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日本老年歯科医学会第27回総会・学術大会 開催される
 6月17日(金)~19日(日),アスティとくしま(徳島県立産業観光交流センター・徳島市)にて,「口腔から超高齢社会の明るい未来を切り開く~口腔が果たす役割の再確認と啓発~」をメインテーマに,日本老年歯科医学会第27回総会・学術大会が開催された(大会長:市川哲雄氏/徳島大).

 大会2日目の特別講演「摂食嚥下機能と障害」では,椿原彰夫氏(川崎医療福祉大学学長)が登壇.摂食嚥下の機能形態学的なメカニズムを解説しながら,最新の知見や報告を紹介.超高齢社会における摂食嚥下障害の実情と併せて,歯科医療職のかかわりにより摂食嚥下障害が回復可能であることを示した.

 シンポジウム1「口腔機能と全身機能低下、フレイルとの関係を考える」では,平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター研究所),渡邊 裕氏(国立長寿医療研究センター),菊谷 武(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック),松尾浩一郎(藤田保健衛生大学)が登壇.
 平野氏(「オーラルフレイルの概念構築の経緯」)はまずオーラルフレイルの定義と概念を解説したうえで,介護予防事業にオーラルフレイルの観点から歯科医療職が関わることの喫緊性を述べた.
 渡邊氏(「地域在住高齢者の口腔機能および全身機能の低下とフレイルの関係について」)は,舌や唇の機能低下が軽度認知症の早期発見に利用できる可能性を示しながら「患者や家族に口腔のことをいかに“自分事”にしてもらうか」への働きかけが,今後の予防の鍵となることを述べた.
 菊谷氏(「歯科診療室からオーラルフレイルを考える」)は,「摂食嚥下障害」に至る一歩手前の状態を表す「口腔機能低下症」の定義を紹介.口腔機能低下症への歯科のかかわりによって摂食嚥下障害が回復可能であることから,今後は歯科医院レベルからのアプローチが需要になることを示した.
 松尾氏(「高齢入院患者における口腔機能低下と全身状態との関連性」)は,急性期病院における口腔機能低下と全身疾患の関係を示す研究結果を報告し,低栄養だけではなく感染症等を防ぐためにも歯科から予防的・治療的アプローチを行う必要性を強調した.
 シンポジウム2「認知症高齢者の意思決定支援に関するエビデンスを考える」では,枝広あや子(東京都健康長寿医療センター研究所),園田 茂氏(藤田保健衛生大学),杉澤秀博氏(桜美林大学),服部佳功氏(東北大学),白山靖彦氏(徳島大学)が登壇.まず枝広氏が認知症に対する歯科界の最新の動向を紹介し,認知症患者への適切な理解と対応が求められていると述べた.
 園田氏(「認知症―意思決定支援のヒント」)は,認知症患者の意思決定能力を測ることの難しさを示しながら,意思決定に関わる様々な要素や測定法等の紹介を交えて「意思決定とは何か」を提起した.
 杉澤氏(「透析患者の意思決定:歯科治療における認知症高齢者の意思決定支援の定式化へのヒント」)は,透析患者の意思決定の例を提示しながら患者側の意向と医療者側の理解の齟齬を示唆し,患者や家族と日ごろから意思疎通を図ることの重要性を述べた.
 白山氏(「高次脳機能障害者に関する意思決定支援の定式化に向けた報告」)は,臨床における「患者の同意」という行為に対して多くの医療者が誤った知識をもっている実情に触れ,患者が適切な治療を受けるための意思決定支援の定式化が医療界全体に求められていると解説した.
 服部氏(「認知症高齢者の歯科医療における意思決定:その現状と課題」)は,認知症患者と歯科医療職との間に生じる意思決定の臨床的問題について,具体例を用いながら紹介.現状と課題をまとめながら,歯科界にも基準化が必要であると改めて強調した.
 歯科衛生士シンポジウム「老年歯周病学の確立を目指して」では,米山武義氏(米山歯科クリニック),永田俊彦氏(徳島大学),鈴木里保氏(米山歯科クリニック)が登壇.
 米山氏(「なぜ老年歯周病学の確立が求められるか」)は,高齢者の心身や環境に配慮した歯周医学が急務とされている現状を紹介.その中核となるのが歯周基本治療であり,歯科衛生士のかかわりが欠かせないと強調した.
 永田氏(「歯周病治療は糖尿病予防に貢献できる」)は,歯周病と糖尿病の関連性について最新の知見を交えながら解説.歯周病治療が全身の健康維持に貢献すると述べた.
 鈴木氏(「超高齢社会における歯科衛生士が進むべき新しい道」)は,自院の在宅における取り組みを紹介.歯科衛生士による歯周基本治療,口腔ケアで口腔機能が回復した在宅患者の実例を挙げながら,歯周基本治療のもつ可能性に言及し,聴講者にエールを送った.
 18日午後には入門セミナーが2題開かれた.
 最初は『口腔機能を診る1~咀嚼能力』として築山能大氏(九大)が登壇(座長/上田貴之氏・東歯大).咀嚼能力を計るさまざまな手段について,その手段の成り立ち・仕組みから解説.状況によっての各手段の使い分けや利点・欠点などが整理された内容で,聴衆の関心を大いに集めていた.
 続く『口腔機能を診る2~舌および周辺能力~』では吉田光由氏(広大)による「無歯顎でも咀嚼ができる患者に義歯は本当に必要なのだろうか」という問いかけから始まり,舌が嚥下に対してどのような働きをするのか解説され,舌と嚥下に関する今後の展望が語られた(座長/田村文誉氏・日歯大).
入門セミナーの築山氏
同じく入門セミナーの吉田氏
 19日の午前の若手ミニシンポジウム『未来老年歯科の白熱教室』(座長/寺本浩平氏・東京都)では横山雄士氏(東京都),渡部 守氏(新潟県),加藤智崇氏(福歯大),猪原 光氏(広島県)が登壇.それぞれ開業医や大学における老年歯科や高齢者診療への想いや情熱,成果や課題などを示し,若手がいかにして今後の老年歯科を支えるか,会場を交えての議論が盛り上がった.
 午後の教育講演は『高齢者の栄養』の演題で中屋 豊先生(四国中央病院)が講演.栄養の指標としてアルブミン値を利用することの是非をはじめとして,高齢者の栄養状態を診る際の注意点を解説し,聴衆の関心を集めていた.
 また,日本・台湾の老年歯科医学会の合同シンポジウム『高齢者の食べる機能と認知症を考える』では,台湾から林 嘉澍氏(陽明大),日本からは遠藤眞美氏(日大松戸)がそれぞれ登壇.林氏は自身の研究分野であるニューロイメージングを用いた,咀嚼時における脳の機能部位と認知症の関係を示唆する研究結果を示し,遠藤氏は認知症患者と臨床においていかに関わるか自身の体験を手がかりにそのヒントを示した.
若手ミニシンポジウムで発表をした4氏
教育講演演者の中屋氏
日台それぞれを代表する遠藤氏と林氏
 次回の総会・学術大会は2017年6月14日(水)~16日(金),名古屋国際会議場にて開催予定(大会長/櫻井 薫先生・東歯大).

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