特集 他院に学ぶリハカンファレンスのあり方・進め方

特集にあたって

 リハビリテーション(以下リハ)従事者においてカンファレンスを行うことは基本中の基本であり,カンファレンスをしてないことはイコール,リハの質が低いといった固定観念すらある.カンファレンスの重要性は,厚労省が行う病院監査や病院評価機構が行う評価にも反映されているが,カンファレンスの中身についてまで言及することは稀で,病院ごとに実情に合わせて行っているのが現状と思われる.カンファレンスの理想を掲げることは難しいが,限られた時間のなかで最低限,議論すべきことがあり,特にゴールについてのコンセンサスは重要である.一般論としての機能予後をベースにして,医学的・社会的問題も加味したゴールを見極める.リハにおけるインフォームド・コンセントの基本事項でもあり,それによって各スタッフは全体のリハプログラムのなかでの自分の役割を自覚できる.
 従来,リハカンファレンスはリハ専門病院の専売特許のような存在であり,多くのリハ専門病院で,その形態・内容は成熟しているものと思われる.しかし成熟は反面,マンネリ化を生じ,ゴール設定・プログラム内容も類型化してしまい,はたしてそれが最良であるのか疑問すら抱かないといった事態にもつながる.定式化が目的のクリニカルパスでさえ,絶えず改正していくことが重要と言われ,リハカンファレンスも「他院に学び」,新機軸を取り入れていくべきである.多くの病院ではリハ医がカンファレンスを主催しているが,担当スタッフが一同に会する切磋琢磨の機会なので,魅力あるカンファレンス,またスタッフの質向上に資するカンファレンスにすることはリハ医の責務と考える.
 本来,リハが目指すゴールは個々の患者で1つのはずだが,病院が急性期,慢性期,そして間を埋める回復期と区分を余儀なくされている昨今,病院の役割区分によってリハを担う陣容は異なり,ゴールの置き方も違ってきている.特に急性期病院のリハは複雑で,多様な医学的問題を解決しながら,変化する機能障害を見極めて,短期決戦リハを行わなければならない.介護保険サービスの早期導入を念頭に置かなければならないこともあるし,回復期への転院を考える場合には転院先のリハの質や空床情報も知らなければならない.カンファレンスで情報交換をしながら絶えずリハプログラムを見直すことが必要となる.
 急性期病院では在院日数短縮が至上命令となりつつあるなか,目に見える成果,すなわち理学療法中心の移動能力改善に主眼が置かれ,それに対する診療報酬上のインセンティブも設けられている.一方,回復期病床はどうかというと,現時点では在院日数短縮の波はおしよせていない.だからと言って,リハカンファレンスの意義が低い訳ではない.急性期病院リハが普及するなか,むしろ急性期病院ではできないリハが求められてくるのではないかと思われる.十分な作業療法・言語療法の組み入れは当然のことながら,個々の患者のニードを適切に反映したカスタムメイドのリハプログラムを,カンファレンスを通じて開拓していく必要がある.しかし,医療の範疇でリハを行う限りはEBMの観点は忘れてはならず,効果の少ない過剰なリハ,あるいは徒労に終わるリハは避けなければならない.また在宅療養が無理だといって,安易に介護保険施設につなぐことは厳に戒めるべきで,在宅に移行するための緻密なアレンジをカンファレンスで計画していく必要もある.そうでなければ,回復期病床の社会的存在意義は薄れていくと思われる.
(編集委員会)



