PADについて:TASCIIの報告を踏まえて |
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松尾 汎 |
Key Words 末梢動脈閉塞症 閉塞性動脈硬化症 生活習慣病 足関節・上腕血圧比 監視下運動療法 |
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内容のポイントQ&A |
Q1 |
わが国のPADの現況は? |
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頻度は,欧米での人口の約3%程度と同様,わが国でも300万人程度の無症候例と約100万人の跛行例の発生頻度が推定される.ASOでの全身動脈硬化症合併頻度は冠動脈(約30050%)が最も多く,次いで脳血管障害が約30%である.生命予後も,欧米と同様に5年間の経過観察で約30%が死亡し,その死因は心血管合併症,脳血管障害などと報告されている. |
Q2 |
TASCIIの内容は? |
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TASCIIでは,「生活習慣病診療の重要性」が指摘されている.PADでは無症候例が多いことから,高齢者や糖尿病などの危険因子を有する例でのスクリーニング検査が重要である.虚血の客観的な証明には,ABPIが推奨されている.次いで,病変の部位や狭窄度の判定にはなんらかの画像診断法が必要であり,病変や全身状態に応じた治療選択を推奨している. |
Q3 |
PAD患者に対する運動療法の適応とその意義は? |
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虚血症状,病変部位・程度および患者の希望を参考に,QOLの改善を意図した方針を立てる.治療法は,治療の侵襲度からみて運動療法を含めた理学療法,薬物療法などの比較的低侵襲な治療法から選択する.PAD運動療法の目的は,(1)歩行距離を増加させ,QOLの向上を目指し,(2)原因となった動脈硬化性因子(糖尿病,高血圧,脂質異常症など)の是正を図ることである. |
Q4 |
手術適応は? |
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手術治療には血管内治療と外科的血行再建術が含まれる.跛行での適応は,(1)運動療法などの他の内科療法では不十分で,さらに改善を望む場合,(2)病変の部位や程度が侵襲的治療に適する場合,(3)全身状態が侵襲的治療に耐える場合,(4)生命予後やQOL向上を期待できる例とされている.重症虚血肢では,救肢が目的となるため積極的に手術適応を検討するよう勧めている. |
Q5 |
運動療法の普及のためには何をなすべきか? |
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普及を図るには,まず循環器内科医,理学療法士などの医療従事者はもちろん,広く一般の方にもPADへの興味・関心をもってもらうことである.少しでも学会や研究会などでの実際的なセミナーや啓発を意図した教育活動を継続しながら,市民から医療従事者まで広く巻き込んだ啓発活動を通じて,全身の動脈硬化を診る視点を育んでもらうことが必要であろう. |
PADの運動療法のエビデンス |
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安 隆則 |
Key Words 運動療法 ヘパリン リポ−プロスタグランディンE1 血管再生治療 |
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内容のポイントQ&A |
Q1 |
ヘパリン運動療法の方法の実際は? |
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・ヘパリン3,000単位を静脈内投与し,その直後から約1時間,歩行運動療法を行う.歩行は跛行が出現するまで行い,数分間の安静後跛行症状の消失を確認してから再び歩行運動を繰り返す.
・入院中であれば14日間集中して行うプログラムが有益であり,外来で実施する場合には週3回3カ月間ヘパリン静脈内投与+歩行運動を繰り返す. |
Q2 |
ヘパリン運動療法の効果と機序はどのように考えられるか? |
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・ヘパリン自身が直接的に血管新生を起こすのではなく,血管壁の細胞外マトリックスに付着している肝細胞増殖因子(hepatocellular growth factor:HGF)を血管壁から一時的にはずし,血中のHGF濃度を一時的に上昇させ虚血部位での血管新生や傷害血管の修復に寄与する.
・また,ヘパリンには血管壁の細胞外マトリックスに付着しているミエロペルオキシダーゼ(白血球から放出された)もはずすため,一時的に内皮機能改善作用を有することが報告されている. |
Q3 |
その他の薬物と運動療法を組み合わせる可能性についてどうか? |
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・Trans atlantic inter-society consensus (TASC)II国際ガイドラインは,シロスタゾールをクラス1で,虚血性心疾患合併例にはアスピリンを推奨している.
・リポ−プロスタグランディンE1との併用効果についてはのエビデンスは不十分である.
・炭酸泉足浴との併用効果についてもエビデンスは不十分である. |
Q4 |
血管再生治療の現状はどうなっているのか? |
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・血行再建術の適応外患者に対する自己骨髄細胞移植の有効性は,わが国からTACT(Therapeutic Angiogenesis by Cell Transplantation)研究として報告され,特に難治性Buerger病に有効である.
・遺伝子治療薬として米国からVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor,血管内皮細胞増殖因子)やFGF(Fibroblast Growth Factor,線維芽細胞増殖因子)等が,わが国からHGF(Hepatocellular growth factor,肝細胞増殖因子)が有力な候補として臨床研究が継続されている. |