特集 脳卒中のクリニカルパスをつくってみよう!

特集にあたって

 確か5,6年前にクリニカルパスをつくろうといった風潮があり,本誌でも別冊を発行したが,多くの病院では実際の臨床で使われるまでに至らなかった.
  今回,診療報酬の改定で,大腿骨頸部骨折の病院間連携パスに点数がついたことにより,パスの作成が各病院で再び盛んになってきた.パスは,病院機能の区分け(急性期,特にDPC制度をとる一般病院)や入院期間の短縮化による医療費節減を目指したのであろう.大腿骨頸部骨折の連携パスがまがりなりにも動き出したことを背景に,来年度は脳卒中にも適用されるのではという見方が巷間に広がっている.
  リハビリテーション(以下リハ)医療から連携パスをみると,功罪相半ばであろう.必要な急性期リハが軽視されてしまい,リハは回復期病院でやればよいといった風潮がでてきているのを恐れる.受け手の回復期病院では,パスをつくることにより,転院までの入院期間が短縮してきており,リハ単位数の増加と相まって「短期集中リハ」の方向に進んでいることはメリットと考えたい.連携パス使用の経験からは,「受け手」となる回復期病院では受け入れ体制や病院間の格差が存在し,あるべき流れが今ひとつというところもある.
  クリニカルパスの目的は,医師,看護師,リハスタッフ等の多職種の共同作業を背景に,質の高い医療を提供することにあるのを忘れてはならない.実行不可能なパスを経文のように唱えるのではなく,レベルに合わせたパスをつくり,何度もつくり変えていくのが望ましい.
  今回は経験豊かな先生方にパス作成までのご苦労や問題点をお書きいただいた.「うちでもやろう」といった方向に一石を投じられたら,こんなうれしいことはない.

 (編集委員会・石神重信)

 

特別対談 脳卒中リハビリテーションとクリニカルパス

 高橋 邦丕 七沢リハ病院脳血管センター
 橋本 洋一郎 熊本市立熊本市民病院
 石神 重信(司会) 浜松市医療公社

参考にしたいパス実例集 (1)香川県中讃・西讃地域−脳卒中地域連携パス

 藤本俊一郎
 key words 脳卒中 地域連携パス 脳卒中地域連携パス シームレスケア研究会

内容のポイントQ&A
Q1.

クリニカルパス作成にあたって工夫した点は?
・急性期(医療)−回復期(リハビリテーション)−維持期(ケア・生活)における「切れ目のない医療サービスと情報の提供」が可能な地域連携パス様式とする.
・各病期で連携すべき事項を「リハビリテーション・日常生活動作」とする.
・「地域連携パス」の記載を標準化するために,共通のリハビリテーションステップと評価法を用いることとし,記載もpull downメニューを用いて共通言語で行う.
・各施設の必要事項の整合性,各施設での退院・転院基準の明確化,在院日数の明確化,バリアンスチェックが可能である等地域連携パスの基本的事項を満たす.

Q2.

実際に使用してみてわかった問題点は?
・記載方法,内容に関しては会員の満足度が高く,急性期病院で従来使用していた看護添書とリハ添書は廃止することになった.
・返書率が回復期リハビリテーション病院は100%であるが,それ以外からの返書率が低い傾向にある.

Q3.

バリアンスへの対応は?
・バリアンスは退院時チェック方式で行っているが,現在,データを収集している段階である.

Q4.

今後の改良予定は?
・現在,会員からパス改良に関する要望はなく,現在のパスをより広く浸透させたいと考えている.
・今後,改良するとすればt-PA使用の有無,ワルファリンの使用,脳室−腹腔短絡術に関する情報をこれまでの診療情報提供書から地域連携パスに移すことと,回復期におけるFIMなどの評価を複数回記入できるようにすることである.
・個人情報保護のため運用は紙ベースで行っているが,今後は地域連携パスソフトの機能を利用できるようVPN環境下での使用を検討していきたい.

参考にしたいパス実例集 (2)聖隷浜松病院−破裂脳動脈瘤の術前術後パス

 田中篤太郎 高橋博達 林美恵子 鈴木多美子
 key words 破裂脳動脈瘤 脳動脈瘤クリッピング 脳室ドレナージ 脳槽ドレナージ

内容のポイントQ&A
Q1.

クリニカルパス作成にあたって工夫した点は?
 脳卒中回診で脳神経外科医師とともにリハビリテーション科医師も患者を必ず診察し,嚥下の評価や術後のROM維持のベッド上リハビリテーションが必要かを判断し,リハビリテーションオーダーは直接リハビリテーション科の医師が出す.また,当院ではICU専用のチャートが別にあるためチェックボックスをできるだけ減らしている.

Q2.

