特集 脳卒中ユニットのリハビリテーション

特集にあたって

 脳卒中では急性期治療の良し悪しがその後の帰結を大きく左右することはいうまでもない.最近,話題の脳梗塞に対するt-PAはその最たるものといえる.発症後およそ3時間以内に投与できれば劇的な改善を期待できる特効薬である.一方,適応を間違えれば医原性ともいえる脳内出血を起こしてしまう.このような急性期の真剣勝負が行われる場として位置づけられるのが脳卒中ケアユニット(stroke care unit, SCU)であり,それを取り巻く亜急性期治療を含めた環境が脳卒中ユニット(stroke unit, SU)といえる.脳卒中ユニットでの治療の優越性は多くの報告に示され,『脳卒中治療ガイドライン』では脳卒中ユニットの急性期治療がグレードAで推奨されている.一方,脳卒中ユニットでのリハビリテーション(以下リハ)介入効果のエビデンスも最高レベルのIaであり,グレードAで脳卒中ユニットでのリハを推奨している.こういったエビデンスを背景に,平成18年4月の診療報酬改定では脳卒中ケアユニットに診療報酬加算が与えられ,専任の理学もしくは作業療法士の配置が規定された.この施設・人員基準が適切か否かは別にして,少なくともエビデンスのしっかりした治療・リハが実践される脳卒中専門病棟が求められていることは確かである.
 わが国ではリハは従来から急性期一般病院より切り離され,温泉地の専門施設に代表されるように独自の路線を歩んできた.平成12年には最長6カ月間と比較的長期にわたって集中的リハを提供できる場として回復期病棟という診療報酬上の枠が設けられたが,どういうわけか急性期病院のなかに回復期病棟を併設する病院はほとんど現れなかった.したがって,急性期治療と集中的リハは乖離したままできている.急性期リハは廃用予防だけでよいととらえられがちなためか,リハ専門医は主治医として力を発揮しないまま,急性期の場から離れつつある.そんな状況下で脳卒中ユニットが注目され,リハの重要性がうたわれたので,療法士のみならず専門医にも2週間という短い入院期間での勝負に真剣に取り組む機会が与えられたいってよいかもしれない.そもそも,脳卒中は外科治療の適応がなければ,病型診断のもと二次予防薬が選択されたあとに内科的介入の必要はほとんどない.数日で安静が解除されれば,あとはリハのみといっても過言でない.従来,回復期病院への転院待ちとして関節可動域訓練に終始して見捨てられていた患者はいなかったといえるであろうか.患者・家族に「急性期病院から追い出された」といわれていないであろうか.脳卒中に特化して教育を受けた病棟であれば,医師,療法士のみならず看護師の目もおのずとリハに向くのが当然である.回復期病棟では当たり前の機能−能力目標志向型リハが,急性期にも適用できる病棟が脳卒中ユニットではないだろうか.
 さて本特集のテーマである脳卒中ユニットのリハに決まったものがあるわけではない.むしろ,何が脳卒中ユニットのリハには求められるのかを議論しなければならない.そして,海外で報告された有効性のエビデンスをわが国のスタイルの脳卒中ユニットでも検証していかなければならない.そこで,本特集では杏林大学の山田先生に脳卒中ユニットのエッセンスを文献的に考察していただき,脳卒中ユニットの第一人者である熊本市民病院の橋本先生,川崎医科大学の木村先生に神経内科あるいは脳卒中科の立場で,また理想的な脳卒中リハを展開している相澤病院の原先生,横浜市立脳血管センターの前野先生にはリハ専門医の立場でおのおの,脳卒中ユニットのリハの現状を記していただくこととした.

 (編集委員会)

 

一般病院におけるSCU,SU

 橋本洋一郎 米村公伸
 key words 脳卒中 脳卒中専門病棟 脳卒中集中治療室 クリニカルパス リハビリテーション チーム医療

内容のポイントQ&A
Q1.

立ち上げの経緯は?
 ・少人数での診療のため医療の標準化を目指して脳梗塞安静度拡大マニュアルを作成(後に脳梗塞クリニカルパスに発展).
 ・1999年よりコメディカルと一緒に複数の回診を行いmobile stroke teamを結成.
 ・2007年に脳外科と同じ病棟で固定型stroke unit化の予定.

