やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書は,医療・教育・福祉等の臨床現場の言語聴覚士ならびに言語聴覚士養成校の学生の皆様に,活用していただくことを目的としました.
 近年の言語聴覚障害学領域の進歩により,新しい検査法や訓練・指導法が開発されてきました.本書では,このような新しい流れを取り入れながら,各章が障害別になるように組み立てました.また,読みやすくするために,各障害の説明にあたっては,大きく「検査・評価」と「訓練・指導・支援」の二部構成にすること,その上でさらに細かい項目立てを行うこと,理解しやすくするために図・写真・イラストを多用することを基本方針としました.
 各章には,言語聴覚士の活動の核となる検査・評価,訓練・指導・支援について,具体的かつ詳細に記されています.障害の特性等に応じて,臨床の流れ,評価の視点・枠組み,訓練の適否の判断・根拠等が適宜記載されており,支援プログラムの適応事例も紹介されています.また,家族への介入ができるように,具体例を示した章もあります.
 実際の臨床現場でコミュニケーション障害児者に関わる際は,本書に書かれている内容を基本としながら,さらに対象者ごとに,適切な訓練法を工夫する必要があります.若い言語聴覚士や学生は,訓練法に関するフローチャートのようなものがあると便利だと思うかもしれません.しかし,実際の臨床場面では,評価結果に応じて,自動的に,訓練法が導かれるわけではありません.本書から得た知識をもとにして,対象者を総合的に理解・把握すること,さらに対象者の症状や問題に適した訓練が行えるように,柔軟な応用力や工夫できる力を身につけてもらいたいと思います.
 WHO(世界保健機関)のICF(International Classification of Functioning,Disability and Health,2001)の考え方に沿うと,コミュニケーション障害児者を取り巻く家族や友人,保健などの専門職も,人的な「環境因子」として,大きな影響を及ぼします.そのため,家族および他職種と情報交換を行い,コミュニケーション障害児者のコミュニケーション能力の向上や生活のしやすさにつながる支援を行うことが大切です.そのような支援を考える時の一助として,本書がお役に立てば幸いです.
 執筆は,わが国の言語聴覚障害学領域で指導的な役割を果たしており,かつ教育・臨床・研究現場で,若い学生や言語聴覚士に日々接している第一線の教育者や臨床家にお願いしました.教育者として,また臨床家として,温かい気持ちと鋭敏な目をもってご執筆いただきましたことに,感謝いたします.
 本書が,多くの読者の支持を得て,皆様方の日々の臨床や勉強に,真に役立つことを願っております.
 末尾になりましたが,刊行に関してご尽力いただきました医歯薬出版の編集担当者に御礼申し上げます.
 2017年2月
 編者 伊藤元信
 吉畑博代
 序
第1章 言語発達遅滞(知的障害を中心に)
 A.言語発達遅滞(畦上恭彦・山口浩明)
  1.定型発達と言語発達
  2.前言語期の言語発達
  3.語彙・構文の発達
  4.音韻意識の発達
  5.構音の発達
  6.言語発達遅滞とは
 B.知的障害(山口浩明・畦上恭彦)
  1.はじめに
  2.評価
   1)評価の基礎
   2)評価の目的と方法
   3)評価の視点
   4)言語評価の方法
  3.指導・支援
   1)指導・支援の流れ
   2)具体的なアプローチ
第2章 自閉症スペクトラム障害
 (玉井ふみ)
  1.はじめに
   1)障害概念の変遷
   2)認知特性
   3)言語・コミュニケーションの特徴
  2.評価
   1)目的と留意点
   2)検査
  3.指導・支援
   1)理解すること(受容性)への支援
   2)表現すること(自発性)への支援
   3)やりとりすること(相互性)への支援
第3章 学習障害・特異的言語発達障害
 (原 惠子)
 A.学習障害(LD)
  1.はじめに
   1)定義
   2)頻度
   3)読みの神経学的基盤と障害像
   4)読みの音韻的基盤
