6月12日(土),13日(日)の両日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて第28回日本顎咬合学会学術大会が開催された.

初日午前の特別講演では,Dennis P. Tarnow教授(ニューヨーク大)が,前歯部審美領域のインプラント治療において押さえておくべき生物学的背景について解説された.なかでも,進歩していくものと不変なものとを整理して臨床に望むべきとのメッセージは,インプラント治療にかぎらず,すべての歯科臨床におけるスタンスであると改めて感じた.またTarnow教授は,同日午後のセッション「デニスターナーに聞く,インプラント補綴」において,コメンテーターとして登壇され,気鋭の歯科医師5名のプレゼンテーションへの的確かつ示唆に富んだコメントを披露された.
「食育シンポジウム 食育と噛ミング30」では,向井美恵教授(昭和大),武井啓一氏(日本歯科医師会),由田克士教授(大阪市大),武井典子氏(日本歯科衛生士会),山崎富江氏(茨城県下妻中栄養教諭)が講演を行った(座長:安井利一学長・明海大).歯科界の行う食育について,向井教授が食育推進会議専門委員の立場から全体を,武井啓一氏が歯科医師会としての取り組みを,武井典子氏が研究をもとに発表する一方,由田教授,山崎氏が栄養士としての取り組みを述べた.それぞれの講演や,講演後の討論においても,両者の連携が重要であることが再確認された.
「歯科衛生士部門」では,「長期例から余地性を考えた歯周病治療」と題し,谷口威夫氏(長野県谷口歯科医院/歯科医師),山岸貴美恵氏(同医院/歯科衛生士)が登壇.谷口氏は,40年の臨床経験はすべて患者さんに教わったことから成ると解説.歯周治療のうち,とりわけ単根歯の治療は,歯科衛生士のみの力で十分治癒できる可能が高いと言及され,自院の歯周治療の流れやSRP時の原則などについて言及した.続く山岸氏は,初期治療の要となるルートプレーニングについて,歯科衛生士が目指すべきポイントを具体例をもとに呈示し,治癒までの過程をイメージ(予知)することの重要性やモチベーションの持たせ方等について解説した.
「歯科技工士部門」では,「咬合調整,咬合様式(一歯対一歯,一歯対二歯咬合など)咬合面形態等を含めた実践的咬合調整について」をテーマに,歯科医師2名,歯科技工士2名が登壇した(座長:齊木好太郎氏/東京都港区・ラボラトリー・オブ・プリンシピア).山影俊一氏(仙台市宮城野区/はぎの歯科・矯正歯科)は,オーラルリハビリテーションの補綴物製作の観点から,スプリントを用いた咬合調整法として「咬合診査・診断の段階でスプリントを6~8週間装着する」などの要点を解説した.山口周行氏(東京都中野区/シュウデンタルラボ)は,ラボサイドでのアプローチとして,咬合器機構を熟知することを強調.あくまで下顎限界滑走運動のみ再現できることを押さえ,補綴物製作にあたるべきだとした.桑田正博氏(愛歯技工専門学校)は「ピークとピークを設定してその間を連ねる」という造形行為の基本に沿った補綴物製作を意識するよう参加者へ伝えたほか,渡米時代のエピソードを交えながら,現在に繋がる金属焼付鋳造冠のルーツなどを語った.最後に本多正明氏(大阪府東大阪市/本多歯科医院)は,咬頭嵌合位の安定から適切な咬合面形態のあり方を考察する中で,咀嚼運動の動きを模型を用いた映像で示すなど,“わかりにくい”とされる顎運動と咬合を丁寧に紐解いた.
展示ホール内では2日間にわたってテーブルクリニックが行われ た.小山浩一郎氏(長崎県開業)が「歯内療法におけるCBCTを用いた根幹の形態把握とその治療の実際」と題して講演.歯科用コーンビームCTを用いることで根幹の形態などがより正確に把握でき,歯内療法の治療成績の向上に繋がっていることを,症例を提示しながら解説した.また,甲斐康晴氏(福岡県開業)は「インプラント治療を含んだ総合治療へのアプローチ」をテーマに,審美性とともに,食物が咀嚼できる口腔内の実現が必要だとして,咬合や歯冠形態を考慮しながら治療を行った症例を提示した.
2日目には「治療計画からメインテナンス」と題して,下川公一氏(福岡県開業),菅野博康氏(宮城県開業)の両コメンテーターを前に,松崎浩成氏(茨城県開業),中島稔博氏(福岡県開業),櫻井健次氏(兵庫県開業),安光崇洋氏(大阪府勤務)が各々の症例を提示.下川,菅野両氏からは厳しくも暖かいコメントが寄せられほか,会場に居合わせた本多正明氏(大阪府開業)からも鋭いコメントがあり,大きな盛り上がりを見せた.

