オーバービュー:運動負荷と骨代謝 |
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林 泰史 |
Key Words 骨粗鬆症 骨密度 大腿骨頸部骨折 運動負荷 |
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内容のポイントQ&A |
Q1 |
リハビリテーションの視点からみた骨粗鬆症の概観は? |
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骨粗鬆症は加齢や低カルシウム食摂取,女性ホルモン分泌量低下などによって徐々に骨内のカルシウム量が減少することによって生じる静かな臓器の静かな疾患であり,原因疾患にかかわりなく機能障害・能力障害・ハンデキャップに対応するリハ医療とは距離があるようにも思える.しかし,高齢者では加齢とともに転倒・骨折に基づく身体機能の低下による要介護状態の人の数が増え,これをリハの手法で抑制できることが判明してきた.その鍵となるのが運動負荷により骨代謝に影響を与えることと,運動や装具により転倒・転倒による衝撃を緩和することである. |
Q2 |
廃用による骨萎縮の実態は? |
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ラットに卵巣摘出,低カルシウム食投与,尾吊り上げといった3重負荷をかけたところ,大腿骨の血流が低下し,同時に骨内カルシウム量,破断強度も低下していたが,血流低下の局在を調べたところ大腿骨近位部に最も血流低下が著しかった.このことから,脳卒中に罹患した患者が大腿骨頸部骨折を生じやすいのは廃用により大腿骨近位部に著しい骨萎縮をきたすためであることがわかった.脳卒中後の骨萎縮は麻痺の程度が強いほど,日常の活動性が低いほど高度になっていくことが判明し,患側のみならず健側にも骨萎縮の生じる実態が判明した. |
Q3 |
運動負荷の骨代謝に及ぼす機構は? |
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運動により骨芽細胞は骨形成を促進するが,骨芽細胞を働かす機構として皮質骨1 mm2あたり2.6万個も存在し,骨内の細胞の90%以上を占める骨細胞が重要な鍵を握っている.骨細胞は1,000〜5,000 m2の表面積をもち,1.0〜1.5 lの組織液を有する骨細管内で静かにしているが,骨に運動負荷が加わり骨細管内の組織液が動くと,骨細胞が反応して骨形成のシグナルを出す.骨が0.1%撓むほどの運動負荷が骨形成には必要であるとの研究結果があるが,臨床的には骨の脆弱性に応じた軽い運動負荷でも骨量増加は図られている. |
Q4 |
運動負荷による骨量増加は? |
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運動負荷による骨量増加が最も顕著に現れる年代は中学生時代を中心とした成長期であり,この時期の運動の骨量増加効果は高校生や大学生時代のそれに比べて優れている.また,最近発売されているビスフォスフォネート剤やラロキシフェン塩酸など強力な破骨細胞機能抑制剤を投与すると骨吸収により出現するはずのカップリング因子が働かなくなるので骨芽細胞は骨形成を始めない.そこで,これら強力な骨吸収抑制剤投与に合わせて運動負荷をかけるかカルシウム剤・ビタミンD剤を併用して骨形成を促すことが必要となる.最近の研究で,生命予後を最も悪くする骨折形は大腿骨頸部骨折ではなく脊椎椎体骨折であることがわかってきたが,この骨折を防ぐために大腰筋を鍛えれば腰椎の骨密度が増加することがわかってきたので活用したい. |
骨粗鬆症のさまざまな臨床像と生活の質 |
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萩野 浩 大對樹 |
Key Words 骨粗鬆症 生活の質(QOL) 脆弱性骨折 運動療法 |
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内容のポイントQ&A |
Q1 |
骨粗鬆症に対する生活の質調査票の種類と特徴,使いかたは? |
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健康関連QOLの評価に用いられる尺度は,大別して疾患によらない包括的尺度と,疾患ごとに用いられる疾患特異的尺度とに分けられる.骨粗鬆症に特異的な尺度としてQualeffo,OPAQ,OQLQ,JOQOLがある. |
Q2 |
骨粗鬆症におけるさまざまな臨床症状の生活の質に与える影響は? |
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最も頻度が高い椎体骨折では,発症時にほとんどの症例で疼痛を自覚しているにもかかわらず,大半は診断されないで経過している.骨粗鬆症例では椎体骨折数が増加するにしたがって加速的にQOL低下をきたす. |
Q3 |
大腿骨近位部骨折患者の生活の質に与える影響は? |
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大腿骨近位部骨折の患者ではADL低下と同時に,社会とのつながりを絶たれることで,QOLが大きく低下する.また,骨折後1年を経てもなお,本骨折例のQOLは骨折前のレベルに比較して有意に低値で,骨折によるQOL損失は骨折治癒後も経年的に膨らむ. |
Q4 |
骨粗鬆症患者に対する運動療法は生活の質を高めるか? |
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運動療法は筋力や体幹・四肢柔軟性を改善することによるQOLに対する直接的な効果が確認されているとともに,運動参加による精神面での効果が期待される.閉じこもりの危険性がある高齢者に対して積極的に運動への参加を促し高齢者QOLを維持することが必要である. |