リハに必要な五十肩のキネマチックス |
|
|
森原 徹 三浦雄一郎 久保俊一 |
Key Words 五十肩 座標移動分析 キネマチックス 腱板 |
|
|
内容のポイントQ&A |
Q1 |
肩関節の構造は? |
|
肩の基本骨格は鎖骨,肩甲骨および上腕骨である.肩関節において,肩甲上腕関節(狭義の肩関節),肩甲骨の動きに関与する肩甲胸郭関節および肩鎖・胸鎖関節が重要である.肩甲上腕関節では肩腱板(inner muscles)が,動的安定化(求心位保持)に作用している.肩腱板である棘上筋は屈曲・外転に,棘下筋は屈曲・外転・外旋に,小円筋は外旋に,肩甲下筋は内旋に作用している.肩甲胸郭関節では,肩甲骨周囲筋(僧帽筋,前鋸筋,菱形筋,肩甲挙筋)によって肩甲骨の上方回旋,挙上,下降,内外転を生じる.三角筋(outer muscles)は,肩関節屈曲・外転の力源として胸郭と上腕骨をつなぐ大胸筋,広背筋は肩関節内転・伸展に重要である. |
Q2 |
健常肩のキネマチックスとは? |
|
肩関節の運動では鎖骨を含めた肩甲骨と上腕骨の動態を評価することが重要である.胸鎖関節を支点として肩甲骨の運動を解析した結果,肩関節屈曲約90°まで肩鎖関節を支点とした肩甲骨の上方回旋が生じていた.肩甲上腕関節では主に棘上筋が,肩甲骨周囲筋として前鋸筋が活動していた.その後,鎖骨は後方に後退し肩甲骨を脊柱に引き寄せながら上方回旋を行っていた.このとき肩甲上腕関節では主に棘下筋が,肩甲骨周囲筋では僧帽筋中部・下部線維が活動していた.
肩関節外転では,経時的に肩甲骨は脊柱に引き寄せられながら上方回旋が生じていた.肩甲上腕関節では棘上筋,棘下筋の活動が漸増し,肩甲骨周囲筋では主に僧帽筋中部・下部線維が活動していた.このように屈曲と外転運動では,肩甲骨上方回旋の構築様式は異なっている. |
Q3 |
五十肩のキネマチックスはどう変わるか? |
|
五十肩の拘縮期では,肩甲上腕関節包の拘縮によって肩関節屈曲・外転可動域が制限される.そのため肩甲挙筋や僧帽筋上部線維が過剰に活動することで肩甲骨を挙上,上方回旋させ,屈曲外転可動域を改善させている可能性がある.結果として肩関節下垂位では肩甲挙筋が過剰収縮し,肩甲骨を下方回旋・挙上していることが多い.. |
Q4 |
ROM制限と痛みは? |
|
五十肩では烏口上腕靱帯,上関節上腕靱帯を含めた腱板疎部に滑膜炎が生じる.これらの関節包前部に瘢痕化が進行すると肩関節下垂位での外旋が制限される.烏口上腕靱帯の伸張が低下すれば伸展・内旋制限を生じる.下方の関節包の滑膜炎によって線維化を生じ伸張が阻害されると屈曲と外転可動域が制限される.肩関節包外の肩関節周囲筋炎症が波及すれば筋攣縮を生じる.筋緊張も亢進し,可動域制限と疼痛が増悪する.関節包の伸張が減少し容積が縮小すると,内圧の上昇によって関節内のメカノレセプターが過度に伸張され,運動時痛や安静時痛(夜間痛)が誘発される.痛みが強くなると筋は疼痛に適応し,結果として拘縮や筋力低下が生じる. |