特集 病院機能評価−リハビリテーション部門受審のために

特集にあたって

 最近,病院のランキングをよく目にするようになった.1つは日本医療機能評価機構が審査して行う病院の質のランキングで,もう1つはいわゆる研修医のスーパーローテーション先としての人気の高さによる病院ランキングである.世間で定評のある病院は両ランキングとも高い位置を占めているようである.研修するなら医療水準が高くて,患者サービスもよい病院でと考えるのは当然かもしれない.
 残念ながら,今までこういったランキングでリハビリテーション(以下リハ)がクロースアップされることはなかった.リハ科医師,コメディカルの多くは「我々には関係しないもの,したがって興味をおぼえない」と考えていた.しかし,評価機構の審査を受けた経験があれば,意外にリハに対する注文があることに気づく.リハ科の担当医師がいるか? 療法士数は必要十分か? 定期的に多職種合同カンファレンスが開かれているか? リハ計画に基づき適切なリハがなされているか? などである.もちろん,一生涯,遭遇することはないと思われるような事態への対処マニュアルなど,膨大な量の書類を用意しなければならないことに象徴されるように,官僚的で非合理な部分も多いが,リハにも目が向けられていることは確かである.
 常日頃,いろいろな制約を受けながらリハに携っている医師やコメディカルであれば,リハの質について持論があるのではないか.評価機構の掲げる基準は果たして妥当だろうか.機構のいう適切なリハとは何を指しているのだろうか.疾患によっても,重症度によっても自宅復帰率,ADL改善率などは異なるのが当然である.重度の障害者を多く受け入れている施設では評価点数は低くされてしまうかもしれない.結果が出てから文句を言っても遅いのである.受審を契機に地域・病院のなかでのリハ部門の位置づけ,存在価値,その質ということを考えてもいいかもしれない.
 ところで,評価機構の最新版では付加機能評価として救急医療,緩和ケアに並んでリハが加えられた.これは回復期リハ病院など,リハを重視した施設をターゲットにした評価である.病院淘汰の時代に入り,過剰な一般病院が整理され,回復期リハ病院に転向するものも増えている.単に専従医師・療法士の数を回復期リハの基準に合わせただけで,リハ哲学を欠いた病院もあると聞く.そういう病院では,当然,リハ・アウトカムも悪く,入院期間の基準が満たせなくなって回復期リハ認定を返上した病院もあるという.将来的には,回復期に限らずリハ専門病院の競争も起こりうるものと思われ,リハの付加機能評価で専門病院がランキングされ,それが一人歩きするようになるかもしれない.
 本特集では評価機構がリハに関して何を求めているのかを具体的に示すとともに,機構の評価を実際に受審した経験からの助言,そして機構の着眼点にこだわることなく,現場からのリハの質についての提言も含めた内容を企画した.この機会に自身が関係するリハ医療の場とその内容をチェックして,新しい時代のリハへの対応を考えていただければ幸いである. 

(編集委員会)

 

医療の質の評価と日本医療機能評価機構

 内田卿子
 Key Words:書面審査 訪問審査 付加機能

内容のポイントQ&A
Q1. 機構の評価を受けるメリットは?
 受審に向けた準備は各部署ごとの活動,部署を横断した活動がどのように構築されているかを見直すまたとない機会となる.このような見直しによって互いの活動を理解でき,横の協力関係が生まれ,医療提供の内容の質を上げることになる.
Q2. 受審に至るステップと評価の種類は?
 審査は書面審査と訪問審査の2段階からなり,両者を経て認定証,報告書が発行される.審査体制,評価者数,訪問審査日数などは病床種類・規模によって異なっている.また総合版評価項目の認証を受け,認定証を取得した病院は付加機能評価を受けることができるようになった.
Q3. 審査の対象となる資料・マニュアル類は?
 訪問審査に先立ち,病院機能の現況調査,自己評価調査票,病院資料が必要となり,評価者はそれらの情報を把握して,訪問審査に臨むこととなる.訪問審査においても,必要な書類が整備され,確認できる状態になっていることが重要である.

