特集 症例にみる難病患者の在宅ケア

特集にあたって

 地域・在宅リハビリテーション(以下リハ)におけるリハ医の役割は(1)医学的診断・評価:障害の把握,(2)身体・精神機能の予後予測,(3)自立と社会参加に向けた,チームによる総合的な予後予測を率先,(4)チームにおける中心的役割:チームの育成,(5)社会資源の開発,啓発活動,(6)関係機関との連携による地域リハシステムの構築であると考える.
  なかでも他職種から特に求められるのは,医学的診断と評価による障害の把握とそれに基づく身体および精神機能の予後予測をする能力である.
  しかしながら,進行性の難病の機能的予後や生命予後を正確に予測することは,実際には困難であることも多い.また,最近は全身管理方法の向上(医療機器,福祉用具の進歩を含む)により生命的予後が格段に延長している疾患もあり,ますます予後予測は難しくなっている.
  本特集号では,在宅で遭遇することの多い代表的な難病について,その予後予測や社会参加への対応,地域機関との連携等を,症例を交えながら各論者に述べていただいた.
  まずオーバービューとして,今井先生はわが国の難病患者の在宅療養の現状と問題点,今後の難病患者への在宅療養支援の方向性を示し,地域支援ネットワークの質が在宅難病患者のQOLを左右すると述べている.さらに,今後の医療として,“じりつ”を促す援助が重要であるとまとめられた.
  栗林先生はALSに対する呼吸管理の重要性と,特にコミュニケーション障害への対応方法を具体的に提示された.また,リハ医や主治医を含めたチームによる対応の必要性を強調されている.
  小林先生は,筋ジストロフィーに関して小児期からの対応の重要性を強調された.少し前まで,DMDの平均寿命は20歳程度といわれていたが,現在は30歳代で社会参加をされている患者もいる.
  横山先生は,脊髄小脳変性症の失調症状による移動能力障害に対する具体的な対策を述べるとともに,介護者へのサポートの重要性について触れている.
  最後にパーキンソン病に関して,藤田先生は予後予測は困難であるとしながらも,リハ医は身体的・精神的・社会的な視点での対応が必要であると述べている.
  われわれリハ関係者は,寿命が延びたとはいえ時間に限りがあるなかで,患者と家族のニーズを正確にとらえ,福祉用具や住宅改造を利用した環境整備等の対応をタイミングよく実施する必要がある.はたして難病患者のADLやQOLを,延長した生命的予後に見合うだけ向上させることができているだろうかと改めて考えることも必要であると思われる.

 (編集委員会・高岡 徹)

 

オーバービュー

 今井尚志 大隅悦子
 key words 難病 在宅ケア 地域支援ネットワーク 自立と自律

ALS

 栗林 環
 key words ALS リハビリテーション 呼吸管理 コミュニケーション管理

内容のポイントQ&A
Q1.

予後予測は?
 ALSは初発症状により,大きく上肢型,下肢型,球麻痺型の3型に分類される.他疾患に比べると,病状の進行は比較的早く,特に球麻痺型は進行が早い場合が多い.呼吸器系の合併症が主な死因となる.人工呼吸器装着により長期生存例もあるため,経過をみながらの対応が必要である.

Q2.

在宅における呼吸管理は?
 呼吸障害が進行すれば,なんらかの呼吸補助の導入を検討する.近年では,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)がALSでも使用される.NPPVで痰の排出が困難になると,気管切開下陽圧換気療法(TPPV)への変更が必要になる.

Q3.

ADLと社会参加への対応は?
 動作・介助方法の指導とともに,福祉用具の使用や住宅改造を検討する.福祉用具等の導入には,進行を予測したうえで計画を立てることが重要である.コミュニケーション支援も大切である.

Q4.

リハビリテーション医のかかわりは?
 在宅ケアを支える一員として,障害評価を行い,予後予測に基づき適切な時期にリハビリテーション処方や福祉用具等の導入,介護職への支援を行う.

Q5.

介護保険機関との連携は?
 ALSの在宅ケアでは多くの職種がかかわること,病状が進行することから,医療機関と介護保険機関が定期的な情報交換の場を持ち,チームでかかわることが大切である.

筋ジストロフィー

 小林庸子 大西珠枝
 key words デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) リハビリテーション 座位保持大学進学 就労

内容のポイントQ&A
Q1.

予後予測は?
 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は,呼吸管理の進歩により,呼吸管理をしながら生活をする期間が飛躍的に延長した.わが国での平均寿命は約28歳であり,30代後半まで電動車椅子で生活できる例もみられるようになっている.予後の改善によって呼吸管理をしながら生活の質(QOL)を維持することが求められる.

