特集 NICUとリハビリテーション

特集にあたって

 2005年よりわが国の総人口が減少に転じたと発表されたことは記憶に新しい.その背景として常に語られるのは人口高齢化と少子化である.最近の合計特殊出生率は1.3前後であり,人口を維持できる水準の2.0以上にほど遠い状況が続いている.少子化の要因は多々あるようだが,親となる世代(15064歳までのいわゆる生産年齢人口)の規模の縮小がすでに1996年から始まっていることより,出生数は今後さらに減少し年間100万人を割り込むと推計されている.一方,わが国の乳児死亡率(生後1年未満の死亡)は2.8/1,000人と先進国のなかでも低く,医療水準が高いことはよく知られている.周産期および新生児の診療に特化した新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit:NICU)の存在意義は大きいと考えられる.
 これまでの小児・新生児のリハビリテーション(以下リハ)の多くは「脳性麻痺」の観点から語られてきた.「脳性麻痺」の定義は「受胎から新生児までの脳の非進行性病変に基づく,永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常」である.「脳性麻痺児(者)」にどのように取り組んでいくのかがリハの課題であったといえよう.脳性麻痺は重症例を除けば生後4カ月以内の診断は不可能である,とリハのある教科書には記載されている.本特集では,体重が1,000g未満の超低出生体重児はハイリスク新生児ではあるが,障害を残さず療育発達することは可能であることが述べられており,隔世の感がある.臨床の現場ではさまざまな挑戦や取り組みが行われており,本特集で読者の方々へ最新情報がお伝えできたのではないかと考えている.また,摂食・嚥下障害は近年のリハ領域でも特に重要な一分野となっている.しかし,哺乳の問題についてはあまり取り上げられてこなかったのではないだろうか.新生児の特徴として「いつ乳(漏乳)」があげられる.呼吸の特徴と成熟過程と合わせて理解の一助になれば幸いである.
 2007年施行の国の第5次医療計画で,各都道府県は救急,災害,へき地,周産期,小児の5医療事業を整備し確保すべし,と定められた.医療費削減が叫ばれるなかで,周産期と小児の2つが重点項目に取り入れられており,今後は総合母子周産期医療センターが地域で整備されていくことであろう.そこにはNICUが設置されるので,リハがどのようにかかわっていけるのかを考える時代となったのではないだろうか.リハの特徴は,特定の障害や局所だけでなくwhole bodyに取り組むことにある.時間軸はwhole lifeであり連続しているので,リハの領域もさらに拡大発展し,妊娠中のフィットネスやストレスマネジメントまでさえも含む時代になるかもしれない.

 (丸野紀子/帝京大学医学部附属病院リハビリテーション科・編集委員会)

 

NICUをめぐる現状と課題
   
高橋秀寿 小宗陽子 関 勝
key words NICU ハイリスク児 超低出生体重児 予後 PVL
   
内容のポイントQ&A
Q1 NICUとは?
  低出生体重児や新生児仮死などさまざまな問題をもった,いわゆるハイリスク新生児は専門的な医療機関で集中治療・管理する必要があり,このような医療を展開する病床を一般的にNICUとよんでいる.
Q2 ハイリスク児とは何か?最近の新生児の分類はどのようになっているか?
  発育・発達過程においてなんらかの問題が生じる可能性がある児,さらには発育支援が必要となる子どもまでを含めてハイリスク児とよばれる.出生体重によるハイリスク新生児の分類としては,低出生体重児(2,500g未満)のなかで,さらに1,500g未満を極低出生体重児,1,000g未満を超低出生体重児としている.一方,国際疾病分類第10版(ICD-10)では,28週未満の児を超早産児,37週未満を早産児と定義している.
Q3 超低出生体重児の急性期治療の現状と課題は?
  妊娠37週未満の前期破水による子宮内感染への適切な治療,NICUでの呼吸器をはじめとする多臓器疾患への適切な対応など,良好な子宮内,および子宮外環境への配慮が,低出生体重児の予後を改善すると考えられる.
Q4 超低出生体重児の予後は?
  大規模疫学調査により,6歳時点で約25%に脳性麻痺あるいは精神遅滞などの障害を生じることがわかった.
Q5 NICUへのリハビリテーションのかかわりは?
  Minimal handlingが原則であり,state,ストレス徴候に配慮しながら適切な運動発達評価や早期介入が重要である.

