,3つのエネルギーの下位循環路,
   体幹の点と遠位の点,鍼治療と耳介療法
 第15章 内臓配列
  内臓配列の解剖
  呼吸器
   呼吸器の機能,呼吸器の機能障害
  消化器
   消化器の機能,消化器の機能障害
  内臓配列の治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,臨床症例検証
 第16章 血管配列
   血管配列の解剖
  循環器
   循環器の機能,循環器の機能障害
  泌尿器
   泌尿器の機能,泌尿器の機能障害
  血管配列の治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,臨床症例検証
 第17章 腺配列
   腺配列の解剖
  内分泌器
   内分泌器の機能,内分泌器の機能障害
  造血器
   造血器の機能,造血器の機能障害
  腺配列の治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,臨床症例検証
 第18章 受容器配列
   受容器配列の解剖
  光受容器
   光受容器の機能,光受容器の機能障害
  機械受容器
   機械受容器の機能,機械受容器の機能障害
  化学受容器
   化学受容器の機能,化学受容器の機能障害
  受容器配列の治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,
   受容器配列の共同作用,臨床症例検証
  内部機能障害への筋膜マニピュレーション:包括的な機能障害への適応
第3部 システム(系)
 第19章 システム(系)の解剖
   システムと浅筋膜
  ストレスに対するシステムの反応
  ストレスと自律神経系
   ストレスと交感神経系,ストレスと副交感神経系,
   ストレスと腺交感神経系,全身性および多系統病理
 第20章 システム(系)の進化
   システムの外部および内部の構成要素
  リンパ-免疫系の進化
  皮膚-体温調節系の進化
  脂肪-代謝系の進化
  自律神経節の進化
 第21章 浅筋膜の四分円
   浅筋膜
  四分円
   浅筋膜の横方向皮膚支帯,浅筋膜の縦方向皮膚支帯,浅筋膜の四分円
  システムに対する評価チャート
  システムに対する評価チャートの編集
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療
 第22章 リンパ-免疫系
   リンパ-免疫系(SLI)とストレス
  リンパ系
   リンパ系の機能,リンパ系の機能障害
  免疫系
   免疫系の機能,免疫系の機能障害
  SLIの治療
   免疫系のマニピュレーション,リンパ系のモビライゼーション,臨床的症例検証
 第23章 脂肪-代謝系
   脂肪-代謝系(SAM)とストレス
  脂肪系
   脂肪系の機能,脂肪系の機能障害
  代謝系
   代謝系の機能,代謝系の機能障害
  SAMの治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,臨床的症例検証
 第24章 皮膚-体温調節系
   皮膚-体温調節系(SCT)とストレス
  皮膚系と末梢神経系(PNS)
   皮膚系の機能,皮膚系の機能障害
  体温調節系
   体温調節系の機能,体温調節系の機能障害
  SCTとPNSの治療
   臨床的症例検証
 第25章 神経-心因系
   ストレスに対する神経-心因系の反応
  中枢神経系(CNS)
   CNSの機能,CNSの機能障害
  CNSの治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療
  心因系
   心因系の機能,心因系の機能障害
  心因系の治療
   問診とデータ,仮説,触診検証,治療,臨床的症例検証
  内部機能障害への筋膜マニピュレーション:全身性機能障害への適応
 第26章 要約の表
  内部機能障害への筋膜マニピュレーション:適応
 結論

 用語集
 文献
 索引