特集 成長期における脳性麻痺児のシーティング&ポジショニング

特集にあたって

  近年,座位保持装置の重要性が認められ,いくつもの特集が組まれるようになった.そのなかで今回の特集号では脳性麻痺の病態と特に重度例の課題を中心に取り上げ,現在に至るまで長年第一線で活躍されている先生方に執筆していただいた.  ご存知のように,脳性麻痺とひとくちにいっても,麻痺型・重症度・合併症などにより千差万別であるため,まず,座位保持装置を念頭において,脳性麻痺の病態の要点をまとめていただいた.  座位保持装置を必要とする脳性麻痺児は,頸のすわりがない,あるいはわずかな例がほとんどであるため,最も難しい頸,あるいは頭部の保持が最優先課題となる.  よい姿勢,あるいは筋緊張状態は,呼吸,摂食・嚥下などの身体機能や脊柱側弯や股関節脱臼等の予防と関連してくる.骨盤の後傾をなるべく少なくした,仙骨坐りではない基盤のうえに,できるだけ股関節を外転位に保持して骨盤がしっかりとした土台となるようにし,頭部が最も高い位置にくることが望ましいと考えられる.そのためには,よい姿勢の骨盤の真上に頭部がくるようにするのが理想的である.これは円背(collapsed spine)や脊柱側弯がないポジショニングということになるが,長時間この位置を維持することは実際には無理であることもしばしばである.  座位保持装置を使用することにより呼吸状態がよくなると,筋緊張も軽減されてくる.下顎の後退や舌根沈下に対して,頭部の前傾姿勢がよい場合もしばしばである.仰臥位に近い姿勢をとらざるを得ないこともあるが,脳性麻痺児は自分で苦しさを訴えることができないため,医療スタッフが見逃してしまうこともよくある.そのため,重度例への課題と対応の原則についてわかりやすく書いていただいた.  また,座位保持装置をモールド型で採型をする場合,あらかじめセラピストなどによるハンドリングをしてから行うのがよりよい方法である.少なくとも子どもを抱いてみると,見ただけのときと評価が大きく異なることもあるので,是非試していただきたい.  見逃されやすいこととして座位保持装置をチェックする際には,個々に応じてきめ細かな対応が必要となる.脳性麻痺児にとって座位保持装置が,座面の奥行きが大きすぎたり,レッグレストの張りが強いために,児が骨盤を後傾させずに左右均等に坐骨結節に荷重できるようになっているかをチェックすることが重要な点のひとつであると考えている.  最後に実際の座位保持装置の最新の内容をまとめていただいた.昇降式も福祉用具の交付基準に含まれるようになったが,平成18年10月より自立支援医療の福祉用具となり,原則1割の自己負担の導入となる.また,座位保持装置や車いす作製などに関しては,以前より国家資格や姿勢保持など幅広い概念でとらえるべきである,あるいは座位保持装置のレンタル化も検討課題にあがっている等と新たな展開の可能性を聞いている.  利用者にとって有用で,長く使ってもらえる座位保持装置をめざして,本特集号が役立てば幸いである.

 (編集委員会)

 

脳性麻痺児の姿勢

 川口幸義 二宮義和 中村隆幸 岡崎成弘 松坂哲應
 本山和徳 松尾光弘 小柳憲司 長岡珠緒 川崎千里
 key words 脳性麻痺 姿勢 頸のすわり 座位 姿勢保持

内容のポイントQ&A
Q1.

頸のすわり・座位のとらえ方は?
 脳性麻痺児の定頸はその後の発達に大きな影響をもつ.低出生体重児では反り返りのため頸のすわりはもちろん両手を合わせることが困難で,下肢に鋏状肢位(scissors posture)をきたして,歩行が困難となる(痙性両麻痺).また不随意運動が強いタイプでは,頸のすわりが得られないため四肢・体幹にも不随意運動や不安定性が残る(アテトーゼ型四肢麻痺など).  座位に関しても,それが可能となれば日常生活動作の自立に大きな進歩をもたらし,呼吸機能の向上などにもつながる.早期治療において頸のすわりや座位の獲得は重要な目標である.

Q2.

原始反射・姿勢・筋緊張の関係は?
 原始反射が抑制され,正常姿勢反応が発達するにつれて,背臥位から腹臥位,座位,立位へと発達していく.また全身的姿勢緊張は新生児期では屈曲緊張が強いが,徐々に弱くなる.かわって伸展緊張が漸増してくるが,生後9カ月頃から減弱していく.しかし脳性麻痺では原始反射の残存,漸減すべき全身的伸展緊張が逆に強くなる場合が多い.

Q3.

タイプ毎の姿勢の特徴は?
 痙性四肢麻痺や痙性両麻痺では一般に全身的伸展緊張の影響を受けた姿勢をとる.アテトーゼ型は四肢麻痺であり非対称性緊張性頸反射の影響を受けていることが多い.アテトーゼ型やdystonicな四肢麻痺では足部の随意性が残存していることがあり,歩けなくても車いすの操作を足でおこなえる人がいる.

Q4.

成長にともなう変化は?
 重症度にもよるが,幼児期後半には,四肢の拘縮は機能的拘縮から器質的拘縮に変化していく.早期からの(リ)ハビリテーションにより,鋏状肢位は減っているが,crouching posture は残り,麻痺性の股関節脱臼,麻痺性側弯症に対するアプローチが必要となる.四肢・体幹の変形・拘縮・脱臼の進行防止のための運動療法,装具療法,そして手術が必要となる.成人期になれば頸椎症・頸髄症や変形性関節症への対応が要求される.ボツリヌス毒素の筋肉内注射の有用性も散見されるようになる.

