特集 高齢者大腿骨頸部骨折へのリハアプローチ

高齢者の大腿骨頸部骨折
−いま,なぜ大腿骨頸部骨折か

 西村尚志
 Key Words:大腿骨頸部骨折 早期荷重 リハプログラム クリニカルパス

内容のポイントQ&A
Q1.  発生の状況と問題は?
 全国調査による推計では,1997年で92,400人であり,人口構造の高齢化とともに現時点では年間約10万人,2025年には約17万人に達すると予測される.大腿骨頸部骨折の急性期治療費は年間約1,300億円と概算され,治療費が現在のままであれば,2025年には2,600億円と推定される.効率的な急性期治療,受傷原因である転倒の予防,骨粗鬆症の予防・治療が緊急の課題である.
Q2. 治療法,リハプログラムをめぐるControversyは?
 早期手術,早期離床のための観血的治療が原則であり,全国調査結果では90%以上に観血的治療が選択されている.しかし,手術時期,インプラントの選択,荷重時期などについては試行錯誤が続けられ,最近では内側骨折に対する骨接合術を見直す報告や術後数日以内に早期荷重を試みる報告が増えている.
Q3. クリニカルパスは有効か?
 医師とコメディカルスタッフがチームを組み,早期手術,早期離床,早期荷重を実現する最適なシステムがクリニカルパスであり,その試行と優れた成績の報告が増えている.早期荷重の問題や骨折治療だけでは対応できない退院先の決定などは,今後の課題である.



高齢者大腿骨頸部骨折の手術療法
 片山直行
 Key Words:大腿骨頸部骨折 手術療法 高齢者 骨接合術 人工骨頭置換術

内容のポイントQ&A
Q1. 最近の治療方法の動向は?
 早期手術,早期離床が原則であるが,受診から手術までに内科的,麻酔科的チェックを行うことに数日を費やすことが多く,受傷後数日から1週前後の手術が多いと思われる.
Q2. 高齢者への手術の適応・不適応の見極めは?
 保存的治療を選択した場合,牽引の有無にかかわらず,看護面で支障をきたすことが多く,よほどの合併症がないかぎりまず手術適応となる.
Q3. 術式の選択は?
 受傷前の歩行能力の有無により多少の違いはあると思われる.すなわち内側骨折で人工骨頭か骨接合か迷う場合,歩行不能あるいは全身状態の悪い症例には骨接合を選択する.内側,外側骨折いずれの場合でも骨接合術は30分前後で終了し,輸血も不要なことが多いが,人工骨頭では時間的には40分前後と大差ないが,多少侵襲が大きくなり,輸血が必要になる可能性が生じる.
Q4. 手術時の合併症は?
 受傷から手術までの時間が短ければ術前牽引は不要であるが,外側骨折の骨接合で手術まで数日ある場合などは術前牽引による整復が重要である.しかし,痴呆を有する場合は牽引すら困難ということもあり,早期手術が必要となる.手術時間の短縮,出血量の抑制に努めるが,何よりも大切なことは,術前計画どおりに整復と固定を得ることである.また肥満,高脂血症,糖尿病,血栓症の既往,下肢静脈瘤,床上安静,悪性腫瘍などのリスクファクターを有する場合の人工骨頭置換術,人工関節全置換術では,特に肺梗塞に注意することが重要である.



高齢者の大腿骨頸部骨折のリハビリテーション
 山崎 薫・山梨晃裕・田島文博
 Key Words:大腿骨頸部骨折 クリニカルパス 転倒

内容のポイントQ&A
Q1. 発症の危険因子は?
 大腿骨頸部骨折は,骨の粗鬆化の進行と密接な関係にあり,脊椎椎体骨折とともに高齢者に好発する代表的な骨折のひとつである.また,高齢者の日常生活環境,生活習慣のなかに転倒と密接な関係にあるいくつか危険因子が存在することが知られている.
Q2. 患者の予後は?
 大腿骨頸部骨折患者の術後1年間での死亡率は約15%とされている.また,大腿骨頸部骨折患者の予後には合併症に対する治療を含めた手術後1年間のフォローアップが最も重要である.
Q3. ベッドサイドリハのポイントと合併症の管理は?
 受傷直後からのリハはその予後を決める重要な医療であり,骨折以外の全身に目を向け,早期離床に努める.合併症については深部静脈血栓症といわゆる廃用の予防につきる.深部静脈血栓症は整形外科医の医学的管理と術直後からのリハ開始で防止できる.
Q4. リハアプローチの実際は?
 両上肢,健側下肢に対して受傷直後より筋力強化訓練に努め,心肺機能強化訓練も行う.術後はできるだけ早期に起立・歩行訓練を行えば,特に特殊な機具・方法は必要ない.また,痴呆予防の観点からも作業療法も積極的に行う必要がある.基本的な日常生活動作を維持または再獲得するためのADL訓練が基本である.
Q5. 転帰へのアプローチは?
 骨折原因のアセスメントにより,退院前には施設職員・家族も含めた指導が必要である.



リハビリテーションから第一線治療への注文
 浅山 滉
 Key Words:大腿骨頸部骨折 ゴール設定 手術の時期 リハ治療

内容のポイントQ&A
Q1. どんな患者がリハに来るか?
 多くの場合,骨接合術を受けてリハ病院へ転院してくるが,受傷から手術までの待ち時間が長く,かつ,術後早期のリハを受けていない例が少なくない.
Q2. ゴール設定により治療法とリハはどう変わるべきか?
 完璧な整復と確実な固定法が確保された条件では,受傷直前の患者の身体能力が予後を規定する重要因子であり,予後の予測は可能である.それに従い,受傷前のレベルにいかに近づけるかを考えたプログラムを作る.
Q3. 遅れる手術はどんな障害(合併症)につながるか?
 多くの例で,骨接合術後の身体能力は大きく低下し,死亡率も高い.1日の安静で高齢者が失う機能は取り返すことが困難であることを,術者側が真摯に受けとめてはじめて,リハ側の努力の甲斐がでてくる.大腿骨頸部骨折は準緊急手術であるという認識にたち,周術期の全身管理のなかにリハが組み込まれていなくてはならない.
Q4. 限られたリハスタッフであっても最低限やるべきことは?
 骨接合術前後はクリニカルパスにより多職種スタッフが関与すべき項目が決まっていることが多いが,ベッドサイドでは全員が廃用症候群の防止に配慮する.ベッド周りに来たたびごとに患者に声をかけ,bridging体操,quad settinngやleg muscle pumping,ROM,両上肢のweight training的運動,深呼吸などを行う.
Q5. 望ましい大腿骨頸部骨折のリハ治療は?
 受傷後に搬入された施設は手術の評価,その実施,術直後治療処置の流れ(クリニカルパス)があるべきで,それに従って PT,OTを含めた関連職種が術者側と一体となって術前から共通の目標に向かって取り組むという医療が重要である.