Q2.

在宅における呼吸管理は?
 非侵襲的人工呼吸療法(Noninvasive ventilation:NIV)の活用が一般化している.NIVの導入と呼吸理学療法との併用によって,気道クリアランスが維持されやすい.食事・発声・入浴等のADL介助が容易になり,行動範囲を広げることができる.

Q3.

ADLと福祉機器の導入は?
 主介護者の多くは母親であり,障害の進行とともに介護負担が増し,介護疲労・腰痛が起こりやすくなる.家族が,住宅改修や車両購入について長期計画が立てられるよう,小児期よりアドバイスを行う.

Q4.

社会参加への対応は?
 高校卒業後の進学例が増加している.できる限り電動車椅子操作を維持し,また座位保持が困難となってもパソコン利用を維持することが,社会参加の機会へつながると考える.就労支援に関する資源が十分でないのが現状で,必要なものを開拓するという意識が必要である.

Q5.

リハビリテーション医のかかわりは?
 当院では,小児科外来診療と並行してリハビリテーション指導を施行し,時期にあわせた,予後を見越した対応と説明を行っている.脊柱側弯対策・呼吸訓練・ADL環境整備アドバイスが主となる.家族が情報収集できるよう患者会の支援等も行っている.

脊髄小脳変性症

 横山絵里子
 key words 脊髄小脳変性症 多系統萎縮症 在宅ケア

内容のポイントQ&A
Q1.

予後予測は?
 脊髄小脳変性症(以下SCD)の予後は各病型で異なり,多系統の障害ほど機能予後は不良である.孤発性皮質小脳萎縮症(CCA)は進行が遅く生命予後も良好である.多系統萎縮症(MSA)は進行が早く,生命予後,機能予後は悪い.

Q2.

失調症状への対応は?
 SCDの主要な症状は小脳性あるいは後索性運動失調であり,病型によって多様な神経症状が加わる.失調に対する訓練には末梢感覚刺激利用による機能代償や反復訓練による運動学習等がある.下肢機能障害の初期状態によって訓練効果は異なり,個人差も大きい.

Q3.

ADL障害への対応は?
 SCDは運動機能の目標設定が困難で,ADL障害への対処が中心となる.体幹・下肢機能障害のほうが上肢機能障害より重度で,内科的,精神的な問題もADLに大きく影響する.

Q4.

リハビリテーション医のかかわりは?
 SCDでは能力障害や二次的障害への対応が中心となり,医学的管理の優先順位を考慮してリハビリテーション介入をすすめる.訓練目標を設定しにくいが,入院訓練による運動機能やADLの改善が期待できる場合があり,病型や重症度に対応したアプローチを行う.患者や家族の心理状態にも配慮する.

Q5.

社会福祉制度との連携や社会参加は?
 在宅ケアでは積極的な社会福祉制度の活用をすすめる.SCDで利用できる公的援助には,厚生労働省による特定疾患医療給付事業,身体障害者福祉法や介護保険による支援がある.SCDは合併症も多く,医療機関や施設の連携による在宅ネットワークの整備が不可欠である.

パーキンソン病

 藤田正明
 key words パーキンソン病 日常生活活動(ADL) 日内変動 リハビリテーション

内容のポイントQ&A
Q1.

予後予測は?
 治療の有無や合併症等により症状の進行には個人差があり,予後を予測することは困難である.全体としては,高齢発症や初発症状として筋固縮や無動・寡動を示した患者では,進行が早く,併存疾患(脳卒中,視覚障害や聴覚障害等)や姿勢反射障害・歩行障害の存在は進行を早める予測因子である.

Q2.

wearing-offやon-off現象への対応は?
 薬剤の調整とともに,on状態での機能訓練,offにおける転倒予防,家族への介護指導および環境調整が必要である.

Q3.

ADLと社会参加への対応は?
 病初期には,職業継続への助言・職場環境調整やスポーツへの参加継続,家族会参加による心理的支持が必要である.病期の進行とともに,転倒や廃用症候群による機能低下をきたすため,機能訓練や家屋環境調整を行う.

Q4.

リハビリテーション医のかかわりは?
 身体的,精神的および社会的(環境的)な視点で対応することがリハビリテーション医には必要である.

Q5.

介護保険機関との連携は?
 患者の大部分は介護保険サービスを利用している.訪問看護,訪問リハビリテーション,訪問介護,通所リハビリテーションおよび通所介護施設等と定期的に情報交換を行うことより,患者の機能が維持され,QOLの向上が図られる.