特集 関節リウマチ患者の上肢機能−維持・改善をめざして

特集にあたって

 関節リウマチ(以下RA)は多発性関節炎に基づく関節の破壊とそれに伴う疼痛,変形等により機能障害,能力低下,社会的不利を引き起こす疾患である.また,20〜50代の女性に多いという特徴からも能力低下や社会的不利には特有の問題点が存在する.
 治療においては,近年RAの早期診断,早期治療が提唱され,早期からの積極的な薬物療法が実践されている.しかし,早期治療のひとつにもあげられている早期リハビリテーション(以下リハ)アプローチについて,わが国で十分な対応がなされているかは疑問がある.リハアプローチは薬物療法,手術療法とならんでRA治療における治療の柱のひとつであるとされているが,現状では変形が進行してADLに支障をきたすようになったり,手術後の機能訓練でのかかわりのなかで実施されていることが多いようである.
 上肢障害に関しては,手関節・指関節は早期から疼痛や変形をきたし把持・巧緻動作が障害され,次いで肘・肩関節の障害に由来するリーチ動作等の障害により能力低下が著しいものとなってくる.進行とともに,これらが多関節にわたり障害を受けることも多く,ADLの障害は個々の関節がもつ機能の障害が加算された総合的な障害として現れる.また,下肢の障害を併せもつことも多く,起居動作や杖使用時などにおいては荷重関節としての支持性・安定性といった認識も必要となってくる.
 本特集では,RAの上肢障害に対しリハアプローチをいつからどのようにかかわり,障害の軽減に貢献することができるのかといった視点を中心に,最近の手術療法の進歩をも含めて取り上げた.
 佐浦先生は関節の疼痛や変形のみならず腱断裂,絞扼性神経障害などの障害発生メカニズムについて述べ,さらにADLに必要な上肢各関節の特徴をまとめられ,これらを十分に把握したうえでの慎重な治療の選択を強調された.堀井先生は罹患関節個々の機能評価とともに上肢全体の障害による能力評価として従来からある客観的評価に加え,近年開発されたDASHの有用性と主観的評価の必要性について述べられた.水落先生は日常生活指導での関節保護の原則に基づいた早期からのかかわりの重要性を強調され,関連他科とのチームアプローチ,教育入院などの実践例を紹介しリハ科の果たす役割とその効果について述べられた.仲田先生は補助的手段としての装具療法の目的や処方上の注意点について述べられたが,罹病期間が長く顕著な変形があっても,変形に比して機能が保たれている例も多く,患者の満足度を得るための配慮の重要性を指摘された.稲垣先生は手術療法の進歩により上肢に対しても種々の手術が積極的に行われるようになり,ADL改善効果も得られるようになったことを述べ,その適応や優先順位についても述べられた.
 RAに対しては,早期からの薬物療法とともにリハアプローチも重要であることは知られていたが,上肢においては早期からのかかわりが特に重要であることが今回の特集において再認識させられた.これを機にRAに対する早期からのリハアプローチの取り組みがより普及し,リハが多くのRA患者の支えとなることを期待する.

 (編集委員会)

 

上肢障害のメカニズムとADL

 佐浦隆一 伊藤智永子
 key words 関節リウマチ 上肢 変形 日常生活動作 リハビリテーション

内容のポイントQ&A
Q1.

関節リウマチによりどのような上肢関節障害が生じるか?
 リウマチ関節炎は発赤,熱感,腫脹,疼痛,機能喪失といった炎症の5主徴を呈する.関節腫脹は滑膜炎によって生じ,炎症性疼痛と2次的な変形による機械的疼痛をきたす.関節リウマチに特徴的な朝のこわばりも関節周囲の浮腫,関節液の粘稠度の変化などに関連して発症する.また,関節周囲組織の弛緩・断裂,骨・軟骨の破壊は関節動揺性や変形をきたすだけでなく,この変化が絞扼性神経障害や手指伸筋腱断裂の原因となる..

Q2.

上肢関節変形とそのメカニズムは?
 関節リウマチの関節障害は部位により様式が異なり,手指には特徴的な変形が多く発症する.肩・肘・手関節では破壊にともない疼痛,可動域制限あるいは動揺性をきたす.また,変形により絞扼性神経障害(肘部管症候群,後骨間神経麻痺,手根管症候群など)が生じる.また,尺側偏位,MP,PIP関節の変形によるスワンネック変形やボタンホール変形,母指Z変形など手指に特徴的な変形をきたす..

Q3.

上肢関節障害のADLへの影響は?
 関節リウマチの上肢関節障害はあらゆるADL障害に結びつく.リーチ動作に関連する肩・肘関節,つまむ,握るなどの動作に関連する手・指関節とも無痛性,可動性,安定性が要求されるが,関節によって様子が異なる.大関節では可動域制限があっても代償動作により機能的には困らない場合も多く,気づいたときには拘縮が進行している.一方,手・指関節はさまざまな変形をきたすが,患者自身が適応していることも多く,装具などによる変形矯正が他の関節機能に影響を及ぼすことも少なくない.関節リウマチの上肢障害の発症メカニズムと特徴を十分に把握しADL障害を評価したうえで,生活指導,装具療法,手術療法を処方することが大切である..

