CASE19.肝転移の所見を丁寧に取る(前編)
Bモード像では境界明瞭,輪郭がやや不整な腫瘤で,厚く不均一なハローを認め,肝転移が強く疑われた.一方,造影超音波を見ると,肝細胞癌の被膜濃染を思わせる像など,肝転移にしてはやや非典型的な所見もみられた.今回はおもに,肝転移と肝細胞癌の外側陰影・ハローについて,丁寧に検討を進めていく.
若 杉:肝腫瘤性病変を評価する際の10個の所見を確認していきましょう.図1は,勉強会などで技師さん達に提示しているものです.腫瘍を評価する際には,これくらいの項目を所見としてきちんと書いておくとよいだろうと考えています.
長谷川:なるほど.

図1 (肝)腫瘍の所見で着目する点

若 杉:順番に見ていきましょう.まず部位.大事ですね.たとえば限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia;FNH)や類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma)などは,肝の辺縁部に生じやすいです(図2).

図2 @部位
限局性結節性過形成(FNH)は血行障害が原因の一つで,肝辺縁部に生じやすい.

若 杉:次に,技師さんは「形」を記載する時に迷われることが多いようですね.JABTS(日本乳腺甲状腺超音波医学会)で用いられている「形」の説明がわかりやすいでしょう.円形/楕円形,多角形,分葉形,不整形に分けます.この4つのどれかを書くだけでも,ずいぶんすっきりすると思います(図3).

図3 B形
病変の形態は「かど」と「くびれ」の有無で分類する.
(日本乳腺甲状腺超音波医学会 編:乳房超音波診断ガイドライン改訂第3版.南江堂,2014 より引用)

若 杉:そして境界,輪郭についてです.境界不明瞭で輪郭不整な病変は,浸潤性発育をしているであろうことが示唆されます.逆に境界明瞭で輪郭は平滑だと,膨張性発育ですね(図4).
市 原:そうですね.

図4 C境界,輪郭
境界不明瞭で輪郭不整な病変は浸潤性発育を,境界明瞭で輪郭平滑な病変は膨張性発育をする腫瘍である.

若 杉:内部エコーレベル,エコーパターンに関しては,内部エコーが不均一だと組織も不均一です(図5).

図5 D内部エコーレベル,エコーパターン
内部エコーが均一な病変は内部の組織も均一で,髄様な腫瘍であることが多い.内部が不均一な腫瘍は組織も不均一で,壊死,脂肪化,線維化などが混在していることが多い.

若 杉:後は,後方エコー.超音波検査士試験の書類などを読んでいると,技師さんが記載しないことが多い項目のように感じます.後方エコーが増強しているか減弱しているかは,内部性状を推察するうえで重要だと思います(図6).
金久保:勉強になります.

図6 E後方エコー
後方エコーが増強している病変は,内部が液体であるか,髄様な腫瘍である.後方エコーが減弱している病変は内部の線維化,壊死,脂肪化が強い腫瘍である.

若 杉:続いて外側陰影とハローですが,今回の本編ではこれらを取り上げました.ハローはその有無を所見に記載するだけでは不十分です.ハローがある時に,それが薄くて均一か,厚くて不均一かに着目して所見を記載してください(図7).

図7 Fハロー,外側陰影
ハローは薄くて均一か,厚くて不均一かで質的診断を行う.

若 杉:以上のように所見を取っておくとよいでしょう.「所見」は事実を記載するものであり,自分の考えを含めずに客観的に書けるよう努力します.そこから次に考える段階へ進むための情報ということです.
※この記事は,月刊『Medical Technology』49巻4号(2021年4月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