特集 心筋梗塞のリハビリテーションUpdate−普及のための新しい取り組み

特集にあたって

 心筋梗塞で入院すると急性期心臓リハビリテーション(以下リハ)を受けて退院となる.従来は4週間の入院による急性期心臓リハが標準的であったが,冠動脈再灌流療法の進歩や急性冠症候群の管理の進歩により,最近の急性期の入院期間は米国では3〜5日,わが国でも1〜2週間に短縮した.早期退院が可能になったことは廃用症候群にもなりにくいことを意味し,心筋梗塞のリハの必要性が「一見」低下してしまったと考える医療者も少なくない.
 しかし,これは大きな誤りである.すなわち,心臓リハとは,単に廃用症候群の防止・治療を目標としているのではなく,医学的な評価,運動処方,冠危険因子の是正,教育およびカウンセリングからなる長期的で包括的なプログラムからなっている.心臓リハは身体の安全と日常生活への復帰を目標とした急性期,社会復帰を目標とした回復期,社会復帰以後生涯を通じて行われる維持期から成り立っている.国内外ともに,多要素プログラムを擁する包括的回復期心臓リハにより,運動耐容能の増加,冠動脈硬化・冠循環の改善,冠危険因子の是正,生命予後の改善,QOLの改善などめざましい効果が示され,心臓リハでは包括的ケアを行う回復期心臓リハの必要性がますます高まっている.このような心臓リハのエビデンスを医師・患者双方に周知徹底させ,医師・患者に対し心臓リハの必要性を啓蒙することがなによりも重要である.また,リスクを適切に層別化した研究,心臓リハ指導士等の専門家の養成・活用,通院型心臓リハが困難な患者に対しての新しいコミュニケーション技術による心臓リハの遠隔医療等の利用とその効果の検証が必要である.これらを通じて,時間的・経済的・内容的に魅力的な患者主体の新しいプログラム・システム作成を行う必要がある.
 そこで本特集では,この分野の第一人者である執筆者により,心臓リハの普及のための新しい取り組みを提示していただいた.上月先生からは,心臓リハの定義やエビデンス,保険診療点数,リハ医と循環器科医の協力体制の構築の重要性について,後藤先生からは,急性期の心筋梗塞リハの実際と効果,現状の問題点と普及促進のための工夫を解説していただいた.一方,牧田先生からは,回復期の心筋梗塞リハの実際と効果,現状の問題点と普及促進のための工夫を,伊東先生からは,維持期の心筋梗塞リハの新しい流れとしてメディックスクラブやインターネット指導とその効果,現状の問題点と普及促進のための工夫を,洲川先生からは,心筋梗塞患者へのリハ介入の実際を解説していただいた.
 本特集号を読んでいただければ,最近10年間に大きくエビデンスが確立した「心筋梗塞リハ」の内容と普及のための取り組みが明らかになると考えられる.「心筋梗塞リハ」で培ったノウハウは「心不全のリハ等も含んだ心臓リハ」にも応用可能であることはいうまでもない.本特集を契機に,心臓機能障害者の生命予後の改善とQOLの向上の両面を兼ね備えた新しい医療としての「心臓リハ」のメリットを享受する患者さんがますます増加することを期待する.

 (編集委員会)

 

オーバービュー

 上月正博
 key words 回復期心臓リハビリテーション 心筋梗塞 生活習慣変容 心不全

急性期心筋梗塞リハビリテーション

 後藤葉一
 key words 急性心筋梗塞 冠動脈インターベンション(PCI) クリニカルパス 心臓リハビリテーション 二次予防

内容のポイントQ&A
Q1.

冠動脈狭窄度と発症の関係は?
 冠動脈の狭窄度よりもプラークの破裂のしやすさが,心筋梗塞の発症により強く関与する.

Q2.

冠動脈疾患の治療法の選択基準と最新事情は?
 発症から12〜24時間以内であれば再灌流療法の適応となる.再灌流療法には血栓溶解療法とPCIがあり,ただちに実施可能な場合はPCIを行う.PCIではステントが留置される場合が多い.従来からの薬物治療に加え,ACE阻害薬やβ遮断薬の投与も行われている.

Q3.