Q2.

スタッフの構成とリハビリテーション医の役割は?
 ・医師(スタッフ,レジデント,研修医),看護師,薬剤師,管理栄養士が中心となっている.
 ・歯科医や歯科衛生士は依頼に応じてベッドサイド対応.
 ・リハ医とリハスタッフもリハ依頼にてベッドサイドで対応.
 ・検査は24時間可能である.

Q3.

ユニット運営の問題点は?
 ・mobile stroke teamであり,導線が長く,主治医の負担が大きい.
 ・病棟ごとで脳卒中患者への対応が若干変わってくる.

Q4.

SUができて治療はどう変わったか?
 ・早期離床・早期リハ,栄養管理,感染対策,深部静脈血栓対策等で死亡率の低下.
 ・早期の退院・転院が可能.患者・家族とのトラブルも激減.
 ・若手医師の教育が多職種で可能となった.

大学病院におけるSCU,SU

 木村和美 山下眞史
 key words 大学病院 脳卒中 SCU SU チーム医療

内容のポイントQ&A
Q1.

立ち上げの経緯は?
 脳卒中診療をより充実する目的で,脳卒中科の前身である神経内科副部門に脳卒中科が2004年4月に設立された.2006年4月より脳卒中医学教室として独立した.現在,ベッド数は,SCUは2床,SUはないが,神経内科・脳神経外科・眼科で構成する脳神経センター内に脳卒中科として41床を確保している.

Q2.

スタッフの構成とリハビリテーション医の役割は?
 主なスタッフは,(1)脳卒中科は,部長1人,医長2人,医師9人,(2)病棟:脳卒中科医師,看護師,薬剤師,管理栄養士,(3)責任者:脳卒中科部長から構成される.リハスタッフの関与:SCUや病棟にリハ医やリハスタッフが専属で配属されていない.脳卒中急性期の患者は,入院翌日にリハ科にコンサルトし,リハ科で担当のリハ医が決定され,その医師よりリハの処方がなされる.その処方により症例ごとに担当PT,OT,STが決定される.

Q3.

ユニットの運営と問題点は?
 カンファレンスは,(1)脳卒中科と脳神経外科(毎朝),(2)脳卒中科主治医と病棟医長,看護師,薬剤師,管理栄養士,リハ医(週1回),(3)医師による看護師の勉強会(週1回)行っている.問題点は時間の都合でカンファレンスにリハスタッフの参加がないことである.

Q4.

SCU,SUができて治療はどう変わったのか?
 局所低体温療法やt-PA静注療法などの特殊治療がスムーズに導入できた.患者の当院回復期病棟への転科希望が増加したが,脳卒中入院患者の増加に伴い,当院の回復期病棟のベッド数に限りがあり,患者や家族の希望通りにリハ科へ転科できていない.

リハビリテーションセンターを有する病院におけるSCU,SU

 原 寛美
 key words 脳卒中ケアユニット SCU 早期リハビリテーション enriched environment

内容のポイントQ&A
Q1.

立ち上げの経緯は?
 平成6年にリハ科病棟が独立し,その後,脳神経外科との共用病棟50床として運営するようになった.平成14年に脳神経外科病棟が独立し,平成15年にSCU5床(NeuroICU)を開設,平成18年4月から診療報酬改定に依拠した「脳卒中ケアユニットSCU」9床として発展させた.

Q2.

スタッフの構成とリハビリテーション医の役割は?
 SCUの運営は脳神経外科が担当し,毎朝のカンファレンスでリハ科と情報交換を実施し治療方針を決定,専任PT1名の他に脳卒中部門のリハスタッフが離床と早期リハに携わっていくシステムとしている.

Q3.

ユニットの運営と問題点は?
 初期診断と入院後数日間の治療をSCUにおいて脳神経外科が担当,平均在室日数は3.9日(2005年SCUでの実績)であり,その後リハを中心に入院治療計画を立てるケースは隣接するリハ科病棟へ転科する.早期治療と早期リハ,双方の継続性を保証していく運営がポイントとなっている.

Q4.

