特集 関節リウマチ治療Update

特集にあたって

 関節リウマチ(RA)は,自己免疫異常をもとに進行する多発性関節炎であり,寛解と再燃を繰り返しながら,関節破壊が早期から進行し,40〜50歳代の女性を中心に運動機能障害,ADL障害,QOLの低下を引き起こす難治性疾患である.多くの新知見にもかかわらず病因,病態は依然として不明であり,根本的な治療法はいまだにない.しかし,最近のRAの薬物療法や手術療法の進歩は著しく,薬物療法は,かってのピラミッド方式から,関節破壊の抑制を目標に,早期から強力な抗リウマチ薬を使う新しい治療体系に大きく変わりつつある.また,人工関節手術は20歳代の患者にも勧められるようになり,滑膜切除術は関節鏡により低侵襲なものとなった.早期発見,早期治療により寛解を目標とする最近の戦略転換は,2002年の日本リウマチ学会が「慢性関節リウマチ」を「関節リウマチ」に変更したことに象徴的に示されているといえよう.さらに,具体的な診療の指針については「アメリカリウマチ学会(ACR)ガイドライン2002年改訂」や平成16年の「関節リウマチの診療マニュアル(改訂版)」に詳しく述べられ,標準的治療が行えるようになってきた.
 RAの治療原則について,基礎療法,薬物療法,手術療法,リハビリテーション(以下リハ)の4本柱が包括的に行われることの重要性が従来から強調されてきた.疾患の理解,安静と運動の重要性,関節保護法,体調の維持法など,基礎療法としての患者教育は十分に行われているとはいえないのが現状であろうが,薬物療法や手術療法については前述のような大きな進歩があった.
 さて,課題のリハについては,疼痛軽減,関節の保護と可動域維持,筋力維持,上肢機能の維持や装具療法,そしてADL指導などが行われてきたが,現状はいかがであろうか.日本リウマチ友の会2000年リウマチ白書によれば,リハを受けている患者は半数にも満たないし,その理由は,4割近くが医師から指導も話もない,というものである.また,リハに望むことは,家庭でできるリハの指導が39%,リウマチのわかるPT・OTが欲しいが17%,さらにADL指導,自分にあった装具があげられている.一方,診療の現場では,整形外科,リウマチ科などRAを診療する医師とリハ科の連携は必ずしも円滑とはいえない状態であり,「できあがった障害」が対象であるため,必要なリハ医療を十分には実施できないでいるのが現状ではなかろうか.また,PT・OTについても積極的にRAに関心を示すものは少ないようである.
 以上のような背景から,大きく変わりつつある最近のリウマチ診療に,リハ医療が遅滞なく対応できることを目的に今回の特集は企画された.RAの課題は広大であるが,日常診療の手がかりとなる項目に絞り,(1) ACRとわが国のガイドライン,(2)早期診断と評価,(3)最近の薬物治療,(4)早期からの運動療法,という構成になった.
 筆者の先生方からは,主張の明快なわかりやすい論文をいただいた.時宜を失せず,今こそRAの早期からのリハに多くの読者が取り組まれることを期待する.

(編集委員会)

 

オーバービュー
関節リウマチの治療ガイドライン

 龍 順之助
 Key Words:関節リウマチ 治療 ガイドライン アメリカリウマチ学会 薬物療法

早期診断と評価

 広畑俊成
 Key Words:早期関節リウマチ リウマトイド因子 抗CCP抗体 QOL mHAQ

内容のポイントQ&A
Q1. 早期診断の可能性とそのポイントは?
 ACRの改訂RA分類基準は発症早期RAに対して特異性は高いが感度が低い.日本リウマチ学会による早期RAの診断基準,厚生省早期リウマチ疫学調査研究班の診断基準はともに感度・特異度の面では十分とはいえない.早期診断マーカーとしては,リウマトイド因子,CARF,抗CCP抗体などがあるが,早期診断にはRAでない疾患をRAと誤って診断してしまうリスクがある.
Q2. 臨床経過・予後予測の可能性は?
 現段階では遺伝的背景からRAの正確な予後を予測することは困難である.
 抗CCP抗体やIgM-RFは臨床経過の予測のマーカーとして有用である.また,早期RAの治療予後予測には血小板数が有用な指標になると考えられる.さらに,越智らは,血中のC1q値・手指部のX線上の進行度などでRA患者を3群に分類できるとしている.
Q3. ADL,QOLの評価法は?
 骨破壊の評価法としては,Steinbrockerのstage分類とLarsenのgrade分類が用いられる.機能障害の評価法で広く利用されているのが,Steinbrockerらのclass分類であるが,このclass分類は大まかなもので,実用的なADLやQOLの評価法としては,HAQ(およびその簡略版のmHAQ)やAIMSが用いられる.


薬物治療

 川合眞一
 Key Words:関節リウマチ 選択的COX-2阻害薬 ステロイド 抗リウマチ薬 生物学的製剤

内容のポイントQ&A
Q1. 薬物療法の歴史と最近の考え方は?
 関節リウマチ(RA)の薬物療法の歴史はアスピリンなどの非ステロイド抗炎症薬に始まるが,最近では抗リウマチ薬を中心に治療が組み立てられている.
Q2. 選択的COX-2阻害薬の功罪は?
 選択的COX-2阻害薬は重症消化管障害を減らすことはできたが,腎障害は減らせない.逆に,一部の薬物で心筋梗塞が増えることが明確となった.
Q3. ステロイドの功罪は?
 ステロイドは強力な抗炎症効果を有するが,加えてRAの関節破壊の進行を抑える効果が示されている.一方,長期的な使用は骨粗鬆症などの重篤な副作用を惹起する.
Q4. 抗リウマチ薬の使用法は?
 抗リウマチ薬はRA発症早期から使うべきある.効果が不十分なときは,他の抗リウマチ薬を追加または変更する.その後は疾患活動性の指標と副作用をモニターしながら投与を続ける.メトトレキサートとサラゾスルファピリジンは世界的に広く使われている標準薬である.
Q5. 生物学的製剤の導入は?
 生物学的製剤の有効性は高く関節破壊阻害効果も知られているが,従来薬の抗リウマチ薬にはない副作用も知られている.加えて,かなり高価であることもあり,原則として従来薬に効果不十分または無効例に適応となる.


早期からの運動療法

 椎野泰明
 Key Words:早期関節リウマチ 運動療法 介入時期 治療 効果

内容のポイントQ&A
Q1. 早期からの運動療法の適応は?
 「できあがった障害」の治療は,ほとんど効果を認めない.そこで治療効果が明らかに認められると思われる早期からの運動療法こそ適応がある.
Q2. 運動療法の介入時期は?
 介入時期は,評価の結果,問題点が描出されたときである.とくに関節リウマチの早期には“痛み”のため,筋力低下や関節拘縮などの廃用症候群が頻発する.障害が可逆的な時期の治療を逸してはならない.
Q3. 運動療法の内容は?
 内容で大切なのは,形態異常,社会心理学的問題,運動機能などの評価と,その結果,描出された問題点に対する治療である.すなわち,安静,リラクセーション,伸張運動,筋力増強,関節可動域運動などである.
Q4. 早期の運動療法介入の効果は?
 今日までのわが国の報告をみる限り,信頼性,妥当性,客観性などを満たした運動療法の効果判定基準がないため,早期に運動療法を介入することの効果は明確でない.