特集 回復期リハ−リスクを超えて取り組もう!

特集にあたって

 2000年に導入された回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟の制度発足から8年が経過し,急性期リハの後に実施する回復期リハは回復期リハ病棟で行われるという流れがほぼ定着した.2008年3月現在,回復期リハ病棟は全国で42,882床が稼動している.地域間格差はあるが,全国回復期リハ病棟連絡協議会が掲げる「人口10万人あたり50床(全国に6万床)」の目標に対して,病床数の順調な増加が続いている.
 このように回復期リハ病棟の“量”の充実が図られているが,“質”はどうであろうか? 病院在院日数短縮を目的に,2006年の診療報酬改定時には,傷病の急性発症から回復期リハ病棟入院までの期間が3カ月から2カ月に,入院上限日数が180日から150日へ短縮された.本年4月の改定では,算定対象および入院期間上限の見直し,病棟専従医の要件緩和(専任へ)が実施され,さらに,在宅復帰率・重症患者の受入率やADL改善率などの質的評価を診療報酬に反映する,いわゆる“成果主義”が導入された.
 回復期リハ病棟の量ならびに質の変化に応じて,最近あらたな問題が発生している.全身状態が不安定でも急性期病院から回復期リハ病棟へ転院する患者が増える一方,全身状態の悪化や合併症のために,回復期リハ病棟から前の急性期病院へ転院移送されるケースが増えている.モニター管理下でリハを実施,あるいは,合併症や全身管理などに追われて積極的なリハ実施が困難になるなどのケースが増えており,回復期リハ病棟の亜急性期化現象がみられるようになってきた.
 合併症やリスクはリハ訓練の大きな阻害要因であり,病棟専従医やリハスタッフにとって,リハ実施において心理的にも大きなプレッシャーになっている.合併症があるからといってリハを実施しなければゴールに達しないばかりか,あらたに廃用症候群を生じるなど,患者の自立を大きく阻害してしまう.その背景には,急性期とは異なる回復期リハ病棟特有の問題−スタッフが急性期ほど合併症やリスク管理に習熟していない状況や包括医療など−が関与しているかもしれない.
 回復期であっても,適切なリスク管理を行えばリハは実施可能である.本特集では,回復期リハ病棟のリスク管理の問題点を総括し,回復期リハ病棟で遭遇する頻度の高い合併症(感染症,重度循環器疾患や呼吸器疾患)を抱える患者に対して,どのようにリスク管理をしながらリハを実践すべきか,また,急性期病院移送への対応について,現場の視点からそのポイントをご解説いただいた.回復期リハ病棟で医療管理を要する重症患者が増える一方,本年4月より上述した成果主義に基づくアウトカム評価が実施されるという厳しい現実がある.回復期リハ病棟における医療の質が問われるようになった現在,本特集がその質の向上のための実践の一助になれば幸いである.

 (佐伯 覚/産業医科大学リハビリテーション医学講座・編集委員会)

 

オーバービュー−回復期リハにおけるリスク管理
   
小林由紀子 赤星和人
key words 回復期リハビリテーション リスク管理 合併症 事故 連携
   
内容のポイントQ&A
Q1 回復期患者はどんな合併症をもつのか?
  回復期リハ病棟には,脳血管疾患,整形外科疾患,廃用症候群などの患者が入院しており,それぞれに頻度の高い合併症がある.脳血管疾患における再発,痙攣,誤嚥性肺炎や尿路感染などの感染症,整形外科疾患における深部静脈血栓症や肺塞栓,創部感染,廃用症候群における原因疾患の再発・再燃などがあげられる.患者は高齢者が多く,循環器疾患,糖尿病といった内科疾患や運動器障害が病前から併存している率が高い.運動器障害や認知機能障害のある患者が対象であるため,転倒・転落のような事故の頻度も高い.
Q2 合併症や抱えるリスクの管理は?
  頻度が高く予見できる合併症は,評価・予防によってその発生や重症化を防ぐことが重要である.転倒・転落や離院などの事故,投薬や処置にまつわる医療ミスを防ぐための対策も必要である.リハ医療における安全管理・推進のためのガイドラインが策定され,リハにかかわって起こりうるリスクやその予防・対処法,訓練中止の基準が示されている.
Q3 回復期病棟の転院が早まったことによる新たな問題は?
  平成18年度診療報酬改定や急性期病院における在院日数短縮化の方針により,発症から回復期リハ病棟へ入院するまでの期間は短くなっている.早期から集中的にリハに取り組む利点は大きいが,急性期管理が不十分な例が増えている.積極的なリハやADL向上に取り組むのが困難な例もある.医療管理の必要度が高くなると病棟全体の運営に影響が出てくる.一方で急性期病院からは全身管理のできる診療体制を望まれており,回復期リハ病棟の能力向上は当然ではあるが,自病棟の対応能力を見極め,他科や急性期病院との連携体制も必要である.
Q4 リスク管理に関して,病棟専任医※の役割は?
  リハ医は広い分野にまたがる疾患とそれに伴う合併症への対応を求められている.回復期リハ病棟の医師の役割として,合併症やリスク管理への自己の対応能力の向上,看護師・リハスタッフをはじめとする自病棟全体の能力向上のための教育,リスク管理システムの構築,他科医師との連携,急性期病院との連携などがあげられる.
Q5 回復期病棟から急性期病床へのリターン率は?
  全国回復期リハ病棟連絡協議会のアンケートでは,退院経路のうちで急変による転院・転棟と死亡を合わせた頻度は,全体としては6〜7%で,平成18年度以降も有意な増加はない.しかし,急性期転院率が上昇したとの報告もある.廃用症候群,脳血管疾患は整形外科疾患に比べ急変率が高い.

