特集 診療報酬の変化とリハビリテーション医療

特集にあたって

 今回の特集では,大上段に振りかぶって「診療報酬の変化とリハビリテーション医療」を取り上げたが,われわれにとってこの課題は大きすぎるだろうか.
 リハビリテーションは高齢者の医療費抑制のターゲットとされ,診療報酬の改定の荒波を大きく受けてきた.回復期病棟制度が導入されて10年,矢継ぎ早に病期別区分,臓器別分類等リハビリテーション医療のもつ特性(障害の治療や発症から社会復帰までの治療体系)までが揺さぶられてきた.日本リハビリテーション医学会もかなり抵抗してきたが,過去を知らない世代が現状をそのまま受け入れて育ってしまう.10年たった今この問題を総括し,今後のリハ医療のありかたを探るべきタイミングにきたと思う.
 鼎談では,日本リハビリテーション医学会をリードしてきたメンバーに,診療報酬の度重なる改定が,どんな変化を医療に,またリハビリテーション医師,スタッフの教育に影響を与えてきたかを討論いただき,進むべき方向性を提言していただいた.
 後半では,急性期,回復期を通して医療現場で活躍している諸先生からの肉声を届けることができたのは幸いである.厳しくなった環境でありながら,リハビリテーション診療の広がり,臨床各科との協力,病院活動から地域連携にと,八面六臂に活動している姿がひたひたと原稿から迫ってくる.従来のリハビリテーション医療のあり方が崩れたが,地道に活動の範囲を広げておられる先生方に,新しいリハビリテーション医の生きかたがみえてくる.今後の医療のありかたや後進の教育等,新しい方向性が着実に実を結びつつあるとも思える.各先生方の活動を支えるのは,リハビリテーションスタッフとの協力というリハビリテーション医療の原点にあると思う.かつて,診療報酬による変化を日本リハビリテーション医学会がアンケートで集めたことがあるが,内容は多少物足りなさを覚えた.今回の特集での先生方のご発言は,現場で実績を重ねられてきたせいか,大きな重みをもってボディーブローのように心に響いてくる.
 本誌が目指してきた「現場で働く先生方に勇気を与える雑誌」は,今回も各地域で頑張っている先生方に,こういった仲間がいるのに自分もなんとかしないといった方向性と刺激が与えられることを確信する.
 忙しいなかご草稿をいただいた先生方に大きな感謝と拍手を送りたい.

 (編集委員会)

 

鼎談 リハ医療はどう進むべきか−診療報酬で変化したリハの現状と課題をふまえて
   
江藤文夫 石神重信 正門由久

急性期医療の現場では(1) 診療報酬は急性期リハビリテーションにどのような影響を与えたか
   
原 行弘
Key Words 診療報酬 リハビリテーション 急性期
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  リハ科医師は常勤3名と非常勤1名,リハスタッフはPT8名,OT5名,ST2名に加え,非常勤の臨床心理士3名がおり認知リハを行っている.特徴としてパワーアシスト機能的電気刺激療法を利用したニューロリハを施行している.大学病院という性格上,急性期リハを中心に対象患者は多岐にわたる.
Q2 診療報酬による変化は?
  急性期病院である当院では,2008年の診療報酬改定の影響は総合すると少なかったといえる.これは,疾患別リハ診療報酬引き下げに対し,リハの密度を濃くして可能な限り単位数を増やそうと意識した結果と思われる.しかし,リハ1日9単位まで算定可能な急性期患者は,さまざまな要因からほとんどいなかった.
Q3 リハビリテーション医として関与の変化は?
  レセプトの症状詳記やリハ総合実施計画書等のペーパーワークの煩雑化が大きい.また,地域連携パスに関連した会議の義務や急性期医療の制約が,回復期に影響を及ぼしている.
Q4 現状のリハ診療報酬をどうみるか?
  疾患別リハ診療体系や1月あたり13単位の上限およびリハ総合計画書の見直し,リハ専門家の診療対価の設定,リンパ浮腫管理料の改定などが望まれる.