   5)音の粒・音の単位
   6)読みの2つのレベル
  2.評価
   1)知的レベルの確認
   2)学習の遅れの有無の判定
   3)掘り下げ検査
  3.指導
   1)指導開始にあたって
   2)読みの指導
   3)機器の活用
   4)学校での支援
   5)家族支援
  4.まとめ
 B.特異的言語発達障害(SLI)
  1.はじめに
   1)特異的言語発達障害とは
   2)英語圏での臨床像
   3)医学的診断と診断基準
  2.評価
   1)言語の各側面の評価
   2)各時期の様子と評価
  3.指導
   1)間接的な指導の重要性
   2)子どもに対する直接的な指導
  4.まとめ
第4章 小児の機能性構音障害
 (今井智子)
  1.はじめに
  2.検査・評価
   1)情報収集
   2)構音の評価
   3)構音器官の形態と機能検査
   4)語音弁別検査
   5)音韻認識検査
   6)言語検査・知能検査
  3.訓練・治療・指導
   1)構音訓練の適応
   2)構音訓練
   3)語音弁別訓練
   4)音節分解・抽出・同定訓練
   5)他の問題を合併している場合
   6)構音訓練を成功させるために
第5章 小児の器質性構音障害
 (西脇恵子)
  1.概観
  2.原因疾患
   1)口蓋裂
   2)先天性鼻咽腔閉鎖不全症
   3)舌小帯短縮症
   4)巨舌症
   5)不正咬合
  3.口蓋裂
   1)評価
   2)治療・訓練
  4.先天性鼻咽腔閉鎖不全症
  5.舌小帯短縮症
   1)評価
   2)治療・訓練
 6.巨舌症
 7.不正咬合
第6章 脳性麻痺
 (椎名英貴)
  1.定義
  2.分類
  3.コミュニケーション障害
   1)脳性麻痺によるコミュニケーション障害の枠組み
   2)コミュニケーション障害の評価
   3)コミュニケーション障害への介入
  4.摂食嚥下障害
   1)脳性麻痺による摂食嚥下障害の枠組み
   2)摂食嚥下障害の評価
   3)摂食嚥下障害への介入
第7章 吃音
 (坂田善政)
  1.はじめに
  2.評価
   1)鑑別診断
   2)基本情報
   3)評価の枠組み
   4)各側面の評価
  3.訓練・支援
   1)訓練・支援の基本
   2)幼児
   3)学童
   4)中高生以上
   5)その他のアプローチ
第8章 聴覚障害
 A.聴覚臨床の基礎(進藤美津子)
  1.はじめに
  2.検査・評価
   1)聴覚検査
   2)聴覚検査バッテリーの組み合わせ方
   3)聴覚障害児の言語および知的機能の評価
  3.訓練・支援
   1)失聴時期の違いによる聴覚障害の特徴と留意点(主として両側性感音難聴の場合)
   2)聴覚障害児者の各発達期の課題と言語支援のポイント
 B.補聴器(小渕千絵)
  1.補聴器の構造と機能
   1)補聴器の構造
   2)補聴器の種類,形状
   3)耳型採取
   4)補聴援助システム
   5)補聴器の特性と機能
  2.成人における補聴器適合と評価・訓練
   1)補聴器適否の判断のための評価
   2)装用耳の決定と補聴器の選択
   3)補聴器の調整
   4)補聴器特性の測定
   5)補聴器の装用効果の評価
   6)補聴器の装用指導
   7)聴能訓練
  3.小児における補聴器適合と評価・訓練
   1)小児の聴力推定と補聴器適合
   2)補聴器の装用時期
   3)装用耳の検討と補聴器の選択
   4)補聴器の調整
   5)補聴器の装用効果の評価
   6)補聴器の装用指導
   7)聴覚学習,聴覚活用の指導
 C.人工聴覚器(人工内耳を中心に)(城間将江)
  1.多様化する人工聴覚器
   1)伝音難聴・混合難聴
   2)感音難聴
  2.人工内耳
   1)人工内耳の種類
   2)人工内耳の構造
   3)人工内耳の適応ガイドライン
   4)両側人工内耳
   5)マッピング(mapping)
   6)成人の人工内耳装用
   7)小児の人工内耳装用
第9章 失語症
 (阿部晶子)
  1.はじめに
   1)失語症の基本的な考え方
