特集 アルツハイマー病へのアプローチ

診断
 北村 伸
 Key Words:痴呆 記憶障害 SPECT 脳萎縮

内容のポイントQ&A
Q1. アルツハイマー病の診断基準は?
 アルツハイマー病の診断基準には,DSM-IV,NINCDS-ADRDA,ICD-10などがある.痴呆があり,徐々に悪化し,痴呆を生じる他の原因のないときにアルツハイマー病と診断される.
Q2. 鑑別診断はどのように?
 痴呆の診断には,うつ状態とせん妄との鑑別が必要である.痴呆の原因の鑑別は,痴呆の発症の仕方,経過,神経症候の有無,血液検査所見,髄液検査所見,脳波,画像所見などから行う.
Q3. 診断の流れとポイントは?
 まず痴呆であるかを診断し,次に原因の鑑別を行う.アルツハイマー病は,いつとはなしに始まりゆっくりと悪化する.神経症候はなく,CTとMRIでは脳萎縮所見を認め,SPECTとPETでは側頭葉,頭頂葉,後部帯状回の脳循環代謝の低下を認める.



内科的治療
 浦上克哉・谷口美也子・佐久間研司・和田健二・涌谷陽介・中島健二
 Key Words:アルツハイマー病 塩酸ドネペジル アセチルコリンレセプターα遺伝子多型 アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 抗ドパミン剤

内容のポイントQ&A
Q1. 内科的治療をめぐる最近の話題は?
 アルツハイマー病治療薬の塩酸ドネペジルがわが国でも発売された.塩酸ドネぺジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤でアルツハイマー病脳内で減少した神経伝達物質であるアセチルコリンを増やす.また根本治療となる可能性のある薬剤が研究開発中である.
Q2. 治療適応の見極め方は?
 塩酸ドネぺジルの適応は軽症から中等症のアルツハイマー病である.今後有効性を予知できるマーカーの開発が必要.
Q3. 治療法(薬物療法)とその効果は?
 塩酸ドネぺジルは対症療法薬であり,より早期例ほど効果が期待できるが,重症例でも効果がある場合もある.副作用の出現頻度は少なく,重篤なものはない.



非薬物療法
 朝田 隆・松岡恵子・金子健二
 Key Words:アルツハイマー病 非薬物療法 絵画療法

内容のポイントQ&A
Q1. 非薬物療法をめぐる最近の話題は?
 アルツハイマー病の治療の標的は,痴呆の中核症状である認知機能低下だけではなくQuality of Life(生活の質)にもある.前者に対する薬物療法と後者に対しての非薬物療法が相まって,いくばくかの効果が得られるのが現実である.そこで非薬物療法への期待が高まっており,さまざまな新しい方法が試されている.
Q2. 療法適応の見極め方は?
 患者のQOLを改善することを原則とし,患者の個別性,とくに本人の好みや痴呆の重症度にあわせた非薬物療法の選択が重要である.
Q3. 各療法の実際と効果は?
 比較対象研究などにより実証的に効果が示されたものは少ない.小規模な研究や事例研究で,わずかながら効果が示されているのが現状である.本稿では,非薬物療法(絵画療法,音楽療法,運動療法)によって一部の認知機能が改善した我々の試みなどを紹介する.



当院での取り組み I
−チームアプローチを中心に

 佐山一郎
 Key Words:痴呆医療 もの忘れ外来 チームアプローチ 認知機能 代償的方法

内容のポイントQ&A
Q1. 痴呆診療の実態は?
 もの忘れ外来を設置し,痴呆の早期発見を目指すとともに,入院が必要となる例については閉鎖型と半開放型の二つの痴呆病棟を使い分けて対応している.
Q2. 痴呆診療はどのように展開されるか?
 痴呆診療は,身体障害を主要な対象とするリハビリテーション医学と類似した診療展開が必要であり,チーム医療がその基本である.また,診断(病理・病型診断のほか,能力障害や生活上の障害・介護負担など)と治療が一体で提供される必要がある.
Q3. 痴呆診療の手段と方法は?
 問診や神経学的診療,画像診断などによる病型診断,日常生活動作,精神症状の評価を行い,それに基づいて治療薬や非薬物療法を選択する.
Q4. どんなアプローチを行っているか?
 痴呆性疾患全般に共通するアプローチがある.また,痴呆の病型診断が機能障害を特徴づけ,機能障害に応じたアプローチを可能とする.アルツハイマー病では,記憶と認知が主な治療対象となる.
Q5. アプローチの効果と課題は?
 薬物治療・生活訓練と代償的手段の導入により,QOLの維持・向上を図ることが可能である.今後,根拠(エビデンス)に基づく医療を積み重ねてゆく努力が一層求められる.



当院での取り組み II
−多様化するケア・リハのニーズと地域ネットワーク作りの試み
 渡辺 憲 
 Key Words:痴呆疾患治療病棟 ユニットケア 痴呆早期発見 痴呆進行予防 痴呆治療のネットワーク化

内容のポイントQ&A
Q1. 痴呆疾患治療病棟へのユニットケア導入の試みとは?
 アルツハイマー病で医療にかかる症例は増加するとともに,きわめて多彩なケア・リハのニーズへの対応が求められている.入院医療を行う病棟において,病期・病態の共通した症例を小人数でグループ化して,病棟内にサブユニットを設定して看護・介護・リハスタッフも半固定し,親しみがもてる対人関係作りを目標としたユニットケアを試行中である.重度の症例が多いなか,スタッフの意識改革ならびにリハの計画策定に有用である.
Q2. アルツハイマー病治療に関する地域ネットワーク作りとは?
 アルツハイマー病を始めとする痴呆疾患の治療・リハを主体とした地域における情報提供と医療連携が急務となっている.当院では,これらの役割を担う目的で,行政からの委託にて「痴呆疾患医療情報センター」を開設,運営中である.
Q3. 地域における新しいケア・リハのニーズは?
 今後,アルツハイマー病の進行予防,機能維持に関連した多様なリハの提供が,ことに早期の症例を中心に広がりをもって求められると予想される.