特集 非外傷性脊髄障害へのリハビリテーションアプローチ

特集にあたって

 脊髄麻痺をきたす疾患としては,その原因から外傷による外傷性脊髄損傷と外傷によらない非外傷性脊髄障害とに大きく分けられる.頻度としては外傷性脊髄損傷が最も多く,残りの半数が非外傷性脊髄障害によるものとされている.
 外傷性脊髄損傷は一瞬にして重度の麻痺をきたし,その回復は困難であることがほとんどで,受傷後早期に予後が予測され,損傷レベルと機能予後に基づいてリハビリテーション(以下リハ)計画が立案されるのが一般的とされている.一方,非外傷性脊髄障害は脊椎変性疾患,脊椎炎症性疾患,腫瘍,血管性疾患,脊髄炎,脊髄変性疾患,脱髄性疾患,中毒性・代謝性疾患,先天奇形など原因や障害が多様であり,かつそれらの原因を確定することが困難な場合もあるとされている.そして,診断の困難さばかりでなく,予後予測が立てにくいためにリハ計画の立案が困難となる場合もあること等が外傷性脊髄損傷の場合とは大きく異なる点でもある.したがって,外傷性脊髄損傷と比べて麻痺等の障害像は類似していても原因がさまざまであるために,原疾患管理の特殊性や変化しうる(進行するもの,著明に改善するもの)症状などからアプローチに難渋した経験をお持ちの方も少なくないのではないだろうか.
 脊髄障害のリハについては幾度となく雑誌の特集テーマとはなっているが,それらの多くは外傷性脊髄損傷を中心に論じられ,外傷性脊髄損傷とは異なる特徴を有する非外傷性脊髄障害へのアプローチについては日常臨床で経験しているわりにはまとまって論じられることがほとんどなかったように思われる.
 そこで本特集では,まず非外傷性脊髄障害について外傷性脊髄損傷との違い,鑑別診断の注意点などをまとめていただいた.画像診断については,最近の進歩をふまえ画像診断のポイントを鮮明な画像をもとに解説していただいた.画像診断技術の格段の進歩により,脊髄麻痺を呈する患者の高位診断・横断診断のみならず病理像の推測まで可能になったといわれ,リハの領域にも大きく貢献するものと思われるが,臨床症状の意義の大きさも強調されており,当然のことながら忘れてはならない重要なことである.
 各疾患については感染,脊髄梗塞,脊髄腫瘍,脊髄炎について経験症例のご報告をいただき,外傷性との相違点,疾患の特異性,それぞれのアプローチのポイントや留意点を述べていただいたが,いずれも難しい症例に対してリハが積極的にかかわった興味深い報告である.
 非外傷性脊髄障害は病院の役割・性質により扱う頻度は異なるが,一般病院であれば少なからず経験するものでもある.今回の特集が非外傷性脊髄障害に対するリハのより積極的なかかわりにつながり,患者のよりよいゴールへと結びつく一助となれば幸いである.

 (編集委員会)

 

オーバービュー

 陶山哲夫
 key words 非外傷性 脊髄障害 概観

内容のポイントQ&A
Q1.

外傷性脊髄損傷と非外傷性脊髄障害との違いは?
 外傷性脊髄損傷は外傷が原因で脊髄に麻痺を起こしたものであり,非外傷性脊髄障害は疾病・疾患により脊髄に麻痺を発生した場合を指し脊髄麻痺ともいう.

Q2.

非外傷性脊髄障害の発生状況は?
 平成14年10月厚生労働省の疾患別統計によると,全神経疾患の約1.4%と推定される.

Q3.

非外傷性脊髄障害の個々の発生頻度は?
 代表的疾患では脊椎後縦靱帯骨化症(OPLL)が10万人あたり6.33例,脊髄小脳変性症4〜10例,筋萎縮性側索硬化症(ALS)0.8〜6.4例,脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)0.02例.他の統計法では結核性脊椎炎の年間発生率300〜380例,その他詳細な統計は不明である.

Q4.

鑑別診断の注意点は?
 発症速度,麻痺型,その他疾患の個別的特徴等に注意する.

画像診断の進歩

 宮坂和男
 key words 脊髄 脊髄疾患 磁気共鳴画像(MRI)

内容のポイントQ&A
Q1.

画像診断の最近の動向は?  画像のデジタル化とともに,さまざまな画像処理が可能となり,脊髄の画像診断は非侵襲的で,立体的かつ微視的となった.最近は代謝・機能診断の試みも行われている.MRIは,撮像の高速化と受信コイルの改良が進んでいる.MRIの高速化については分単位の撮影からミリ秒単位までの撮像が可能となった.複数の表面コイルを並べたphased array coilは,撮像時間の短縮と高分解能の画像を得ることを可能とした.体幹を覆うような設定を行うと,全脊柱を高分解能で撮像できる.これらにより,脊髄や神経の微細構造が描出されるようになっている.CTは,複数列の検出器を配し,高速でより広い範囲にわたって細密にデータ取得する多列検出器型ヘリカルスキャンが登場した.短時間で薄い断層厚の画像を得るため,再構成画像の画質が極めて良好となった.

Q2.

画像診断のポイントは?  病変局在診断のポイントは,硬膜外疾患では靱帯・脂肪組織の同定,椎間板の変化である.硬膜内では,くも膜下腔の形態,血管の信号,神経根の変形,脊髄では白質・灰白質の識別,脊髄のサイズ・変形である.鑑別診断では,病変の進展態様・局在部位・信号がポイントである.

Q3.

画像診断と臨床症状が異なる場合は?  椎間板病変では,画像所見と神経症状のレベルが必ずしも一致しない.血流の関与や動態機能変化を考慮する必要がある.脱髄・変性疾患や血管障害では,発症から検査までの期間,検査法の解像力の限界があり,病変の検出困難な例が存在する.画像診断が進歩しても,臨床症状の意義は大きい.

症例報告−血管障害(脊髄梗塞)

 松宮英彦 奥山 亨 水間正澄
 key words 脊髄梗塞 前脊髄動脈症候群 リハビリテーション ADL 非定型的症状

症例報告−感染

 時岡孝光
 key words 化膿性脊椎炎 結核性脊椎炎 硬膜外膿瘍

症例報告−von Hippel-Lindau病

 大嶋義之 石神重信 西澤 茂 岡田満夫 難波宏樹
 key words von Hippel-Lindau病 不全四肢麻痺 リハビリテーション 早期復学

症例報告−HAM

 二宮宏二 堀ノ内啓介 川平和美
 key words HAM 痙性対麻痺 排尿障害 蛋白同化ホルモン