特集 急性期病院のリハはどうあるべきか−私たちはこうしてきた:実践者からの提言

特集にあたって

 近年,わが国のリハビリテーション(以下リハ)医療は,急性期,回復期,維持期という病期別の分類が定着し,包括的な介入が普及しつつある.しかし,急性期リハに関しては,かなり以前からその意義が強調されてきたにもかかわらず,いまだ広く実践されているとはいいがたい.「リハは急性期を乗り切ってから」という誤った考えが根強く残っており,統計からも急性期リハが実際にあまり行われていない事実が読み取れる.
 急性期リハが定着しにくい最大の理由は,急性期治療に携わる医師や看護師のリハに対する認識の低さにあると考える.確かに急性期リハの意義を十分に理解している医療関係者も少なくはないが,多忙な急性期医療の現場では,救命や延命,早期診断・治療が優先されて,とてもリハまで手が回らないというのが実情であろうか?
 今回,特集「急性期病院のリハはどうあるべきか」を企画するにあたり,全国で急性期リハを積極的に展開されている先生方にお願いして,大学病院や公立病院,私立病院など,それぞれ運営理念は異なるものの,地域の急性期病院でどのようにしてリハシステムの構築に取り組んでこられたかについて執筆していただいた.しかし,この種の企画は,とかく病院の自慢話に終始しやすく,読者の共感をよぶどころか,逆に反感を買ってしまい,かえってリハ医療の理解・啓発の妨げになりかねない.そこで今回は,単なる病院紹介にとどまらず,各病院が抱える問題点を抽出し,それらをいかに克服して急性期リハを実現してきたかという苦労話なども含めて論じていただくようお願いした.
 そのために,まず共通の質問項目に答える「Q&A」形式でまとめていただいた.すなわち,Q1「リハ部門の概要は?」では,病院紹介を兼ねて,(1)ここ数年の変化,(2)リハ部門の規模,(3)患者動態,疾患内訳,転帰,入院/外来比率,(4)施設でのリハの特徴,(5)リハ部門の課題,について,Q2「診療報酬の改定が与えた影響は?」では,施設認定と「リハ9単位」の合理性について,Q3「急性期リハの具体的な進めかたは?」では,(1)いつ,どこで,何から始めるのか,(2)リスク管理と注意点,(3)リハの効果,(4)他科,スタッフとの連携,について,Q4「急性期リハの将来展望と課題は?」では,現場の生の声として,それぞれお答えいただいた.
 また,「急性期病院におけるリハ戦略」という共通タイトルのもと,幸田先生には「徹底した早期リハ」について,影近先生には「チームアプローチによる廃用予防とシームレスリハ」について,井手先生には「人的資源の充実でステイタス向上」について,そして稲川先生には「急性期から緩和ケアまで」について,各病院での創意工夫や留意事項などを交えながら,「私たちはこうしてきた」という切り口で執筆していただいた.
 全国の急性期病院で孤軍奮闘されているリハスタッフにとって,ほんの少しでもお役に立てることができれば,これほどの歓びはない.

 (山口 淳/大阪市立総合医療センターリハビリテーション科・編集委員会)

 

オーバービュー:急性期病院におけるリハビリテーションの現状と課題
   
山口 淳 金田浩治 田中一成
key words リハビリテーション 急性期病院 廃用症候群 診断群分類(DPC) 地域連携クリティカルパス

急性期病院におけるリハ戦略(1) 徹底した早期リハビリテーション:和歌山県立医科大学附属病院
   
幸田 剣 上西啓裕 山中 緑 田島文博
key words 急性期リハビリテーション 廃用症候群 装具療法 早期離床
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハ部門の概要は?
  医師は9名(うち,リハ専門医3名)が常勤で診療にあたっており,随時選択科として研修医が卒後臨床研修を行っている.リハスタッフは平成20年5月現在で理学療法士10名,作業療法士5名,言語聴覚士2名で,疾患別リハビリテーション料の施設基準はいずれも(I)である.患者件数は年々増加している.
Q2 診療報酬の改定が与えた影響は?
  改定後は早期リハ加算の復活とリハ件数の増加により,総合的には1.9%の収入増となった.維持期リハの月13単位制限やリハ料の逓減制の廃止は診療報酬には影響しなかった.当院の平均在院日数は18.7日(平成18年度)で,常時150名以上がリハを実施しているため,リハスタッフの人的資源が乏しい現状では,1日最大9単位を施行することは不可能である.
Q3 急性期リハの具体的な進めかたは?
  まずリハチーム全体で安静臥床は確実に身体機能を低下させるリスクであると認識する.予定手術の場合は術前より,予見不可能な傷害・疾病の場合は,発症と同時にリハ医が診察し,問題点を抽出し,その問題点を改善するためのリハを開始する.症例によってはリハ科に主科変更する.積極的な座位立位,運動負荷導入は必須である.
Q4 急性期リハの将来展望と課題は?
  リハ医とリハスタッフの人的資源が乏しいなか,与えられた環境で最大限の効果がでるリハを構築しようと努力している.積極的に離床を進めるうえではリスク管理が問題となるが,リハ医とコメディカルがリハチームとして最良のリハ提供という志をともにして,臨床のみならず研究に取り組むことが重要である.

