Q1. |
脊柱のアライメントへの影響は?
脊椎圧迫骨折(以下,圧迫骨折)が発生すると,脊柱のアライメントは変化することが多い.圧迫骨折にともなう脊柱変形は,円背,凹円背,全後弯,亀背などと分類される.骨折した椎体の変形の型により圧迫骨折があっても脊柱変形をきたさない症例もあるし,円背があっても圧迫骨折のない症例も存在するが,多くの症例では圧迫骨折が存在すると円背が発生する.胸腰椎移行部の椎体が著明な楔状変形を起こし,その上下の脊柱が代償性に前弯を増強させると,亀背となる.上位胸椎では圧迫骨折がなくとも円背を呈することは稀ではないが,一般的には中位胸椎に圧迫骨折が多発すると円背となる.胸椎後弯が増強すると代償的に腰椎前弯が強くなり凹円背となることが多い.後弯が胸椎だけでなく腰椎でも発生すると全後弯となる.
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Q2. |
歩行への影響は?
円背では脊柱の重心は前方へ移動するが,凹円背ではある程度もとに戻る.全後弯となると重心は前方へ大きく移動する.円背では股関節を過伸展し膝は軽度屈曲位の歩行となるが,凹円背では代償される.全後弯となると股関節は強度過伸展し膝は強度屈曲位となるか,あるいは杖や老人車での前屈歩行となる.腰椎前弯という代償作用がない円背では仙骨が後傾し,起居・歩行能力が低下する.また,円背があると,腰椎背筋群のコンパートメント内圧が上昇し筋阻血状態となり,筋・筋膜性腰痛と間欠跛行が生じる.
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Q3. |
脊柱変形による合併症は?
脊柱変形による内科的合併症の代表的疾患として逆流性食道炎がある.逆流性食道炎は60歳以上の女性で有病率が急上昇し重症例も増加する.高齢女性で罹患頻度が上昇する理由として,食道裂孔ヘルニアの合併が考えられ,女性の食道裂孔ヘルニアの合併率は年齢とともに急増する.円背・亀背による腹圧上昇が食道裂孔ヘルニアの誘因となっている.逆流性食道炎があると,逆流した胃酸が咽頭・喉頭に炎症を起こし,咽頭・喉頭違和感,嗄声,咽頭痛,嚥下痛,胸痛,上腹部痛が発生する.さらに胸痛を惹起し,しばしば狭心痛と誤診される.脊柱後弯にともなう胸郭可動域制限は全肺気量,肺活量,最大呼気流量,一秒率を低下させ,機能的残気量を上昇させ,呼吸機能低下をもたらす.
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Q4. |
安静臥床の弊害は?
新鮮な圧迫骨折で安静臥床となる理由の第一は疼痛である.多くの圧迫骨折では外固定をすると,ただちに疼痛の程度が低下し,起居動作が可能になる.適切な外固定をただちに行うことが最も重要である.疼痛を和らげる薬剤はNSAIDとカルシトニンが有効である.後壁損傷のない圧迫骨折では外固定さえすれば,疼痛の許す範囲で歩行させるべきである.
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Q5. |
脊髄障害への進行の見極めは?
遅発性脊髄障害が発生する危険性があるのは第1に後壁損傷型の骨折であり,後壁損傷のある症例が適切な外固定を受けないでいると後壁は脊柱管内へしだいに大きく突出する.明らかな後壁損傷がなくとも偽関節となった骨折部で強い亀背となり,不安定性があると遅発性脊髄障害が発生しうる.
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