特集 脳卒中急性期診療Update

特集にあたって

 脳卒中急性期における診療では,画像診断を中心とする検査や薬物治療は大きく変化しつつある.リハビリテーション(以下リハ)関係者もこれらの進歩に応じてどんな急性期リハを行うべきか問われている.本特集は脳卒中急性期におけるupdateな診療の知識を学び,いかにリハの臨床の場に反映できるかという視点から企画された.
 画像診断はPET,SPECTをはじめとして近年大きく進歩した分野である.入院後早期に画像診断を行い,早期診断,治療の選択にと結びつけることが必至な時代となりつつある印象を受ける.MRI,CT,エコーなどおのおのの診断法の特徴と限界をよく知っておくことが的確なリハ治療に要求されよう.
 薬物については,欧米で急性期脳梗塞への標準的治療となりつつあるt-PA静注法がわが国では未承認である一方で,脳保護薬のなかにはわが国のみで承認されているものもある.いずれにしても効果の検証には国際的なエビデンスの蓄積が必要であり,その動向には絶えず注目しておかなければならない.
 一方では,急性期診療のシステムづくりも急務とされている.ここでは香川県の一次救急病院「おさか脳神経外科病院」の例をとらえてシステムを考えていただきたい.そこでは,入院直後の画像診断,血栓溶解療法を含めた急性期治療が行われ,入院当日からリハが開始されている.急性期治療と急性期リハにはシステムが必要であることを再認識し,リハ科側から脳外科などへの働きかけが生まれることを期待したい.
 最後に,「急性期リハの実際」は急性期リハ草分けの両先生の新春対談としてまとめてみた.なぜ急性期リハは必要か,わが国で十分に浸透しない問題点は何か,臨床上のポイントなどが整理されているので,臨床の現場で役に立つし,読者の疑問にも答えた点を多く含んでいよう.多少の表現が異なっていようと「急性期がリハのゴールデンタイム」であり,「重症例,高齢者にこそ急性期リハが求められる」ことは両先生がともに強調するところである.
 本特集が読者諸兄の日常診療にいかされることを願っている.

(編集委員会)

画像診断の進歩

 中川原譲二
 Key Words:急性期脳梗塞 神経画像診断 脳血管病変 脳組織障害 脳循環障害

内容のポイントQ&A
Q1. 画像診断の最近の進歩(トピックス)は?
 脳血流SPECTやMRIを用いた虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)あるいはこれに相当する領域(tissue at risk)の同定は,急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の適応判定に際し有用である.また,進行性脳卒中におけるtissue at riskの同定は,急性期血行再建術の適応判定に際して必要となる.MRI(T2WI)による脳内微小出血(microbleeds)の診断は,血栓溶解療法に伴う脳内出血のリスク評価に役立つ.
Q2. 血管病変の画像診断は?
 MRI検査中に短時間で行われる迅速MRAは,責任血管病変の非侵襲的評価法として有用性が高いが,狭搾度を過大評価する.CTAによる評価は,特に頸動脈の狭窄病変の診断・治療を進めるためなどに限定される.DSAは侵襲性が高いが,その診断精度は格段に高く,脳動脈の閉塞部位や側副血行路についての詳細な検討が可能となる.血管エコー検査により,頸動脈アテロームプラークの性状についての情報が得られる.
Q3. 脳組織障害の画像診断は?
 CTでは超早期脳虚血病巣をearly CT signとして捉えることが可能で,その臨床的意義は急性期の血栓溶解療法の適応を決定する際の重要な判断根拠とされていることである.MRIでは拡散強調画像(DWI)により脳梗塞の超早期病巣(ischemic core)の検出が可能である.
Q4. 脳循環障害の画像診断は?
 脳血流SPECTでは,脳虚血域内のischemic penumbraに相当する領域を定量判定することができる.汎用性の高いCTでは灌流(perfusion)CTを追加することにより,血栓溶解療法の安全性や有効性を高めることが可能である.MRIでは拡散強調画像(DWI)と灌流強調画像(PWI)の併用によるdiffusion-perfusion mismatchの診断がischemic penumbraに相当する領域をtissue at riskとして見出すうえで有用である.


新しい治療薬と適応

 米田行宏
 Key Words:脳卒中 脳梗塞 血栓溶解療法 脳保護療法 抗凝固療法

内容のポイントQ&A
Q1. 血栓溶解療法は?
 急性期脳梗塞の有望な治療法として期待されており,国際的には,(1)発症3時間以内のt-PA(組織プラスミノーゲン・アクチベーター)静注法,(2)発症6時間以内のPro-UK(プロウロキナーゼ)局所動注法の有用性が認められている.欧米ではt-PA静注法が承認されているが,わが国ではいずれも未承認であり早期承認が期待される.
Q2. 脳保護療法は?
 脳保護療法には,(1)神経細胞保護薬剤,(2)低体温療法(hypothermia)の2つが注目されている.脳保護薬として,フリーラジカル消去薬エダラボンがわが国のみで承認されている.脳低温療法も期待されているが,脳卒中に対しては試験的段階にある.
Q3. 抗凝固療法の併用は?
 急性期脳梗塞に対する抗凝固薬の有用性は国際的には証明されておらず,出血性合併症が懸念されている.しかし,進行性脳梗塞や心原性塞栓症に対してはヘパリン静注法が用いられることが多く,脳血栓症にはわが国のみで承認されている選択的抗トロンビン薬アルガトロバン静注法が推奨されている.


脳卒中急性期診療システム
−おさか脳神経外科病院の取り組みから

 森脇恵太・難波孝礼・苧坂邦彦
 Key Words:急性期診療システム ブレインアタック 7つのD MRI t-PA

内容のポイントQ&A
Q1. 救急診断システムに求められることは?
 患者搬送時から救急隊からの情報を脳神経外科専門医が判断する.患者到着から10分以内にvital signのチェック,酸素投与,心電図,神経学的スクリーニングなどを行い,MR診断を45分以内に終了させ,さらに薬剤投与,手術療法などを60分以内に開始する.
Q2. 診断に基づく治療の選択は?
 “Brain Attack”が疑われる患者では,vital signが許す限りMR診断を早急に行い治療方針が決定される.脳梗塞の場合,診断によりとるべき治療が変わる.
Q3. 急性期診療・リハの具体的な取り組みは?
 “Brain Attack”と診断された患者に対して,入院当日にリハ依頼が出される.クモ膜下出血患者の座位,立位訓練は手術後に担当脳外科医とのカンファレンスにより開始されるが,その際,脳槽ドレーン・脊髄腔ドレーンの有無により訓練内容の変更がなされることはない.“Brain Attack”急性期の治療の成否により初期の患者の状態は大きく変化するが,残った障害に対するリハ方針には変わりない.


新春対談
急性期はリハのゴールデンタイム

 三好正堂×石神重信