オーバービュー

リハカンファレンスをとりまく現状

 石田 暉
 Key Words:リハビリテーション カンファレンス チームアプローチ


大学病院では I

 佐伯 覚・千坂洋巳・白山義洋・蜂須賀研二
 Key Words:カンファレンス リハチーム コミュニケーション ゴール設定

内容のポイントQ&A
Q1. 当院で行っているリハの実態と特徴は?
 当科は大学病院の診療科であるが,大学医学部の独立した講座でもあり,臨床面にとどまらず,教育・研究機関としての特殊性を併せもつ.リハ医12名,リハ部(PT 6名,OT 3名,ST 1名)よりなる.リハ科病棟は専有の20床を有し,リハ科外来の1日患者数は155人である.診療はリハ医学全般のほか,特殊専門外来を併設している.疾患は,脳卒中・外傷性脳損傷,神経筋疾患,切断など多岐にわたる.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
 週に1回,患者1人あたり15分程度で2〜3人,主治医,リハ医,担当スタッフ,看護師,MSWが出席して実施している.カンファレンスでは,問題点の抽出,ゴール設定,治療プログラム,入院期間,社会福祉サービスの利用などを討議検討している.リハチームを構成する要員が多いため,各専門職種が一体となって機能できるよう,情報の共有化・明確なゴール設定を徹底し,集団としての意思統一を図っている.
Q3. カンファレンスの現状と問題点,今後の展望は?
 チームアプローチの手段であるカンファレンスが目的化したり,形骸化する危険性がある.カンファレンスは,リハチーム医療の実践を映す鏡である.効果的なカンファレンスのためには,チームの組織化にも時間を費やすことが必要である.


大学病院では II

 安保雅博・殷 祥珠・高橋 仁・高田耕太郎・宮野佐年
 Key Words:カンファレンス リハチーム コミュニケーション ゴール設定

内容のポイントQ&A
Q1. 当院で行っているリハの実態と特徴は?
 当大学は4つの附属病院を有している.他の附属病院に総合リハ施設として30の専有ベットがあるため,特定機能病院である当院ではリハ科の専有ベットはない.よって,主に他科からの依頼患者のリハを施行している.リハスタッフは,リハ専門医2名,理学療法士10名,言語聴覚士1名よりなる.依頼は,脳卒中・頭部外傷,神経筋疾患,切断,二分脊椎,人工関節置換術後など非常に多岐にわたる.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
 依頼の約8割を占める神経内科,脳神経外科,整形外科と週に1回定期的にリハカンファレンスをおこなっている.カンファレンスでは,安静度の確認,問題点の抽出,リハでのゴール設定,入院期間の確認などを中心に検討している.特に脳神経外科や神経内科の患者においてリハ効果が十分期待でき在宅へとつなげられうる症例は早期に,積極的に当科の関連病院で継続的にリハ訓練ができるように配慮している.
Q3. カンファレンスの現状と問題点,今後の展望は?
 カンファレンスで検討する人数が多いため繁雑になる危険性がある.リハ医が常にしっかりしたリーダーシップを発揮しなければならない.幸いなことに現在のカンファレンスの体系で大きな問題は生じていない.しかしながら,当院では2003年4月より包括医療が導入され依頼件数が増加する傾向にある.よって,ニーズにこたえながらカンファレンスのやり方を変えていかなければならない.


一般病院では I

 岡田恒夫・杉原勝宣
 Key Words:リハビリテーション カンファレンス 一般病院

内容のポイントQ&A
Q1. 当院で行っているリハの実態と特徴は?
 地域の基幹総合病院のリハを行っており,急性期を中心に地域リハまで行っている.施設基準は理学療法II,作業療法II,言語療法IIであり,リハ患者は入院患者が一日150人,外来患者が50人程度となっている.リハ科の入院ベッドは10床である.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
 リハカンファレンス(週3回),神経内科・リハカンファレンス(週1回),整形外科・リハカンファレンス(週1回),脳神経外科・リハカンファレンス(月2回),小児科・リハカンファレンス(月1回),神経内科病棟看護師との情報交換(週1回)を行っている.リハゴールと期間の徹底を留意してカンファレンスを行っている.
Q3. カンファレンスの現状と問題点は?
 対象患者が非常に多いこと,急性期で患者の状態の変化が早いこと,リハカンファレンスに割ける時間が非常に限られていることが問題点である.配付資料を最大限に活用したり,要点を簡潔に述べるようにして有意義なディスカッションを短時間で行えるよう努力している.