プロトコール・ステージ進行基準と主な合併症は?  国立循環器病センターでは,(1)再灌流療法が成功しKillipI型で合併症がなく血中CK最高値が1,500U/L以上の急性心筋梗塞症例に対して,14日間クリニカルパスを適用し,(2)再灌流療法が成功しKillipI型で合併症がなくCK最高値が1,500 U/L以下の小梗塞症例に対しては10日間クリニカルパスが適用される.急性心筋梗塞に伴う重篤な合併症(心原性ショック,心破裂,致死性不整脈,死亡等)の多くは発症後約1週間以内に発生する.

Q4.

急性期心筋梗塞リハビリテーションの効果は?
 急性期心臓リハビリテーションから回復期心臓リハビリテーションへスムーズに移行させ,退院後の心臓リハビリテーションを長期継続することによりAMI患者の長期予後が改善することが多数の前向き無作為割り付け試験のメタ解析により示されている.

Q5.

国内外の動向は?
 欧米では急性心筋梗塞症の入院期間は通常1週間以内であるため,心臓リハビリテーションは退院後に外来通院型で開始されることになる.

Q6.

現状の問題点と普及促進のための新しい工夫は?
 AMI後の心臓リハビリテーションは,その有用性が確立されているにもかかわらず,わが国では普及が著しく遅れている.今後は二次予防教育を含めた包括的心臓リハビリテーションを外来通院型として普及させる必要がある.

回復期心筋梗塞リハビリテーション

 牧田 茂
 key words 心臓リハビリテーション 回復期 包括的アプローチ 心臓リハビリテーション指導士

内容のポイントQ&A
Q1.

プロトコールは?
 心臓リハビリテーションで重要なことは,包括的であるということと継続性があるということである,運動療法以外に患者教育を含めた食事療法,禁煙指導,ストレスコントロールなどがある.運動療法は適応と禁忌を明確にして,患者の状態に合わせて個別に処方を組む.

Q2.

外来型か入院型か?
 入院型は主としてヨーロッパを中心に普及している.外来型はわが国でこれから普及していくものと思われる.

Q3.

主な合併症は?
 計画的に実施された心臓リハビリテーション(主として運動療法)の合併症の頻度は低い.心循環系事故のみならず,ケガなどの整形外科的合併症の発生にも注意を払う.

Q4.

回復期心筋梗塞リハビリテーションの効果は?
 運動療法を中心とした多面的効果(pleiotropic effect)が確認されている.集中的な回復期心臓リハビリテーションによる長期的効果も注目されている.

Q5.

国内外の動向は?
 ドイツでは切れ目のない心臓リハビリテーションが急性期から回復期まで整備されており,そのエビデンスが報告されている.したがって,回復期はもとより維持期においても一定の期間保険診療が認められている.

Q6.

復職を念頭にしたアプローチは?
 患者の運動耐容能と職業の内容を考えた指導が必要である.METsを指標にして指導する.

Q7.

現状の問題点と普及促進のための新しい工夫は?
 わが国では回復期の心臓リハビリテーションの実施率が非常に低い.わが国独自のエビデンスの確立と医療関係者の理解を得る努力と一般市民へのアピールが重要であろう.心臓リハビリテーション指導士の普及と質の向上を含めた心臓リハビリテーション学会の活動が鍵となる.

維持期心筋梗塞リハビリテーション

 伊東春樹
 key words 維持期心臓リハビリテーション 心筋梗塞 運動療法 ジャパンハートクラブ メディックスクラブ

内容のポイントQ&A
Q1.

維持期心臓リハビリテーションの目的は?
 心臓リハビリテーションは質の高い社会復帰に必要な包括的介入であり,継続的な治療ならびに予防戦略である.

Q2.

医師による指導か,コメディカル指導か? 役割分担は?
 それぞれの職種がお互いの知識や技術を共有し,互いの役割に固執しないことが重要である.

Q3.

維持期心臓リハビリテーションの効果は?
 病因ならびに病態に介入し,多くの機序によってQOLと生命予後改善をもたらす.

Q4.

ドイツの維持期心臓リハビリテーションとは?
 非営利団体による地域に根ざした維持期心臓リハビリテーション活動:Ambulante Herzgruppeが組織されている.

Q5.

メディックスクラブとは?
 NPO法人ジャパンハートクラブによって運営される循環器疾患の一次予防・二次予防を目的とした運動療法プログラムである.

症例提示−急性心筋梗塞

 洲川明久 鈴木昭広
 key words 急性心筋梗塞 リハビリテーション 早期退院 心肺運動負荷試験 包括的

心臓リハビリテーション認定施設基準と保険診療点数

 上月正博