 

リハビリテーション部門評価の視点

 安藤徳彦・根本明宜
 Key Words:リハビリテーション機能評価 チームワーク インフォームドコンセント カンファレンス 診療録の一元化

内容のポイントQ&A
Q1. リハ部門に必要な人員と施設・設備・機器は?
 リハ部門の施設基準は日本医師会発行:改訂診療報酬点数表参考資料の636,495頁に記載されている.しかしこれは最低基準を示す必要条件で,病院の規模と特性に対応する人員・施設がないと十分とはいえない.急性期リハではリスク監視機器と救急機材の常備と使用訓練が,回復期以降では職業前評価・訓練と在宅生活復帰支援体制が重要であろう.
Q2. リハ科の診療録と帳票で問題になる点は?
 多数職種の複雑な記録の一元化は困難だが,情報の共有は共同作業の至上要件である.リハ全職種の開始から終了までの評価・治療・総括などのすべての記録は診療録と共に一元化して共有されるべきである.生活環境の記録が遺伝子情報以上の守秘対象だとする根拠はなく,関連全職種の記録を一括管理して,情報の散逸・漏洩の完璧な防止策を構築することも求められよう.
Q3. 一般病院でのリハ部門評価の要点は?
 (1)受審病院の多くでリハ科医師は基準も満たしていない.専門医師の不在は対象疾患の偏在を招き,治療内容の向上を阻害している.(2)リハでは評価・計画立案・進行管理がチームで行われ,記録され,結果が把握され,説明・同意と主体的参加が常識だが,これを満たさぬ病院も多い.
Q4. 付加機能として設けられたリハ部門評価の要点は?
 リハ部は部門内・病院全体・地域との連携が密で,非対象とした患者にも終了後の患者にも問題解決への支援が行われ,患者家族への対応がリハ科医師を中心にチームで行われ,患者の治療への主体的参加が保証され,看護職の組織的な参加があり,記録は一元化され,成果を水準向上に役立てる体制があることなどが求められている.


機構の評価を受けた経験から
総合病院では(1)

 尾花正義
 Key Words:病院機能評価 総合病院 リハビリテーション部門 訪問審査

内容のポイントQ&A
Q1. リハ施設基準,リハ科入院・外来の規模,リハ医・療法士の構成は?
 当院は,理学療法・作業療法の総合リハ施設で,言語聴覚療法は(II)である.また,リハ科の入院専用病床は45床で,平日の1日外来患者数は約30人である.リハ科医師は常勤3名・非常勤1名,理学療法士は常勤10名,作業療法士は常勤5名,言語聴覚士は常勤2名・非常勤1名である.
Q2. 評価受審にあたって準備したことは?
 リハ部門各職員に対して,「病院の運営理念」・「リハ部門の役割・運営方針」を徹底したこと,リハ部門の業務マニュアルに関して再検討したこと,診療録の記載方法や保管方法などに関して検討したことなどがある.
Q3. 訪問審査で問題にされたことは?
 「事務管理」・「診療」・「看護」の各領域の評価調査者から,各領域に関連の深い事項(施設基準やリハ対象患者の疾患特性など)に関して質問された.

 

機構の評価を受けた経験から
総合病院では(2)

 川北慎一郎
 Key Words:リハ部門運営委員会 リスク管理 チームアプローチ 回復期リハ病棟 地域リハ連携

内容のポイントQ&A
Q1. リハ施設基準,リハ科入院・外来の規模,リハ医・療法士の構成は?
 454床,20科の総合リハ施設A(理学療法I,作業療法I),言語聴覚療法I.
 リハ科入院は回復期リハ病棟(48床)の5床程度で,リハ病棟入院でも原則主治医は各科医師が継続している.リハ科外来は2診で,全科からのリハ依頼を受け1週間約25人の新患患者のリハ処方をし,年間約1,500人のリハにかかわっている.
 リハ医は常勤の専任2名と非常勤1名,回復期リハ病棟の専従1名である.理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の常勤はそれぞれ10名,9名,3名で,常勤のMSW 5名と義肢装具士1名,非常勤の臨床心理士1名がいる.
Q2. 評価受審にあたって準備したことは?
 付加機能調査票(12項目)を提出する際の1年間の患者統計,業務統計,ADLの変化などを記載するためにリハ病棟(データベースあり)以外の患者についてカルテの見直しが必要で手間がかかった.訪問審査当日に確認する書類一覧(23項目)のうち,回診やカンファレンス実施記録の整備や個々の患者につき計画書を説明した記録などを整理するのに若干苦労した.
Q3. 訪問審査で問題にされたことは?
 リハ実施の流れがわかるフローチャートを示したうえで,急性期リハにおけるリスク管理の実際,回復期リハ中の総合計画書作成手順や説明,カンファレンスの実施状況,維持期や地域リハとの連携協力の具体的手順につき説明を求められた.また医療事故,褥瘡,感染症へのリハ部の取り組み体制,他科医師や他職種との連携努力,リハ治療成績を示す記録などにつき裏づける資料や説明を求められた.