上肢障害の評価

 堀井可奈 石川 肇 村澤 章
 key words 関節リウマチ 把持・巧緻運動機能障害 リーチ機能障害 JOA判定基準 DASH

内容のポイントQ&A
Q1.

臨床で問題となる主な上肢関節障害は?
 関節リウマチ患者は早期から手関節,手指が障害され,その疼痛や変形による把持・巧緻運動機能障害が問題となる.次いで肘関節・肩関節障害にともなうリーチ機能障害が問題となる.

Q2.

機能障害の評価は?
 個々の障害関節の疼痛,筋力,可動域などを測定し,JOA治療効果判定などの個々の関節の機能障害を総合的に判定する評価法が有用である.

Q3.

能力低下の評価は?
 上肢全体の能力低下の評価には,The DASH日本手の外科学会版(The JSSH Version)による患者立脚型アウトカム評価が多関節障害のみられるRA患者の上肢能力障害の評価に有用である.

上肢障害と日常生活指導

 水落和也 坂本安令 鴻井健三
 key words 関節保護法 家事動作 日常生活活動

内容のポイントQ&A
Q1.

日常生活指導の基本は?
 病期や生活環境,生活パターンなど個別の機能評価に基づいた関節保護法と労力の節約を指導する.

Q2.

行ってよい(肩,肘,手の)動作,悪い動作は?
 関節保護の基本は,(1)関節は変形を避ける解剖学的に安定した肢位に保つ,(2)小関節の過負荷を避け,大関節を利用する,(3)休息をとり,長時間の関節負荷を避ける,(4)装具や自助具を有効に利用する,(4)作業環境を整え,作業を簡略化することである.

Q3.

日常生活動作の指導と工夫は?
 発病早期からのかかわりができるよう,リウマチ科,整形外科などと有機的なチーム医療環境をつくり,外来での指導を基本とするが,通院が困難な例や心身の安静が必要な例にはリウマチリハ教育入院を利用して集中的な指導を行う.指導にはパンフレットなどの教材による指導だけでなく,実際の動作の体験が必須である.

Q4.

日常生活関連動作(特に家事)の指導と工夫は?
 個々の症例で慣れ親しんできた家事動作の方法があるので,新しい方法の定着には十分な時間と体験が必要である.長期的フォローアップを行い,家事動作を再確認し,必要があれば再指導を行う.

上肢障害に対する装具療法

 仲田三平
 key words 関節リウマチ 装具 上肢 スプリント 自助具

内容のポイントQ&A
Q1.

装具療法の目的は?
 可動性制限によって安静をはかり,関節への負荷,炎症,疼痛を軽減させること,拘縮変形を予防し,変形をもとのアライメントに矯正保持すること,自動・他動運動の補助,失われた機能の代償などである.

Q2.

上肢装具の種類と適応は?
 機能的には継ぎ手がない静的装具と,継ぎ手付きで自・他動的に動かせる動的装具とに分けられる.肘関節の側方動揺性に対して肘装具が,手関節の安静・固定に手関節装具が,手指の変形に対して各種のスプリントが適応となる.装具に加え,自助具を活用することが必要である.

Q3.

使いやすい装具・自助具とは?
 上肢の機能障害が生じている患者の場合,罹病期間が長く,顕著な変形に比較して機能は保たれている例が多い点を十分考慮する.自助具については既製品をうまく使うこともひとつのアイデアである.

上肢障害に対する手術療法の進歩とADL

 稲垣克記
 key words 関節リウマチ 上肢手術 人工肘関節置換術 バイオメカニクス

内容のポイントQ&A
Q1.

肩関節・肘関節・手関節・手指機能障害に対する最近の手術療法は?
 欧米では関節リウマチ患者の肩関節病変に対して積極的に人工肩関節置換術を行うが,わが国では上腕骨頸部骨折や偽関節に行うことが多い.肘関節には,Larsen gradeI,IIには滑膜切除術,stageが進行すれば人工関節置換術が行われる.手関節に対しては,伸筋腱断裂には腱移行術や移植術で対応し,滑膜切除または形成術を追加する.手指に対しては,(1)表面置換型人工PIP関節,(2)SwansonシリコンMP関節インプラント,(3)Ball in socket型の人工MP関節で対応するほか,人工関節を用いない関節形成術としてcross intrinsic transferが尺側偏位の治療に用いられる.最も信頼でき長期成績が約束されるのは人工肘関節置換術である.

Q2.

手術適応とその優先順位は?
 一般に最も疼痛の強い関節から手術の計画を立てるが,上肢と下肢が同等の場合は下肢を優先する.まず下肢の手術を行い,ADL上,杖や補助具の使用頻度を減らすべきである.また,上肢で同側多関節罹患の場合,上肢のstabilizerとしてまず肘の人工関節置換術を行うことが多い.筆者は肘の手術後1年以上経過後に手関節の安定化をはかり,次に母指の再建,最後に手指の再建という手順を原則にして優先順位を決定している.

Q3.

手術によりADL改善が期待できる上肢関節障害は(人工関節置換術はADLをどこまで改善させることができるか)?
 人工肘関節置換術により,疼痛が著しく改善し,肘屈曲が獲得され,洗顔が可能になったり,大小のタオルしぼりや書字のコントロールのような肘のstabilityに関連するADL上の高い改善が期待できる.