※ 平成20年度診療報酬改定で,回復期リハ病棟における医師の専従要件は外れ,常勤の専任医1名以上を配置と規定された.

感染症があっても行う回復期リハ・アプローチ
   
薛 克良 服部文忠
key words 感染症 リハビリテーション 誤嚥性肺炎 尿路感染症
   
内容のポイントQ&A
Q1 感染症合併時のリハ評価とプログラムの立てかたは?
  ・感染症を含めた全身状態と障害に対する評価を行う.
・前医(急性期)での感染症に対する治療の経過(治療薬,薬歴,効果など)を必ず確認し,その治療の継続,変更などの必要性を判断する.
・全身状態に合わせてリハ訓練時間・強度などを調整する.
・スタッフなどへの感染の可能性がある場合は厳重に対応する.
Q2 誤嚥性肺炎合併時のリハはどう行うべきか?
  ・転院直後より栄養摂取方法(経腸栄養,経静脈栄養,経口摂取),摂取量,水分量の確認を行う.
・摂食・嚥下機能に合わせて段階的摂食訓練の実施,適切な代替栄養法,補助栄養法を実施する.
・肺理学療法,口腔ケアを必ず実施する.
Q3 尿路感染症合併時のリハはどう行うべきか?
  ・尿道カテーテル(留置,間欠的)の管理,排尿パターン(排尿時間,回数,残尿,失禁など)の把握など,病棟スタッフとの確実な連携のもとでリハ訓練を実施する.
Q4 他科専門医/急性期病床移送の判断基準や手続きなどは?
  ・移送は患者の全身状態と自院の体制などを総合的に判断して決定する.
・移送先病院の受け入れ体制を日常(地域連携室,急性期病院との連携の会など)より確認しておく.

重度循環器疾患があっても行う回復期リハ・アプローチ
   
大野重雄 梅津祐一 大野素子 藤田雅章 浜村明徳
key words 循環器疾患 回復期リハビリテーション病棟 医療連携 包括的リハビリテーション
   
内容のポイントQ&A
Q1 循環器疾患合併時のリハビリテーション評価は?
  急性期病院における循環器疾患に対する精査治療状況や方針を詳細に把握する必要がある.当院では急性期病院からの紹介患者に対して医師を中心とした病院訪問を直接行うことにより「face to faceの医療連携」を行い,この問題を解決している.
Q2 狭心症合併時のリハビリテーションはどう行うべきか?
  安定狭心症に関しては運動負荷試験を参考にリハを行う.常に不安定狭心症に注意する必要がある.
Q3 心不全合併時のリハビリテーションはどう行うべきか?
  身体所見,心電図,胸部X 線,BNP,心エコーなどの所見を正確に評価し,NYHA分類,Killip 分類,Nohria分類などを参考にする.心不全に対する運動療法を安全かつ有効に実施するためには,経過中のモニタリングと定期的な運動処方の見直しが必須である.
Q4 他科専門医/急性期病床移送の判断基準や手続きは?
  不安定狭心症への移行・出現,心不全でNYHAIVに関しては当院循環器医師に相談のうえ,急性期病院へ逆紹介を行っている.

呼吸器疾患があっても行う回復期リハ・アプローチ
   
沖井 明 菅 俊光
key words 運動療法 薬物療法 栄養療法 呼吸作業療法 息切れ
   
内容のポイントQ&A
Q1 呼吸器疾患合併時のリハ評価は?
  ・息切れの経過と治療歴を軸とした病歴の聴取と状態の記録が重要である.
・スパイロメトリーや血液ガス検査など,入院後に検査困難な内容について前医から情報をとる.
Q2 呼吸不全・COPD急性増悪時のリハはどう行うべきか?
  ・早期に診断し急性増悪の治療を開始する.積極的な運動療法は困難であり,酸素投与あるいは機器的な支持のもとに呼吸介助手技や可能ならば可動域維持のための介入を行う.
Q3 他科専門医/急性期病棟移送の判断基準と手続きなどは?
  ・どのような状態であれ呼吸管理困難ならば移送を要する.管理可能な範囲は施設により異なる.
・急性増悪時には呼吸器かかりつけ医が病院であればかかりつけに,さもなければ二次救急医療機関への搬送が望ましい.