一般病院では II

 松本茂男
 Key Words:カンファレンス クリニカルパス リハゴール アウトカム 機能的評価

内容のポイントQ&A
Q1. 当院で行っているリハの実態と特徴は?
 (1)リハ科ベッド数12床,(2)診療報酬改定で施行件数を大幅圧縮:入院83.4人/日・外来2.1人/日,(3)脳血管障害,大腿骨頸部骨折,脊髄損傷,下肢関節変性疾患などが多く,神経筋,呼吸器,循環器疾患,悪性腫瘍などによる消耗状態,切断などほぼ全般にわたる症例がある.(4)リハスタッフは常勤医師1,非常勤医師1,RPT 4,PT助手2,OTR 2,ST 1,看護師2名.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
 (1)頻度:原則4週に1回,(2)実施場所:入院外来;リハ訓練棟内,リハ科入院;病棟カンファレンスルーム,(3)1回あたりの人数:入院外来;30〜40人,リハ科入院;4〜8人,(4)1人当たりの時間:入院外来;1〜2分,リハ科入院;5〜6分,(5)参加者数:入院外来;約10人,リハ科入院;約16〜7人,(6)他科医師の参加は原則的に求めない.看護師は入院外来・リハ科入院とも,リハ科専任看護師が参加する.
Q3. カンファレンスの現状と問題点,今後の展望は?
 (1)現況と問題点:一患者あたりのカンファレンス施行回数は2〜4回,機能評価・能力評価の推移の把握にのみ偏り,リハ内容・リハ技術の検討が疎かになりやすい.改善には,リハ科職員の大幅増が必要だが,増員の獲得は至難の情勢.(2)今後の展望:リハの一連の流れがクリニカルパスとともに各科治療体系のなかに取り入れられること,リハカンファレンスの内容がEBMに基づき,効果的なアウトカムを生みだしていく場となること.


リハ病院では I

 高橋守正
 Key Words:リハカンファレンス 目的 病床区分 頻度 カンファレンス資料

内容のポイントQ&A
Q1.  当院で行っているリハの実態と特徴は?
・回復期リハ対象の入院患者は脳血管疾患が多く,なかでも地域の総合病院からの紹介患者が多い.
・整形疾患は当院で手術した症例が多く,神経変性疾患も常時入院している.
・一般病棟患者,療養病棟の間欠入院患者は当院外来からの患者が多い.
・療養病棟でも個別訓練を施行している.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
・複数の病床区分があるため,カンファレンスの目的,頻度が少しずつ異なる.
・カンファレンスの回数が多いため,カンファレンスの組み方に注意している.
・全職種とリハ医が必ず出席する.
・リハ(総合)実施計画書がカンファレンス用紙を兼ねる.
Q3. カンファレンスの現状と問題点,今後の展望は?
・開催時期が必ずしも至適時期に開催できないことがある.
・療養病棟には初回リハの患者,reconditioning対象患者,病院や施設の待機患者が混在しているため,カンファレンス頻度や進め方を統一しづらい.
・リハ(総合)実施計画書完成までカンファレンスが待てないことがあるため,今後配布資料の検討が必要である.


リハ病院では II

 大熊るり
 Key Words:カンファレンス 回復期リハビリテーション病棟 チームアプローチ 情報の共有化

内容のポイントQ&A
Q1. 当院で行っているリハの実態と特徴は?
 (1)リハ治療の実態:平成15年5月現在の病床数は157床で,昨年6月から本年3月までの入院患者数は416名,外来患者数は一日平均約60名となっている.疾患の種類としては脳血管障害,頭部外傷が8割を占めている.リハスタッフ数は,PT53名,OT47名,ST13名の計113名であり,すべての職種は病棟配属体制をとっている.
 (2)行っているリハの特徴:当院のリハの特徴としては,(1)徹底したチームアプローチ,(2)病棟訓練の重視,(3)リハサービスの365日提供体制,などがあげられる.
Q2. 我々が行っているリハカンファレンスは?
 (1)カンファレンスの現状:入院患者について行っているカンファレンスにはいくつかの種類があり,それぞれに開催時期や目的,患者1人あたりの時間などが異なる.参加者は医師,看護師,リハスタッフ,ソーシャルワーカーである.カンファレンスの資料は印刷物を配布するのではなく,電子カルテ上に各スタッフが記載するシステムをとっている.
 (2)カンファレンスで何を決めるか:短期・長期目標の設定,目標達成に向けてのアプローチ方法の検討,介助方法の統一のための情報交換,新たに生じた問題への対策の検討,退院へ向けた準備作業の確認などを行い,チームとしての方針を決定する.
 (3)運営のポイントと工夫は:(1)電子カルテシステムやリハスタッフの病棟配属体制をいかした各職種間での情報の共有,(2)サブリーダーによるカンファレンスのマネジメント,(3)カンファレンスの結果を踏まえた電子カルテ画面上でのリハ総合実施計画書の作成,などがあげられる.
Q3. カンファレンスの現状と問題点,今後の展望は?
 カンファレンス時間の短縮,情報の共有化による効率的なカンファレンスの開催,新人の教育などが大きな課題である.