急性期医療の現場では(2) 急性期リハビリテーションの臨床からみた診療報酬の問題点
   
木村伸也 橋詰玉枝子 林 博教
Key Words 急性期リハビリテーション リハ診療報酬 病棟リハビリテーション
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  高度救命救急センターを有する大学病院のリハ部門として,専任医師(リハ科専門医),PT,OT,STが所属している.脳血管障害,運動器疾患,呼吸・循環器疾患や悪性腫瘍による廃用症候群などを対象に早期からリハを開始している.年間約1,500例の入院初診,1日あたり受診患者数は約150名である.回復期リハ病棟など周辺26病院と地域連携ネットワークを形成している.
Q2 診療報酬による変化は?
  2004年以降の診療点数改定によって,患者数は増加している.特に脳血管疾患,廃用症候群の増加が著しい.リハ単位数も増加している.一方,入院期間は短縮しており,より早期からの正確な予後予測と退院にむけたリハが求められる.
Q3 リハビリテーション医としての関与の変化は?
  リハ医が中心となって,大腿骨頸部骨折,脳卒中等の急性期リハ充実と地域連携強化に取り組んできた.地域連携パスの策定に貢献すると同時に,脳卒中センター病棟へのリハ医・PT・OTの配置,病棟リハ室設置,内科医・看護師とのカンファレンスなど病棟リハの強化を図っている.
Q4 現状のリハビリテーション診療報酬をどうみるか?
  急性期リハの充実にとって,(1)リハ的リスク管理を含む医師によるリハ処方,(2)リハ専門職の病棟配置,(3)看護によるリハ的ケア,の3点で診療報酬上の評価が必要である.加えて,疾患別リハ料の再検討,生活機能の重症度によるリハ料の設定,リハ施設基準の見直しを望む.

急性期医療の現場では(3) リハビリテーションにかかわる診療報酬の本質的問題
   
高橋守正 金城龍太 濱中紀成 田後裕之
Key Words 急性期 回復期 期間規定 疾患別リハ
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  当院は急性期リハ,回復期リハ,外来リハを行っている.リハ部門の人員は急性期だけならば相応であろうが,続くステージのリハも実践しているため不足していると感じる.本稿では回復期リハ病棟をもつ民間総合病院での急性期リハについて述べる.
Q2 診療報酬改定による変化は?
  DPC,疾患別リハ区分,リハ期間上限日数,回復期リハ転院可能期間,回復期リハ自宅退院率に起因する変化があると考えている.前三者と後二者は観点が異なるが,急性期と回復期は連続しているため相互に影響する.
Q3 リハビリテーション科医としての関与の変化は?
  当院では急性期リハについてのかかわりかたに変化はない.しかし回復期リハ病棟への受け入れ判断が従来と変化した.
Q4 現状のリハビリテーションの診療報酬をどうみるか?
  疾患別リハ概念そのものに内在する不条理,リハ期間上限日数,回復期リハ入棟2カ月規定に代表される期間の問題,技術料としてのリハ点数に差があることの問題はリハの根本を揺るがしている.