メーカーシンポジウム2では,岩田健男氏(東京都開業)を座長に「審美と咬合の調和を求めて」と題して,石川明氏(東京都開業),田村勝美氏(総合歯科補綴研究所),小川洋一氏(東京都開業),岩田氏(東京都開業)の各氏が講演.小川氏は審美補綴における咬合平面の決定方法について,CT画像の解析を活用しながら解析し,岩田氏は審美治療に予知性を持たせるための咬合の要件と咬合治療における顎関節症への対応と鑑別診断法について,これまでの知見を整理して解説した.

メーカーシンポジウム3「これで納得! 抜歯即時埋入の「なぜ?に答える」 陥り易い臨床の落とし穴 ワースト20」では,林揚春氏(東京都開業),森田耕造氏(大阪府開業),吉竹弘行氏(大阪府開業),末竹和彦氏(長崎県開業),鈴川雅彦氏(広島県開業)が,「抜歯即時埋入のメリットは何でしょうか?」に始まり,「好ましい埋入ポジションはどのような位置ですか」「上部構造は連結ですか単独ですか」など,「抜歯即時埋入に関する20の質問」に答えた.5名の演者から1名が症例をもとにした回答を出し,それに対して別の演者がコメントを行うわかりやすい形式で,会場は熱気にあふれた.
「Hygienist~今 この時代に~」では,池田育代氏(奈良県・貞光歯科医院),鈴木朋湖氏(フリーランス),薄井由枝氏(東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野・非常勤講師)が登壇.池田氏は,歯科衛生士が歯科医師・歯科技工士と連携して取り組んだ症例を通し,歯科衛生士が補綴物や歯周組織の状態を把握し,メインテナンスを行いやすい補綴物の形態を提案していくこと,歯肉退縮などの変化を予測して情報提供すること等の重要性について言及した.また,鈴木氏は,“歯科衛生士は口腔内だけではなく,患者さんの全身的な健康状態や生活習慣をも把握すべき”として,メインテナンス・SPTにおける口腔内・全身的な着目点とケアのポイントを供覧,薄井氏は,自身の米国での臨床経験をもとに,人間工学に基づいた姿勢の保持方法やインスツルメンテーションの実際について解説を加えた.
公開フォーラム「かむことは食育の入り口 ~幸せをかみしめて!! よくかめば,キレない,ボケない」では,佐藤 弘氏(西日本新聞社),増田純一氏(マスダ小児矯正歯科医院/歯科医師),武井典子氏(日本歯科衛生士会/歯科衛生士),石井克枝氏(千葉大学教育学部教授),鈴木 豊氏(キューピー株式会社代表取締役),塚本末廣氏(福岡歯科大学/歯科医師)が登壇.佐藤氏の講演では食,噛むことを前提とし,生活や命の大切さを語った.増田氏は,小児カリエスの症例から,それに伴う吸引力,唇や舌などの機能発達の遅滞を提示し,食,歯,顔などの関連性に言及した.武井氏は,噛むことがダイエット,がん予防,認知症,糖尿病などに関与していることを示唆する様々な実験の結果を発表した.石井氏は,学校教育における食教育とおいしい食事とはどういったものかを解説した.鈴木氏は,自社の介護食や流動食の開発を通して,改めて気づかされた食の奥深さを語った.塚本氏は,自身の母親の症例を紹介し,中心静脈栄養法が口腔およびの全身機能に与える影響を解説.そして,中心静脈栄養法から経口摂取に切り替えた義母の症例を示し,口から食べることの重要性を説いた.