実際に使用してみてわかった点は?
 基本的には,「高いレベルのエビデンスに基づいた治療法の共有」ができれば,患者の状態に合わせて複数併記で丸をつける選択方式や( )のなかに数字を書き込む記入方式で問題はない.また,患者の病状にあわないものは二重線で消す.

Q3.

バリアンスへの対応と今後の改良予定は?
 バリアンス評価と実際の薬物使用量の相違が問題となったことがあったが,本来は( )にしてそれぞれの患者の体重や意識レベルにあわせて適当な量を記入すべきであり,今後改良予定である.二重線による抹消の例としては脳室ドレナージや脳槽ドレナージがある.軽いクモ膜下出血の患者ではこれらのドレーンを入れることはないため,術後に入っていなければ,観察項目のこれらの文字は二重線で消す.

Q4.

パス運用のうえで重要な点は?
「パスの運用」に漏れがないか見直すことが最も重要である.点滴の指示を受けたスタッフが実際に点滴を接続したかどうかはどこをみればよいのか等,運用をそれぞれの病院の現状に合わせて決める必要がある.患者は治療コースのどのあたりにいて,どこまで処置がされていて何が未実施なのかといった情報の共有ができるよう,望ましい運用方法を十分に見直す必要がある.

参考にしたいパス実例集 (3)トヨタ記念病院−電子カルテ用アルゴリズムパス

 伊藤泰広 近藤直英 安田武司 米田厚子 清水由美子
 key words TOPSTAR 電子カルテ アルゴリズムパス 退院支援 バリアンス

内容のポイントQ&A
Q1.

クリニカルパス作成にあたって工夫した点は?
 脳梗塞のさまざまな多様性に対応できることを目的とした.本パスは入院時の(1)病型と治療薬,(2)臨床的重症度と入院後の活動度アップ,(3)退院先を3つの重要なパラメータとして,この組み合わせによるアルゴリズムパスとした.  当院は電子パスであり,紙パスに比べ利点も多いが,特有の制約や限界もある.この点を理解したうえで作成・運用すべきである.

Q2.

実際に使用してみてわかった問題点は?
 当パスはNIHSSを臨床的重症度と活動度の指標としている.これはおおむね妥当である.ただしNIHSSの点数は,脳幹ラクナ梗塞の症状を重く,一方で小脳梗塞を過少に評価しがちである.パスの導入・運用にNIHSSを利用する際は,こうした限界を理解する必要がある.また発症数日経過して来院する軽症脳梗塞患者が多く,パスをそのまま適応するといたずらに安静を強いることになる.原則を理解したうえで,パスは柔軟に運用するのが実用的である.

Q3.

バリアンスへの対応は?
 重要なバリアンスは状態の悪化,急変,合併症の発生であり,クリティカルなものはただちに中止,治療方針を変更する.そうでないものは活動度を変更し対応する.

Q4.

今後の改良の予定は?
 発症3時間以内の超急性期脳梗塞に対し,t-PA療法が認可された.t-PA療法用にER,ICU,SUを連続して運用する診療パスを作成し,運用開始予定である.また,パスの円滑な運用の背景には前方・後方を含めた地域連携の充実が不可欠である.当地域でも地域連携パスを地域で立ち上げ,活用していきたいと考えている.

参考にしたいパス実例集 (4)東北厚生年金病院−中枢神経疾患(回復期)のパス

 渡邉裕志br>  key words 回復期リハビリテーション クリニカルパス チーム医療

内容のポイントQ&A
Q1.

クリニカルパス作成にあたって工夫した点は?
 入院直後にリハビリテーションのゴールや入院期間を決定することは困難であるが,パスの構成を初回ケースカンファレンスまで全患者が使用する共通パスとカンファレンスで決定した入院期間に応じ使用する2種類の選択パスの組み合わせとすることで,適切な目標に応じたパスが選択できるようにした.また2週ごとに各スタッフが訓練内容やADLを評価し記載するスペースや,退院調整のための各種手続きの確認スペースを設けることで,リハビリテーションアプローチの進捗状況が一目瞭然となるようにした.

Q2.

実際に利用してみてわかった問題点は?
 入院期間による10週と16週の2コースとしたが,廃用症候群や高次脳機能障害,さらには脊髄損傷など多岐にわたる患者にも使用するためには,4週から16週までもっときめ細かい入院期間別のコースが必要である.

Q3.

バリアンスへの対応は?
 パスのアウトカムは設定入院期間内に退院(在宅,施設入所,転院)できることとし,各コースとも当初設定した入院期間の±1週間までは「ゆとり」としてバリアンスとはしないこととした.パスに記載された情報から目標の運動機能やADLと現状の乖離が確認され,バリアンスの発生が予想される場合,その原因についてカンファレンスや回診時にスタッフ全員で検討することとしている.

Q4.

今後の改良の予定は?
 定期的にパスの評価を行ってバリアンス発生率などを検討した結果,入院期間の選択肢を増やすべくVer.3を作成中である.