脳性麻痺児の姿勢保持装置

 金子断行 北住映二
 key words 脳性麻痺 ポジショニング 頸部保持 立位 呼吸障害

内容のポイントQ&A
Q1.

頸の保持の工夫は?
 頭頸部の保持の姿勢を工夫するには,対象児の頭頸部の発達段階や特徴を考慮し,なおかつ,体幹と骨盤が頸部の位置の整合性を保てるような姿勢保持の仕方を考えていくことが肝要である.

Q2.

立位の重要さと立位のための装具は?
 立位が保持できるようにする目的は,上肢・上半身の機能の発達と,下肢の支持能力機能の発展促進である.立位保持のための装置の作成・使用にあたっては,対象児の特徴に応じながら,対称性に体幹が支えられること,および,両下肢に均等に荷重されることを基本に考え,股関節の求心性が保たれるようにすること,そして,前傾方向へのティルティング機能を取り入れることが重要である.

Q3.

呼吸障害へのポジショニングは?
 脳性麻痺児での呼吸障害の大きな要因である,舌根沈下や喉頭狭窄などによる上気道の狭窄への対策として,下顎の保持のための装具の工夫や,前傾位や腹臥位でのポジショニングが有効である.気管軟化症による気管狭窄も腹臥位や前傾座位で軽減しうる.胸郭運動性呼吸障害の改善,誤嚥性の肺病変の悪化防止のためにも,腹臥位のポジショニングが重要である.

重度例の課題と対応

 花井丈夫
 key words 重度児 ポジショニング 成長期

内容のポイントQ&A
Q1.

頸部・肩甲帯の異常への対応は?
 臥位では,頭部の動きにくさが全身に影響を与えるので,活動的刺激が多い場面であれば対称的に動きやすくなるよう枕の形状・高さを選択する.座位では,頭部の動きやすさが姿勢の安定性に影響するので,動きを制御できるように体幹を起こす角度やヘッドサポートの形状を選択する.いずれの場合も肩甲帯が頭部の運動や支持の基盤になるので,肩甲帯のアライメントがポイントになる.

Q2.

脊柱変形・股関節脱臼の進行予防は?
 脊柱側弯の進行予防には座位および側臥位のポジショニングが重要となる.関節の支持性が不良なケースでは,特に早期より座位保持装置などで後側弯をコントロールすることが重要である.股関節脱臼進行予防には,どんな体位においても股関節の求心位を取り,運動性や支持性を促す配慮が必要である.重度児では脱臼そのものより可動域制限や左右差拡大が二次的に座位保持困難や脊柱変形増強につながることが問題である.

Q3.

呼吸機能障害への対応は?
 気道確保のためには,枕やヘッドサポートの機能形状が重要になる.リラクセーションのためには,体幹および周囲の関節の可動域が重要である.道具でのみの対応には限界があり,ターゲットを絞って継続的に可動域拡大訓練を行い,拡大した可動域を利用した姿勢を日常的に使うことが重要となる.特に,呼吸機能障害に対しては道具も少なく容易に姿勢変換できる身体を確保することが最も重要である.

Q4.

摂食・嚥下障害への対応は?
 摂食姿勢としては基本的な座位が生理的に重要である.摂食・嚥下障害は,脊柱変形が伴うと嚥下後の逆流防止も含めて姿勢を考える必要がある.嚥下造影(VF)などで確認しながら姿勢を決めていく必要があるが,過緊張になることは嚥下にとっても消化にとっても不良なことであるので,過緊張の原因分析と対応が重要になる.

座位保持装置Update

 繁成 剛
 key words 座位保持装置 種類 入手方法 制度

内容のポイントQ&A
Q1.

座位保持装置のタイプとは?
 座位保持装置は1990年に補装具による公的給付対象となって以来,飛躍的な進歩を遂げている.北米では対象児が座るときの支持面の形式により(1)平面形状型(Planar)と(2)曲面形状(Contour)に類別されているが1),日本では一般に(1)モデュラー型と(2)モールド型に分類されることが多い2).モデュラー型は姿勢保持に必要な種々のパーツをアッセンブルすることによって使用児の体型や症状に対応するシステムをさし,モールド型は義肢装具の採型と成形技術を応用したもので,1980年代に入って製作されるようになった.

Q2.

座位保持装置が入手できるところは?
 座位保持装置は使用者に合わせた調整や適合に専門的な知識と高度の技術が要求されるため,福祉用具販売店や介護ショップで購入してすぐに使えるものではなく,一般的に公的給付制度を利用して個人に合わせて製作する.座位保持装置を製作できる業者は工房,義肢装具製作所,車いすメーカー,輸入製品のディーラーからなる.

Q3.

費用,利用可能な制度は?
 座位保持装置は1990年に身体障害者福祉法・児童福祉法の補装具の種目として認められ,2001年に改正されたが,介護保険との統合化のなかで根本的に改正される可能性がある.基本価格は使用材料費と製作加工費から構成されており,採寸または採型する部位および手法によって価格が異なる.座位保持装置の価格はこの基本価格に製作要素価格と完成用部品価格を加えたものである.

手動兼用車いす

 君塚 葵
 key words 手動兼用車いす 簡易電動車いす 電動補助ユニット