   
回復期医療の現場では(1) 平成20年度診療報酬改定による影響について
   
梅津祐一
Key Words 回復期リハビリテーション病棟 診療報酬改定 成果主義 地域連携
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  当院はリハビリテーション専門病院であり,全職員がリハビリテーション医療にかかわっている.常勤医師(院長,歯科医師を除く)は平均20名程度の入院患者を担当し,セラピストは1日当たりの担当が4〜5名程度になる人員配置をしている.回復期リハビリテーション病棟には各2名,障害者施設等病棟には1名の専従ソーシャルワーカーを配置し,歯科衛生士,管理栄養士,薬剤師も病棟担当制としている.
Q2 診療報酬による変化は?
  急性期病院の平均在院日数減少を受けて,入院待機日数の削減が急務である.当院では,回復期リハビリテーション病棟を増床し,密度の濃いリハビリテーション医療,かつ円滑な社会的調整等により在院日数を短縮し,平均待機日数の削減に努めている.回復期リハビリテーション病棟に対する成果主義導入の診療内容への影響は認めない.
Q3 リハビリテーション医としての関与の変化は?
  急性期病院から早い段階で転院してもらうために,連携を強化し診療情報の収集を密に行っている.全身状態不良状態や重篤な合併症に対する医学的管理や逆転院のタイミングの判断が求められる.
Q4 現状のリハビリテーション診療報酬をどうみるか?
  リハビリテーション料に関しては,早期加算の算定ができなくなる発症後1カ月を超えてから生活動作能力が向上することが多く,回復期リハビリテーションの立場からADL加算の復活を求めたい.

回復期医療の現場では(2) 診療報酬改定による回復期リハビリテーションへの影響
   
小林康孝
Key Words 診療報酬改定 回復期リハビリテーション病棟 高次脳機能障害 嚥下障害
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  ・外来部門,急性期入院部門,回復期入院部門,訪問部門,施設リハ部門に分かれる.
・医療短大を併設し,臨床・研究・教育を行う.
・リハ支援センター,高次脳機能障害支援センターを県より委託.
・当院認定リハ看護師,当院認定リハ介護士の育成.
・自動車運転評価.
・365日リハ.
・高次脳機能障害,嚥下障害に重点.
Q2 診療報酬による変化は?
  ・入院までの期間短縮により重症患者がやや増加.
・入院期間の短縮により在宅準備が不十分なケースが発生.
・成果主義による回復期リハ病棟入院料1に対応.
・日常生活機能評価は,回復期リハ病棟には馴染まない.
・脳血管障害が中心のため,疾患別リハの影響は少ない.
Q3 リハビリテーション医としての関与の変化は?
  ・専従から専任になったことで退院患者の外来経過観察が可能となった.
・急性期からの包括的な診療が可能となった.
Q4 現状のリハビリテーション診療報酬をどうみるか?
  ・疾患別リハの考えかたには疑問.
・逓減制は,結果的に医療費の増大を招く可能性がある.
・期間は一律ではなく対象疾患によって細かく定めるべき.
・運転評価,家屋評価など,院外でのリハサービスに一定の評価が必要.
・医療保険のリハと介護保険のリハのギャップが大きすぎる.

回復期医療の現場では(3) 平成20年度診療報酬改定のメリットとデメリット
   
森本 茂
Key Words 診療報酬 回復期リハビリテーション 包括医療 胃瘻
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハビリテーション部門の特徴は?
  全病床数199床,回復期リハ病棟2棟99床のリハ専門病院である.2008年において奈良県内の全病院のなかで,脳卒中入院患者数が最も多かった.直線10 m天井リフト式とトレッドミル設置型の2台のBWS(体重免荷歩行装置;body weight suppurt)を有していることは,大きな特徴である.
Q2 診療報酬制度による変化は?
  特に大きな問題は,重症例では発症2カ月までに回復期リハ病院に転院することが困難である場合があること,重症軽症の程度に関係なく一律に疾患群別に90日,150日,180日とリハ医療の期間が規定されていることである.
Q3 リハビリテーション医としての関与の変化は?
  回復期リハ病棟では,重症患者は病状がまだ安定していない2カ月以内の期間で受け入れるので,転院後に全身状態の急な変化が生じ,内科的・脳神経外科的・神経内科的な処置が増えている.当院に転院してから1カ月以内に逆転院する症例がやや増えている.
Q4 現状のリハビリテーション診療報酬制度をどうみるか?
  包括医療である回復期リハ病棟では,過小医療にならないようにしなくてはならない.医療行為の安全性を高めることにコストを省いてはならない.