SCUとSUの意義は?
 SCUにおいて,病型・病態を含めた的確な診断と急性期治療がなされることにより,早期リハ開始における有用な情報が共有でき,モニタリング下等での離床を効果的に進めることができる.

Q5.

リハビリテーション医の関与はどうあるべきか?
 SCUに入院した急性期脳卒中患者群に対して,脳神経外科と日々情報交換し,集中的なリハの必要性を診断すること,病状安定後,早期にリハ科病棟へ転科とさせて,1日9単位フル単位実施を含めた効果的な早期リハを処方していくことが,リハ医の役割である.

脳卒中専門病院におけるSCU,SU

 前野 豊
 key words 脳卒中 脳卒中ユニット 脳卒中専門病院 リハビリテーション

内容のポイントQ&A
Q1.

立ち上げの経緯は?
 センター設立時より,脳血管障害の専門病院として救急から回復期までを対象としており,いわば病院全体(300床)がSUといえる.なかでも急性期病棟(111床)は,SCUともいえる体制をとっている.

Q2.

スタッフの構成とリハビリテーション医の役割は?
 急性期病棟では神経内科医および脳神経外科医が救急患者の主治医となるが,リハ医を患者ごとに副主治医として振り分け,担当となる.PTだけではなく,OT・ST等のリハスタッフもベッドサイドから担当となってリハを開始する.リハ処方やゴール設定等は,全てリハ医が責任をもって行う.

Q3.

ユニットの運営と問題点は?
 主治医による内科的・外科的治療と全身管理の下,その許可を受けてリハ医が評価したうえでリハ処方を行う.リハスタッフは開始時から退院まで担当を続けるが,担当看護師は転棟をするごとに変わるという難点がある.定期的カンファランスを主体としてコミュニケーションを図る機会をもっているが,救急担当医は多忙であるために,参加が困難な場合が多い.

Q4.

SCU,SUの意義は?
 複数診療科やスタッフが,チームとして治療にあたることによって,早期から目標志向的なリハアプローチが可能になる点にある.

Q5.

リハビリテーション医の関与はどうあるべきなのか?
 一貫性のあるリハアプローチのためには,急性期の開始時から慢性期に至るまで,おのおのの時期に応じた具体的な目標の設定を次々にしていくことが必要である.このため,リハの専門家としてリハ医が関与する存在意義が生じると考えられる.

SCU,SUのリハビリテーション効果と今後の課題

 山田 深
 key words 脳卒中ケアユニット 脳卒中ユニット 急性期リハビリテーション  多職種連携

内容のポイントQ&A
Q1.

SCUとSUの発祥は?
 SCUは1970年代から脳卒中急性期管理を行う集中治療室として登場した.一方,SUは脳卒中に対して多職種連携によるリハアプローチを提供する組織形態を指し,1990年代から北欧を中心に世界に広まりつつある.SCUは集中治療室を備えるSUを意味する用語として広義に用いられることもある.

Q2.

SCU,SUの具備する条件は?
 医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,ソーシャルワーカー等の専門職が参加し,カンファレンス等を通じて連携して治療にあたる体制を構築することが必要である.患者や家族のリハへの参加,スタッフの教育研修システムも重要である.専有の病棟や狭義のSCUの設置は,必ずしもSUに必須の要件ではない.

Q3.

どのようなリハビリテーション効果が報告されているのか?
 SUは長期予後としての死亡率,施設入所率,介護が必要な症例の割合を低下させる.在院日数を短縮させるかどうかは報告によって結論が異なる.介入期間におけるADLの変化に関しての詳細な研究は限られているが,ADLの改善効率が向上したとの報告もある.

Q4.

最も重視すべきリハビリテーション効果は?
 早期離床を進め,急性期における合併症のリスクを軽減させることがSUの良好なアウトカムの要因である.特にSUが肺感染症の予防に及ぼす効果は大きい.適切なリハ介入を行わないまま,在院日数の短縮だけに固執してはならない.

Q5.

SCU,SUは脳卒中リハビリテーションをどう変えるのか?
 SUは不要な安静を排除し,これまでおざなりにされていた急性期リハを強化する仕組みとして,今後のアウトカムが期待される.SUにおける急性期リハを入り口とした,維持期リハに至るスムーズな連携を構築していく必要がある.