NICUにおけるケアと治療についての理解
   
土田晋也
key words NICU developmental care skin care(皮膚のケア) muscle tone(筋緊張)
   
内容のポイントQ&A
Q1 NICUにおける看護ケアと治療の原則は?
  NICUで管理されている新生児は検査や治療の手技だけでなく,看護ケアによってもストレスを受ける可能性があり,従来からminimal handling(最小限の処置)の重要性が指摘されてきた.さらに近年ではNICU内の環境に着目して,新生児の精神発達を促進するdevelopmental careの考えかたが普及してきた.
Q2 非侵襲的治療は?
  早産児の皮膚は未成熟なため低体温・脱水になりやすく,皮膚からの細菌・真菌感染はしばしば重篤となりうる.特に超早産児では,皮膚の保護に重点を置いた非侵襲的治療が必要である.
Q3 新生児集中治療の実際は?
  現在の新生児集中治療において,中心静脈路による栄養管理・薬剤投与は人工呼吸管理とともに不可欠な技術である.新生児に対しては,臍静脈カテーテルや末梢静脈から挿入するPIカテーテルといった他ではみられない中心静脈路が使用されている.
Q4 新生児の生理学的反応と行動学的反応は?
  新生児の生理学的反応としては,脳幹・脊髄レベルの機能が大脳によって抑制されずに表出する原始反射が代表的である.行動学的反応のなかで能動的筋緊張は,新生児,特に早産児の神経発達の評価にとって有用である.能動的筋緊張は,在胎週数の進行に伴い尾側から頭側に向かって発達する性質をもつ.

新生児呼吸理学療法
   
中村友彦 木原秀樹
key words 新生児 呼吸理学療法
   
内容のポイントQ&A
Q1 なぜ呼吸理学療法が必要か?
  胎児から新生児への変化する過程において,胎盤呼吸から肺呼吸への変化がみられるように,新生児の肺は発育過程にある.そのため,呼吸理学療法により,(1)肺胞虚脱の予防と改善(air entryの促進),(2)分泌物貯留の予防と改善(排痰の促進)・換気の維持と改善(酸素化の維持と改善)・早期抜管・再挿管の予防を図ることが目的である.
Q2 呼吸理学療法の実際は?
  新生児の呼吸不全の病態を評価し,最も適した呼吸理学療法を行う.
Q3 呼吸理学療法で注意すべき点は?
  (1)体位変換や気管内吸引以外の体位排痰法を行わないほうがよい疾患・病態,(2)リスク管理,(3)タイミング,(4)いじめない,(5)中止の目安に注意する.

栄養管理と対策
   
板橋家頭夫
key words 新生児 栄養管理 哺乳障害 低栄養
   
内容のポイントQ&A
Q1 栄養管理のポイントは?
  まず,新生児栄養管理の重要性を認識する.基本は乳汁(特に母乳)による経消化管栄養で,新生児の状態に応じて経口哺乳あるいは経管栄養を使い分ける.必要に応じて経静脈栄養を行う.
Q2 哺乳障害の評価は?
  哺乳に必要な口腔内の構造や反射,吸啜−嚥下−呼吸の協調性の有無を評価する.これらのいずれに問題があっても哺乳障害となる.
Q3 嘔吐,いつ乳対策,おしゃぶりの重要性は?
  吐物の性状や嘔吐の回数,診察所見などをもとに精査が必要かどうかを判断する.病的所見がない場合には,哺乳の状況を観察し対応策を講じる.いつ乳は放置して差し支えない.母乳育児推進のためにはおしゃぶりは不要であるが,早産児に対してはnon-nutritive suckingを促すことによる効果が期待できる.
Q4 低栄養の管理・対策は?
  NICUに入院する新生児のうちで最も低栄養に陥りやすいのは極低出生体重児である.発達途上にある新生児では,低栄養が成長や発達予後に影響するため,予防対策が重要である.

NICUからの退院を目指して
   
渡辺とよ子
key words NICU 極低出生体重児 発達支援 developmental care
   
内容のポイントQ&A
Q1 NICUから自宅への移行の条件は?
  NICUに入院した出生体重1,500g未満の極低出生体重児も,出産予定日ごろには体重が2,500g前後まで増えて,体温が保持できること,呼吸状態が安定して安全に必要な量の哺乳ができるようになると退院ができる.
Q2 発達支援として何ができるのか?
  極低出生体重児では未熟な脳の機能獲得を目指して,発達に応じて学習過程を援助すること(developmental care)になる.脳性麻痺の子どもでは病的な状況を理解しつつ変形・拘縮の予防のための支援が中心となる.
Q3 家族への介入(親子関係,親へのケア・指導)は?
  退院するまでには,両親が子どもを理解し自分たちが親であるという自信をもち,親として子どもにかかわっていけるようなエモーショナルサポートと,育児技術的な練習をしていくことが必要である.
Q4 Intact Survival への挑戦は?
  極低出生体重児ではNICUから始まるdevelopmental careは未熟な脳の可塑性に期待した早期療育介入であり,退院後も自宅や外来で引き続き実施できるよう計画する.