 

機構の評価を受けた経験から
リハビリテーション病院では(1)

 及川忠人
 Key Words:基本概念 ケアプロセス

内容のポイントQ&A
Q1. リハ施設基準,リハ科入院・外来の規模,リハ医・療法士の構成は?
 総病床数167床すべてが療養病床で構成され,そのうち1病棟55床が回復期リハ病棟で,総合承認施設の認定を受けている.外来は地域の一般病院として,内科,外科,脳神経外科,整形外科,神経内科,小児科などのほか,リハ科があり,1日平均130〜140名の外来数である.リハ専門医は1名,リハスタッフは理学療法士10名,作業療法士11名,言語聴覚士3名,臨床心理スタッフ2名,メディカルソーシャルワーカー(MSW)3名の陣容である.
Q2. 評価受審にあたって準備したことは?
 職員に病院機能評価を受ける目的を理解してもらうことに労力を要した.正確な現状認識や課題の明確化など,評価を受審するまでの取り組みこそが,受審の目的であることを強調した.リハ部門については,リハモジュールについての試行調査が並列して実施されたため,訪問審査では問題になることは少なかった.
Q3. 訪問審査で問題にされたことは?
 リハ部門の充実を診療管理部門につなげることが求められ,内外の情報を統合化するシステムの整備の必要性,安全管理委員会の情報を改善に結びつける努力と工夫,診療情報やその統計解析ができるシステムの構築が急務であることが指摘された.またカルテ管理システムの充実が今後の課題になることが指摘された.

 

機構の評価を受けた経験から
リハビリテーション病院では(2)

 石井雅之・藤澤美由紀・遠藤 浩
 Key Words:病院機能評価 リハビリテーション病院 自己点検 連携

内容のポイントQ&A
Q1. リハ施設基準,リハ科入院・外来の規模,リハ医・療法士の構成は?
 総合リハ承認施設(I)で一般病棟46床,回復期リハ病棟52床,特殊疾患療養病棟57床からなる.
 外来診療科はリハ科,内科,脳神経外科,小児科,整形外科で,当該月1日平均入院患者数(リハ対象)78名,外来患者数(リハ対象)16名.
 リハ科医は常勤1名,非常勤6名,リハスタッフはPT常勤8名,非常勤2名,OT常勤5名,非常勤3名,ST常勤2名,非常勤1名である.(2002年2月22日受審当日)
Q2. 評価審査にあたって準備したことは?
 新設リハ病院として職員の意識改革とその標準化,病院の理念・基本方針を明示し,さらに全職員への周知徹底を図ることに多大な努力を要した.リハ部門としては他部署との連携を高めるため,カルテの一元化,独自のADL表の作成,記録・マニュアルの充実などを図った.
Q3. 訪問審査で問題にされたことは?
 組織:病院全体の組織,会議・各種委員会の位置づけおよび運営状況.
 連携:院内での各種専門職間の連携,院外紹介元・紹介先の医療スタッフとの連携.
 地域における役割:地域住民のニーズや地域社会情勢を組織として把握し,適切に対応できているか.(例)ボランティアの受け入れ状況など

 

現状の機能評価の問題点
−あるべきリハビリテーション部門評価

 園田 茂
 Key Words:病院機能評価 管理 地域 ADL

内容のポイントQ&A
Q1. 機構が求めるリハ部門とは?
 一般の病院機能評価と同様,すべての行為につき文書による説明・同意を要し,その記録が必要である.地域・在宅を強く意識することが要求されている.発症直後の急性期リハから地域に帰った後までに対応することが望まれている.
Q2. 機構のリハ部門評価の問題点は?
 マニュアルがあり,その実行形跡があればよいと思える.リハ部門がすべての病棟,職種と打合せを励行するのは時間的に困難である.急性期から地域まですべてに注力することも難しい.地域リハ広域支援センターへの思い入れが強すぎる.
Q3. リハの質を表すclinical indicatorとは?
 医療評価機構のリハに求める指標は機能障害,能力低下の測定と在宅復帰率である.能力の入退院差,入院日数で除した効率がより重要と考えられる.評価法は統一する必要がある.定性的側面,訓練量,転倒率なども検討すべきであろう.
Q4. リハ医が考える模範的リハ部門とは?
 模範的リハ部門は,臨床能力が高く,それを証拠立てるために評価を定常的に行っている必要がある.治療方法はある程度統一されていて,チームワーク,創造力,接遇,プライバシー,個人情報保護などに配慮されていることが望ましい.