特集 パーキンソン病
     −最近の研究と治療のとらえ方

大脳基底核の機能
−パーキンソン病理解のために
 南部 篤
 Key Words:直接路・間接路 脱抑制 ドパミン 強化学習 定位脳手術

内容のポイントQ&A
Q1. 大脳基底核の神経回路は?
 大脳皮質と大脳基底核は,ループ回路を形成している.大脳基底核の入力部である線条体と,出力部である淡蒼球内節と黒質網様部を,直接路と間接路が結んでいる.
Q2. 大脳基底核の機能は?
 必要な運動のみを引き起こし,不必用な運動を抑制するという運動の選択を行っていると考えられる.また,大脳基底核が,運動学習に重要な役割を果たしてという説も注目を集めている.
Q3. パーキンソン病の病態は?
 黒質緻密部のドパミン作動性ニューロンが変性・脱落することにより,淡蒼球内節の活動性が亢進し,運動を引き起こせなくなった状態と考えることができる.
Q4. パーキンソン病の治療の動向は?
 不足したドパミンを補う薬物療法が主であるが,活動性が異常亢進している領域を破壊したり,電気刺激によりブロックする外科治療も行われている.



パーキンソン病の治療経過を学び直す
 近藤智善
 Key Words:パーキンソン病 治療ガイドライン 初期治療 進行期治療


内容のポイントQ&A
Q1. 最近の治療指針における早期軽症例への非薬物対応とは?
 患者や家族に対する教育,支援・援助,栄養指導などは状況に応じて適度な内容を適当な時期に提供することが大切である.
Q2. L−ドパ療法の問題点は?
 L−ドパ療法は最も重要な治療法であるが,運動合併症も生じやすい.他薬を有効に用い,L−ドパの欠点を覆いかくす治療の工夫が必要になる.
Q3. 治療開始時の第一選択薬は?
 年齢(70〜75歳),痴呆の有無を目安に,より若年齢で痴呆を伴わない患者ではドパミン作動薬が推奨される.
Q4. 進行期パーキンソン病の治療は?
 一層患者個々に適した「あつらえ」の治療が必要になる.非薬物的対応を含めた総合的対応でQOL向上を目指す.



パーキンソン病の外科治療
−現状と展望
 島 史雄・宮城 靖
 Key Words:パーキンソン病 定位脳手術 深部脳刺激療法 脳移植

内容のポイントQ&A
Q1. 定位脳手術の現状は?
 手術部位には,視床,視床下核,淡蒼球内節がある.視床は主に上肢の振戦に,視床下核と淡蒼球内節は躯幹や下肢の幅広い運動症状に適応される.温度凝固法と深部脳刺激(DBS)療法があるが,DBSはより低侵襲で,可逆性,可変性に富み,現在,広く普及している.
Q2. その他の外科治療の現状と展望は?
 過去に,副腎髄質,頸部交感神経節の自家脳移植が行われたが,生着する細胞が少なく,効果の程度と持続性に限界がみられた.胎児脳移植はより有効な治療法であるが,ドナー胎児脳の数や,免疫学的または倫理的な問題があるため外国の一部の施設でしか行われていない.今後,ドパミン産生細胞や神経栄養因子産生細胞株をカプセル化する移植法や神経幹細胞をドパミン細胞に分化誘導する脳移植の発展が期待される.



パーキンソン病のリハビリテーション

 山口 明
 Key Words:パーキンソン病 運動療法 大脳基底核の運動回路

内容のポイントQ&A
Q1. 運動療法などリハアプローチの長期的効果は?
 短期的効果も報告されているが,定期的リハ指導とhome exerciseの実践なくしては中長期的な効果も維持できない.
Q2. 病期Stageに応じたリハ技術は?
 最近の治療ガイドラインは早期からのリハビリテーション,生活指導が重視され,病気の進行を遅らせることが期待されている.早期運動療法プログラムは軽視されがちであるが,徐々にその意義も見直されてきている.
Q3. 外的刺激(視標,音刺激,音楽リズムなど)の応用は?
 外界の手掛かり情報をナビゲーターとして利用する試みが聴覚刺激・視覚刺激などを用いて行われており,運動前野の活動も高まることが報告されている.一定リズムの目標情報だけでなく,注意覚醒に関与する刺激が有効となる場合もある.また,付随意的運動反応の本症における出力の緩徐化に着目し,随意下での運動動作に分解して運動学習していく手法も検討されてきている.