急性期病院におけるリハ戦略(2) チームアプローチによる廃用予防とシームレスリハ:市立砺波総合病院
   
影近謙治
key words 早期介入 病棟担当制 多職種チーム トータルケアプランニング 廃用症候群
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハ部門の概要は?
  総合リハビリテーションセンターには医師3名,療法士23名が所属し,脳血管疾患,骨・関節疾患,廃用,呼吸リハ,回復期リハ病棟,訪問リハの各グループに分かれ,ICUから在宅までを広くカバーしている.呼吸理学療法専任の理学療法士は,超急性期から集中治療部を拠点に365日のリハを実践している.
Q2 診療報酬の改定が与えた影響は?
  脳血管疾患Iでは早期リハ加算も含めると6%の増となるが,疾患別リハ料の逓減制廃止や維持期リハの月13単位制限は診療報酬には大きな影響はなかった.実際には脳血管疾患のリハを1日最大9単位施行できる患者は少なく,総合すると改定後は約5%の収入減となった.
Q3 急性期リハの具体的な進めかたは?
  リハ訓練はすべてリハ科外来診察を通してスタートする.直接主治医からのリハ依頼以外にも,各種のリハ関連の病棟回診のなかから必要な患者をリストアップし,リハ開始が遅れないように努めている.訓練の場は訓練室から病棟に移り,多職種との機能的なチーム医療を行っている.
Q4 急性期リハの将来展望と課題は?
  リハスタッフは,廃用症候群予防のためにNST,褥瘡委員会,口腔ケアチーム,嚥下障害対策委員会,呼吸ケアチームに所属している.それらは役割は異なっていても対象患者が重複するケースが多く,これをひとつにまとめ,全病院的な組織でチーム医療の機動化を図る.

急性期病院におけるリハ戦略(3) 人的資源の充実でステイタス向上:聖マリア病院
   
井手 睦
key words リハビリテーション 急性期医療 脳血管障害 大腿骨頸部骨折 廃用症候群
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハ部門の概要は?
  ・病院が急性期医療を主体としながらもケアミックス体制を有するためリハ部門も複数の部署から構成されるが,セラピストの多くを急性期に配置している.
・セラピスト1人当たりの受け持ち患者数のコントロール・チーム制の導入などにより,患者の入れ替わりが激しい急性期において治療の質向上を図っている.
Q2 診療報酬の改定が与えた影響は?
  ・セラピスト1人当たりからの医療収入が減少傾向にあるため,増員することによって部門としての管理利益の維持に努めた.
・他の疾患群に比べて必要書類が増えて介入が煩雑になるなど,急性期病院で必要度の高い廃用症候群に関してはマイナス面がみられた.
Q3 急性期リハの具体的な進めかたは?
  ・システムの構築だけでなく,(1)病院内でリハ医がイニシアチブをとっているという姿勢の表明,(2)早期リハのメリットのエビデンスをいかに提示するか,をいつも念頭においておくことが肝心である.
Q4 急性期リハの将来展望と課題は?
  ・救命と初期治療がメインである急性期病院のなかでリハ部門が埋もれずに立ち位置を堅持するためには収益と治療効果の両側面からのアピールに努めなければならず,この領域にかかわるリハ医数の増加を期待している.

急性期病院におけるリハ戦略(4) 急性期から緩和ケアまで:NTT東日本関東病院
   
稲川利光
key words 急性期リハビリテーション 脳卒中センター 廃用症候群 緩和ケア
   
内容のポイントQ&A
Q1 リハ部門の概要は?
  稼動病床数606床で,平均在院日数は11.6日の急性期病院である.リハ科は急性期の脳血管障害等と運動器疾患のリハを行う一方,廃用症候群などへのリハを行い,その件数は年々増加している.平成17年に脳卒中センターを開設.廃用症候群や緩和ケアを含めた院内全科に及ぶリハを積極的に取り入れ,セラピストはこの3年間で6名から24名にまで増員.現在,1日に200名近い患者にリハを提供.訓練室はPT室:300 m2 ・ OT室:100 m2,その他ST室など.施設基準はPT・OT・STともに脳血管疾患等I・運動器疾患Iを得ており,平成18年9月に日本リハ医学会の研修施設として認可された.
Q2 診療報酬の改定が与えた影響は?
  平成20年度の診療報酬の改定で,リハ施行単位当たりの点数が減ったが早期リハビリテーション料(30点)が加わったことで,わずかに増収の見込みである.廃用症候群としての点数請求が今後どのように算定されるかは,病院や医療のあり方を左右し,患者の生活を変える重要な問題である.
Q3 急性期リハの具体的な進めかたは?
  ・平成17年5月に脳卒中センターが開設され,脳外科・神経内科・リハ科などの各科の医師および看護師・PTなどコメディカルを含め全員でカンファレンスを行い,発症当日ないしは翌日からリハを開始している.血栓溶解療法の患者はすでに60例を越え,自宅復帰率も向上した.
・廃用症候群に対しては,各階の病棟担当のセラピストを決め,毎週1回看護師とリハ対象患者のカンファレンスを行うようになった.
・褥瘡対策チーム,NST,リスクマネジメントなどの活動にリハスタッフがかかわり自らの職域を広げている.
・緩和ケア病棟(28床)の入院患者に対し,積極的にリハを施行.座位がとれたり,車椅子に乗車や歩行ができるようになり,外出や外泊が可能となったり,一時的にでも退院できる患者がいる.
Q4 急性期リハの将来展望と課題は?
  ・超急性期から廃用症候群,緩和ケアを始め終末期におけるリハを今後も継続する.
・院内全科を対象に患者にふさわしいリハを提供する.
・他科との連携,特に看護師との連携を強化し,各病棟担当のセラピストの専属化を検討する.
・スタッフの増員をメドに訓練室中心の訓練から病棟の訓練へと訓練体系を整備する.
・急性期から在宅に復帰する患者が多く,在宅支援に向けた取り組みの強化が課題である.