   2)失語症の治療の過程
   3)失語症の評価・訓練の流れ
  2.評価
   1)インテーク面接(初回面接)
   2)スクリーニング検査
   3)失語症鑑別診断検査
   4)掘り下げ検査(Deep Test)
   5)障害像の把握と訓練計画立案
  3.訓練
   1)機能回復訓練の理論
   2)語彙訓練
   3)構文訓練
   4)コミュニケーション能力向上訓練の理論と実際
   5)発語失行の訓練
  4.各種支援
   1)心理的支援
   2)生活・社会面の支援
第10章 高次脳機能障害
 (植田 恵)
  1.はじめに
  2.評価
   1)急性期の評価
   2)各種障害の症状とその評価
  3.リハビリテーション
   1)基本的な考え方
   2)急性期の対応
   3)各種障害に対する機能訓練
   4)就労支援と社会資源の活用
第11章 認知症
 (飯干紀代子)
  1.認知症の背景疾患の把握
  2.認知症に対する言語聴覚士の役割
  3.評価
   1)評価の目的とポイント
   2)コミュニケーションの基本機能の評価
  4.訓練・支援・助言
   1)認知症患者に対する言語聴覚士の訓練・支援・助言の基本原則
   2)個人介入
   3)集団での介入
   4)重度患者への対応
   5)コミュニケーションに適した環境調整
   6)家族,介護者に対する助言
第12章 成人の構音障害と発語失行
 A.運動障害性構音障害(小澤由嗣)
  1.運動障害性構音障害とその鑑別
  2.検査・評価
   1)主訴の把握,対象者のコミュニケーションの状態,思いの理解
   2)検査
  3.支援
   1)支援目標の設定
   2)支援方法
 B.口腔がんおよび中咽頭がんの構音障害(西脇恵子)
  1.構音障害の特徴
  2.がんの治療法について
  3.手術部位による構音への影響
  4.放射線療法・化学療法による構音への影響
  5.評価
   1)構音器官の形態・運動・感覚の評価
   2)構音・音声の評価
  6.リハビリテーション
   1)治療前からの関わり
   2)構音器官の運動機能のリハビリテーション
   3)歯科補綴装置を使用したリハビリテーション
   4)代償的な発話行動のリハビリテーション
   5)経過の観察
  7.心理的支持
  8.ターミナル期の患者への言語聴覚士の関わり
 C.発語失行
  1.発語失行とその鑑別(小澤由嗣)
  2.検査・評価(小澤由嗣)
   1)発語失行症検査
   2)発声発語器官の検査
  3.訓練(阿部晶子)
   1)訓練の原則
   2)訓練の実際
第13章 音声障害(発声障害)
 (中山剛志)
  1.はじめに
  2.評価
   1)音声障害の分類
   2)臨床の流れ
   3)評価の実際
  3.治療
   1)治療方針の決定
   2)治療法
  4.無喉頭音声
   1)無喉頭音声のリハビリテーションの流れ
   2)無喉頭音声の種類とその選択
   3)無喉頭音声の種類と訓練
  5.気管切開
   1)気管切開とは
   2)気管切開チューブ(気管カニューレ)
   3)音声確保の方法
   4)気管切開患者に対する音声確保のポイント
第14章 小児の摂食嚥下障害
 (田村文誉)
  1.はじめに
  2.評価
   1)医療面接(問診)
   2)摂食嚥下障害のスクリーニング
   3)精密検査
  3.指導
   1)発達の原則
   2)摂食指導の3本柱
   3)目標設定の考え方
第15章 成人の摂食嚥下障害
 (稲本陽子)
  1.はじめに
  2.検査・評価
   1)診察と評価の流れ
   2)重症度判定
  3.訓練・指導
   A:間接訓練
    1)目的・前提
    2)全般
    3)口腔期
    4)咽頭期
    5)気道防御のための訓練
   B:直接訓練
    1)目的・前提
    2)促通:嚥下反射を誘発させるための手段
    3)嚥下手技
    4)姿勢調整
    5)食形態・量
    6)環境設定
    7)介護者への指導

 索引